第4話 栗 2nd その後

 そして、第3回目の重曹煮です。


 午後3時過ぎから始めたのですが、その頃には日が傾き明かりをつけました。


 第1回目に比べると色がだんだん薄くなってきて、ほのかにワイン色の煮汁になりました。


 仕上げの剥きに入るのですが、もう実が柔らかくなっているので力を加えて削ることはできませんでしたので、水に濡れても破れにくいキッチンペーパーで表面を拭うだけにしました。


 渋皮はまだ厚く残っていますが、私の気力体力はそこで尽きました。


 ジップロックに水を入れてその中に栗を放り込んで明日に持ち越ししました。


 水でふやけて柔らかくなっているのを期待して……。



 翌日、溜息をつきながら冷蔵庫に入れていたジップロックを出し、鍋に栗が浸かるくらいの水を入れて一煮立ちさせます。

 重曹を抜くためです。


 その水を捨てて、再度栗が浸るくらいの水を入れて煮たたせたら、今度は素焚糖を入れ20分くらい弱火で煮込みます。


 栗の渋皮煮です。


 出来たてあつあつの一粒を食べてみたのですが、渋皮も柔らかく、時々筋のような硬い繊維もあったのですがそれ程気にもならず噛んで食べられました。


 ですが、肝心の栗の風味は薄くなっていて甘みもあまり染みてない。


 もう、足元から崩れてへたり込みたい気持ちでした。


 あれだけ手間暇かけて作ったのに、これか、と心が乾燥して粉末状になり、北風に飛ばされました。



 まあこんな感じだったのですが、これで今年の秋の苦役を踏み越えたと思えば、そこそこだったのではないかと思うようにしています。


 苦役とは、春は筍、夏は冷やし中華、秋は栗、冬はおせちの準備のことで、毎年これをクリアすることで禊のように心身清らかになる気がします。


 皆様もそれぞれ苦役があると思います。


 料理に限らず、義実家へのお正月の挨拶だったり、定期テストだったり運動会だったり、社員旅行だったり忘年会だったり。


 他人からしたら大したことでもないことが、自分にとっては重い鉄球付きの足枷になるようなことがあると思います。


 始める前は気が重いですよね。あらゆる言い訳を捻り出してトンズラできればと考えます。


 ですが、これを禊と思えば、日々の自分の中で知ってか知らずか積み重ねていた業を、苦役を強いることで洗い去るいい機会となるのではないでしょうか。


 何はともあれ、栗のお陰で私の足枷は年末まで解除されました。



※追記

 渋皮煮はぶんぶんチョッパーに入れて荒みじんにして、豆乳、砂糖、塩を混ぜて栗かのこ風にしました。

 美味しくできました。

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