第2話 現
目を開けるといつもの、味気ない真っ白な天井だ。携帯は午後5時を表示している。
「またかあ」
目をこすりながら、夢の中と同じ言葉をあくびと同時に押し出す。
殺風景な部屋には絶賛使用中のベッド、テーブルとテレビ、あとはVRゴーグルなどの流行りのゲーム機がいくつかある。
それ以外には冷蔵庫と電子レンジが配置されているのみで、それ以外のものは塵1つ無い。
何かの治験でこの部屋の中で半年ほど閉じ込められる生活になって数日が経った。
最近よく、夢を見る。
しかも決まって、体験していないのに妙な懐かしさを感じる夢を。
その夢では必ず見知らぬ人物が1人、代わる代わる出てくる。
そして彼らは必ず、何かに困っているのだった。
幸いすぐに夢だとわかるのだが、あまりにも現実的なのだ。
実際に歩いている感覚もあれば、夢の中で自由に話すこともできる。
ただ、話すことはできるが、それはどうやら相手には聞こえないらしい。
あらかじめ決まった台詞しか聞いてもらえないといった方が近いかもしれない。
いろいろ試すために、出てくる人物を鼻同士が触れる距離で1時間ほど目をじっと見つめたり、彼らの耳元で罵詈雑言を高らかに歌い上げたりしても一切の反応が無かった。
彼らは皆、道端の石ころの方がよほど存在感があるかのように、目が合ってもいるにも関わらず、こちらに意識を向けないのだ。
今回の老婆の夢のような重い荷物を持っている人には「手伝う」という言葉をかけるといった、人助けになる行動が模範解答となっているようで、それに近い言葉をかけると彼らは急にこちらを意識して反応してくれるのだ。
あるいは時間にして2時間ほど経つと、人物の前まで体が動き、声が鳴り、勝手に人助けを始めるのだ。まるで、これが正解だとでも言うように。
そして人助けまでの一連の行動を完了すると決まって「感謝」の言葉をかけられる。そこまで到達すると夢から覚めるのだ。
自分の意志とは関係なく、RPGのような最適解を選ばされ続ける。
途中で夢と気づいても覚めないままに、出てきた人物を助けるまで終わらない。
出てくる人物が皆異なるように、困っていること、手助けの内容も似通ったものはあれど全く同じというものは無かった。
ただ夢の中はいつも、決まって午後5時前後の西日に目がくらむ、影を落とす時間帯に始まるのだった。
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