第33話 門番

「ふむ、まだ奥に潜るのか?」


13層を進み、14層を突破したところでゾルゴルスに問われた。


俺は怒っていた。

自分自身の無力さ。

不甲斐なさに。


「ああ、潜れるところまで潜る。次が最奥のはずだ。冒険者組合では森の迷宮は15層の迷宮と聞いている。」


「良い目だ。かなり濁り始めているな」


悪魔に褒められても嬉しくはない。

濁っている?

どういう意味なのだろうか。


意味はわからないが、俺の心が濁っているというなら当たっている。

短い期間だったが共に過ごした仲間が失われた。

伯爵に言われるままに再度死地に挑むことになった自分にも苛ついている。

結局なにも救えなかった。

グリン、ロゴス、ミーナ。

力が無い。

無力だ。

だからこそ俺は潜っている。

迷宮の奥深くまで。


格が上がっているのが分かる。

以前とは比べようもない霊力と魔力が身体を満たしている。

溢れているといっても良いだろう。

漲る力を感じる。

急速な格の上昇。

心の苛立ち。

自分自身でも乱れているのが分かる。

分かっているが止まれない。

力への渇望が俺を前に進ませる。


森の迷宮の最奥には、森の女王といわれる美しい妖精がいるらしい。

ダンジョンにとってどんな役割をしているのか、恐ろしい敵なのかなにも分からないが俺はこの鬱憤を何者かに八つ当たりのように投げつけたかった。


15層にはグリーンドラゴンに数匹遭遇した。

俺が従えているドラゴンよりも緑色で身体も小さく感じる。

やはり俺が倒した黒光りするような体色のグリーンドラゴンは特別だったようだ。

既に格の上がった俺たちのアンデット軍団の敵ではなかった。

倒したグリーンドラゴンも従えて最奥を進む。


俺のアンデット軍団は拡大し強力になっていくが、俺自身の霊力も魔力も無尽蔵にあるように底が見えない。

倒した魔物達の格を全て俺一人が掻き集めるように奪取しているようだ。

漲る力で森の魔物を蹂躙していく。


オーガのうち数体が進化をしてサイクロプスになっている。

ナイトシャドウウルフやエレメンタル、グリフォンも従えている。


巨大な扉の前に、薔薇の花びらで作られた鎧と剣を持つ騎士が扉を守るように立っている。

でかい3mはあるだろう。


「何奴だ」


問いかけられる。


「冒険者だ」


「ほう、冒険者にしては大所帯だな」


「森の女王に会いに来た。通してくれ」


「通すわけにはいかん」


「なら通してもらうまで、全軍かかれ」


アンデットの軍団が薔薇の騎士に押し寄せる。


「はぁっ」


薔薇の騎士が剣を振ると、巨大な薔薇の花びらが剣先から散らばった。


花びらに触れた魔物たちがスパスパと切り刻まれていく。


遠く離れている俺の元にまで強烈な花の香りがして目眩がする。

生身で近づくのは無理だろう。

なんらかの幻惑効果があるだろう花の香りだ。


アンデット軍団には香りによる幻惑効果は無い。

先発隊が切り刻まれる中、次々と死体を乗り越えて後続が突撃する。


ゾルゴルスは俺の隣から暗黒の魔力球を放っている。


「デスリザレクション!」


切り刻まれたアンデット達が蘇生して再度突撃を繰り返す。


「さて、根比べだ。こちらはまだまだ余裕だぞ」


「むぅ」


四方八方からの攻撃に、薔薇の騎士は良く耐えている。

薔薇で出来た鎧は思いの外堅かったが、何度も攻撃すると色が茶色に変質してきた。

基本的に、匂いで幻惑しながら戦うのだろう。

残念ながらアンデットの軍団に幻惑が効かないのが致命的だったようだ。


「む、無念…」


「デスリザレクション!」


素晴らしい手駒が増えた。

アンデット軍には効かなかったが、多くの生者に対しては、非常に強力な幻惑効果を持つ薔薇の騎士は有効な手駒と言えるだろう。


「主様、お名前を」


「ハルだ」


「忠誠をお誓いいたします」


「おう。ではローズナイトのロズと名付けよう。ロズ。森の女王のところへ案内してくれ」


「かしこまりましたハル様」


ロズは、巨大な門に両手を当てると、両手に緑の魔力を宿して、ゆっくりと扉を押し開いていった。


「どうぞおこちらに」


「ロズ、ありがとう」


俺は、ロズの案内に従って、森の女王の鎮座する玉座へと歩みを進めた。

アンデットの軍団は待機させゾルゴルスのみを従えてあとに続く。


森の女王の玉座までは、巨木が両端に並んでいる。

巨木の間から差し込む光は柔らかく玉座までの道を照らしている。


よく見れは、両端の巨木は全てエルダートレントのようだった。

何も言葉を発しないし、目を瞑ってはいるが、老練な威圧感が確かにそこにあった。


玉座に近づき森の女王の前でロズが止まった。


「女王様、我が主を連れてまいりました」


「エドワードよ、今まで良く使えてくれた。そして主が変わってもお主の礼節は変わらんな」


「主は変われども、女王様への恩義が消えたわけではありませぬ」


ロズと会話する森の女王。

冒険者組合では森の迷宮の最奥には、森の女王といわれる美しい妖精がいるらしいという説明を受けた。

今、目の前にいる森の女王は確かに気品に溢れた女性だが、既に高齢といって差し支えない容姿だ。


「良く来ましたね。強き者よ」


優しくも威圧感のある笑みで俺を迎える女王。

自然と俺は頭を下げた。


「この玉座まで人間が来たのは数百年ぶりの事ですよ」


俺は妖精の寿命がどれほどなのかは知らない。

だが、数百年という年月は妖精にとっても長い年月のようだ。


「それで、私に会ってどうしようというのですか?」


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