第32話 戦い

壮絶な戦場が目の前に広がる。


深緑の鱗を持つ巨大なグリーンドラゴンが、その威圧的な存在感で全てを支配している。

その巨体は、まるで動く要塞のようだ。

鋭い牙と巨大な爪が、ただならぬ力と破壊力を秘めているのを俺は知っている。

ドラゴンの吼え声は、まるで雷鳴のように周囲を揺るがし、その圧倒的な存在感に圧倒された。


一方、ゾルゴルスを中心としたアンデット軍団は、戦闘の準備を整えている。

スケルトンナイトたちは骨と鉄の鎧で身を固め、無骨な剣と盾を構えている。

その数は30体、彼らは静かに、しかし確固たる意志を持って前進する。

盾を隙間なく密着させ横一列になって慎重に進む。


ハーピーたちは18体、彼女たちの鋭い爪と突き刺すような目が、空中からの攻撃を予告している。

彼女たちの羽ばたきは、まるで刃物が空気を切り裂く音のようだ。


オーガの軍勢は35体、彼らはその巨体と圧倒的な筋力で戦場を支配しようとしている。

彼らの一撃は、岩をも砕く力を持つ。

そして、バンパイアバットの大群、50体が闇夜に紛れて飛び交う。

彼らの吸血能力のある鋭い牙と素早い動きが、ドラゴンを惑わせる。


最も注目すべきは、全身真っ黒な翼と角を持つ悪魔、ゾルゴルスだ。

彼の姿はまさに恐怖の化身。

その瞳からは冷酷さが窺え、その動き一つ一つが計算しつくされた破壊への渇望を感じさせる。


俺は、彼らを後方からじっくりと観察して指示を飛ばす。


戦闘は激しさを増していく。

グリーンドラゴンの火の息吹が森を焼き払い、スケルトンナイトたちは炎の中をじっくりと進軍する。

彼らの骨は黒く焦げながらも、ひるむことなく前へと進む。

生身の人間ならば燃え尽き、骨のみとなるところだ。


ハーピーたちは高く舞い上がり、空からの急襲を仕掛ける。

彼らの爪と嘴は、ドラゴンの硬い鱗を剥がしにかかる。

うっとおしそうに、ドラゴンが尻尾で追い払おうとするが、巧みに尻尾を躱し一枚ずつ鱗を剥がしていく。


オーガたちは地を揺るがすような足取りでドラゴンに迫り、彼らの巨大な拳が巨大な斧が空を裂く。

一方、バンパイアバットたちは翼を羽ばたかせながら、ドラゴンの目を惑わす。

そして、ハーピー達が剥がした鱗の部分に取り付き、吸血を始める。


その中で、ゾルゴルスは冷静に戦場を見渡し、最適な瞬間を見計らっている。

彼の動きは鮮やかで、まるで闇夜を舞う影のようだ。


そして、俺は軍団を指揮しながらも、ドラゴンに対する最終的な一撃を狙っていた。


そして俺は、ドラゴンの背中に大きな傷を見つけた。

それは、ハーピー達が鱗を剥がしバンパイアバットが吸血した部分だ。

そこには、ドラゴンの心臓に通じる血管が露出し、ドラゴンが動く度に大量の血が吹き出ていた。

俺は、そのチャンスを逃さなかった。


「ゾルゴルス!あそこを狙え!」


俺の指示を受けゾルゴルスは、翼を広げて空に飛び上がり、ドラゴンの背中に向かって急降下した。

彼の手には、黒い魔力が込められた魔力の暗黒剣が握られていた。

それは、ドラゴンの鱗をも切り裂く力を持つ武器だった。


ドラゴンは、ゾルゴルスの接近に気づいた。

首を後ろに振り返り、ゾルゴルスに向かって火を吐いた。

しかし、ゾルゴルスは、その火炎をかわすように横に滑り、ドラゴンの背中に着地した。

バンパイアバットとハーピーがドラゴンの顔に突撃する。

火炎の息吹を吐こうとするが、開いた口の中に、バンパイアバットとハーピーが自ら飛び込んでいく。

ドラゴンの尻尾には、オーガ達が取り付き、その巨体で尻尾を抑え込む。

そうやって出来た隙を突いてゾルゴルスは、暗黒剣を高く掲げ、ドラゴンの傷口に深々と突き刺した。


ドラゴンは、激痛に悲鳴を上げた。

その声は、森全体に響き渡った。


ドラゴンは、ゾルゴルスを振り落とそうと、背中をくねらせた。

しかし、ゾルゴルスは、暗黒剣を抜かずに、ドラゴンの背中にしがみついた。

彼は、暗黒剣をさらに深く刺し込み、ドラゴンの心臓を狙った。

深く差し込まれた暗黒剣の柄を、捻り、抜き、再び突き刺し、角度を変え、捻り、凄まじい出血に全身を血塗れににしてドラゴンの傷口を広げていく。


ドラゴンは、力尽きて地面に倒れた。

その衝撃は、地震のように大地を揺らした。

ドラゴンの血は、赤い川となって流れ出した。

ゾルゴルスは、ドラゴンの背中から飛び降り、その死体を見下ろした。

彼は、勝利の笑みを浮かべた。


俺はグリーンドラゴンの死体にゆっくりと近づいた。

死んでなお恐ろしいまでの巨体と威圧感だ。

近づいて良くグリーンドラゴンを観察すると、グリーンドラゴンの額に邪悪な気配を放つ黒い宝玉が埋め込まれているのを発見した。

グリーンドラゴンの肌の色と酷似している為にかなり近づかなければ発見は困難だろう。

それにしても、こんな恐ろしい魔物の額にどのような邪悪な方法をもって、この宝玉を埋め込んだのか、俺には想像もつかない。

ただ、これを持ち帰ればその先は伯爵が処理するだろう。


「カイザルさんこれ」


俺はカイザルに黒い宝玉を渡した。


「確かに受け取った。ご苦労だったな」


任務完了と共に、グレックもしくはカイザルに殺される可能性を考えて無かった訳では無いが、その心配は無さそうだ。


俺の背後で目を光らせているゾルゴルスの影響もあるのかもしれないが、今は考えるだけ無駄な事だろう。


グリーンドラゴンを倒したことで俺自身の格が飛躍的に上がったのも感じる。

ゾルゴルスの威圧感も増している。

俺のアンデット軍団全体の格が上がったようだ。


そして俺がこれからするべき事は決まっている。


「デスリザレクション!!」


俺は全ての魔力と霊力を注ぎ込むつもりでグリーンドラゴンに向けて蘇生の魔法を唱えた。


黒い霧がドラゴンを包み込み、霧の中からゆっくりと大きな巨体が身体を起こす。

確かな繋がりをグリーンドラゴンとの間に感じる事が出来た。


グレックとカイザルは、予想していない行動だったのか驚愕の表情でグリーンドラゴンと俺を交互に見ている。


「グレックさん、カイザルさん、オーガの軍団を15体ほど護衛で付けますので、先に伯爵に黒い宝玉を届けてください」


「お前はどうするんだ?」


「俺はこのまま、先に進みます。俺にとってこの迷宮には暗い思い出と後悔しかありません。俺自身の弱さとトラウマが刻み込まれた迷宮です。だからこそ、今、こうやって自らの軍団を強化しつつ、行けるところまで行ってみようと思っているのです」


「そうか、なら何も言わん。それに俺たちにその行動を止める力も無い事は今回良くわかった。死霊術師の恐ろしさもな」


「いろいろとすいません」


「いいさ、気をつけてな。そして厳しい任務だったが、俺たちが帰還できるのはお前のお陰だ。正直、3人でグリーンドラゴンに挑んで来いという任務を受けた時は間違いなく死ぬと思っていたからな」


「そうだな。家族との別れも各々済ませて来たんだ。帰れるとは思ってなかった。礼を言う」


「いえ、俺も任務でしたので、こちらこそ護衛していただいて安心感がありました。ありがとうございました。では、行きます。お二人も気をつけて」


そうやって、オーガ達に二人の護衛をさせ、迷宮出口まで送らせる。


俺は、後方にゾルゴルスとグリーンドラゴンを従え、前方にはアンデット軍団を配置し、更に迷宮の奥へと歩を進めた。

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