第30話 悪魔

ヨーコと美味いもの食べて、夜はハッスルして、満たされた。

心身共にフルチャージだ。


なにかモヤッとしたものが無いわけではない。


だが、そんな事は振り払って進もう。

やってやるぞ。


森の迷宮に行く前にグレックさん、カイザルさんと合流。


「改めましてハルです。よろしくお願いします。」


「カイザルだ。よろしくな」


顔中傷だらけのカイザルは、意外にも笑顔で俺に応対した。


「グレックです。よろしく」


間近にいるのに影の薄いグレックは陰気ながらも挨拶をしてくれた。


言葉少なく、森の迷宮に入っていく。


「死霊術師なんだろ?なにか手伝うことはあるかい?」


カイザルの言葉に俺は自信なく答える。


「実は、俺自信もこれから先のことは分かりません。教会の目が怖くて自分の力をすべて開放した事なんて無いですから。危ないと思ったら俺を置いて逃げてもらって構いません。」


「ああ、そんな事したら俺が伯爵様に処罰されるだろうからな、しっかりサポートだけでもさせてくれ。死霊術師は自らを守る事には長けてないだろ?防御面は俺達に任せて全力を尽くしてみろ。流石にドラゴン相手に俺達が役に立つかは分からんがな」


苦笑を浮かべながら話すカイザル。

彼らも決死の覚悟で来たのだろう。

流石にグリーンドラゴンを相手に生きて帰れるとも思ってないようだ。


「まずは、やれる事をやってみます。サモンアンデット」


霊力と魔力を解き放ち、紫の靄が森の迷宮に広がると、靄の中からスケルトンの軍団が現れた。

手には剣、そして鎧を纏ったスケルトンナイトの軍団が30体程現れた。


「ほう。こりゃ教会が禁忌の魔法とするのも分かるな」


グレックのつぶやき。


「デモンズゲート」


残った霊力と魔力をつぎ込んで、魔界と繋がる門を召喚する。

不気味で不可思議な巨大な門が地面からせり上がってくると、ゆっくりとその門が開かれる。


3m程の巨大な悪魔が巨大な門をくぐって現れる。

黒い翼、黒い肉体、黒い角、真っ黒な悪魔だ。

長い爪や恐ろしい牙も全て黒い。

そして真っ赤な瞳で俺の見つめている。


屈強な肉体と内包された凄まじい魔力と霊力の圧で押しつぶされそうだ。

怖い。

そして、取り返しの付かない事をしてしまったのでは?という後悔。

悪魔の一撃で俺達は粉砕されてしまうだろう。


グレックとカイザルを振り返ると、引きつった表情で身体を強張らせて硬直している。


「やってしまったかも知れません」


「まさかお前が召喚したんだ。制御は出来るんだろうな?」


俺の言葉にカイザルが若干震えた声で答える。


「分かりません」


「分かりませんだと!?」


「初めて使ったので」


俺の回答にグレックが呆れた顔をする。


「俺を召喚したのはお前なのか」


俺達の問答を聞いていたのだろう、黒い悪魔が俺に話しかけた。


「死霊術師のハルと言います」


「人の世に呼び出されるのは初めてだが、空中に漂う魔素が薄いんだな。それにしてもお前のようなヒヨッコが俺を召喚したのか?」


「は、はい」


「そうか大したものだ随分と研鑽を積んでいるのだろうな、召喚された魔力で2,3日は顕現してられるだろう。せっかくだ、お前と共に人間の世を観光させてくれ。人間の世での定着を安定させる為にも縁あるお前が名をつけてくれ」


名付け。

霊的にも特別な行為だと思うが考えてる暇はない。


「我、魔界より来た魔と繋がる者へ、死と繋がる死霊術師として命名する。ゾルゴルス」


俺とゾルゴルスの間に繋がりが出来上がるのを感じる。


「ほう、どんな由来がある」


興味深げにゾルゴルスが俺に尋ねる。


「俺の印象でそのまま名付けた訳だけど、「ゾル」は古代の言語で「隠された」や「暗闇」を意味し、神秘的で知られざる力を象徴してる。「ゴルス」は「支配者」や「王」を意味する言葉で、権威や力強さを表しているんだ」


「暗闇の王ときたか」


ニヤリと獰猛な笑みを浮かべて俺を見下ろすゾルゴルス。


「気に入ったぞ」


どうやら満足してくれたようだ。


「いま、俺達は森の迷宮という場所に来ている。これから下層に向けて進むわけだけど、11層にはグリーンドラゴンという強力な魔物がいるんだ。倒すことに強力して欲しい」


俺は、正直にゾルゴルスに状況を説明した。

悪魔には誠実にだ。


「分かった。所詮は暇つぶしだ、召喚してくれた礼にそのぐらいは手伝おう」


ゾルゴルスの同意を得たので、俺達は下層に向けて攻略を進めた。

攻略といっても、俺達はゾルゴルスのあとに追従するだけだった。


リーフラット、ワイルドボア、グリーンスライム、ツリーゴーレムなど低層の魔物は、ゾルゴルスの指先から出る黒い光に当たると爆散した。


中層に入り、トレントやシルバーフォックスなども黒く光る球を投げて瞬殺している。


どうやら無詠唱で魔法を使っているようだ。

スケルトンの軍団も役に立ってはいない。

打ち漏らした魔物が近づいた場合に、集団でタコ殴りにしている。


「なんだか、予想とは違った展開だな」


「そうですね。お陰でかなり俺の魔力も霊力も回復してきました。9層で一度休憩をとって、その後11層へ向かいましょう」


想像以上の快進撃にカイザルも安心した表情を浮かべている。




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