第27話 自宅にて

「おかえりなさいませ旦那様。いらっしゃいませお嬢様。」


屋敷に帰るとエミリーが迎えに出てきてくれた。


「ああ、ただいま。エミリー、今日から一緒に住むことになるヨーコだ」


「改めましてヨーコです。先日はお世話になりました。これから一緒に住まわせていただきます。よろしくお願いします」


「改めましてエミリーと申します。なんでもお申し付けください。ヨーコ様よろしくお願いいたします」


「ヨーコには、説明しておくけど、エミリーと庭で手入れをしていたジェイソンは俺が蘇生した死人なんだ。だからエミリーやジェイソンには、俺が定期的に霊力を与えなきゃならない。俺は死霊術師だから、これからヨーコにはいろいろ驚く事があると思うんだけど、勘弁して欲しい」


「私はハルの奴隷よ。何も気にすること無いわ」


「うん、それとヨーコに感じ取れるかどうか分からないんだけど、モーリスっていう死霊もこの家にはいるんだよ」


「そうじゃよ、よろしくなヨーコさん」


「えっと、死霊もいるの?少し悪寒がするのは死霊の影響かしら?」


「うん、モーリスはエミリーの隣でヨーコによろしくって挨拶してるよ」


「え?そうなの?全然見えないんだけど?」


「でも悪寒がするのはモーリスの影響だと思うよ。強い死霊だからさ」


「悪寒ぐらい問題ないわ」


ニッコリと笑うヨーコ。


「大した娘さんじゃのぉ。まぁ、数ヶ月も一緒に住めば、この娘の霊力も儂の霊力の影響で徐々に上がるじゃろう。霊力が上がれば儂の事が見えるようになるかもしれん」


「モーリスが、ヨーコも慣れれば悪寒もしなくなるし、モーリスが見えるようになるかもしれないってよ」


「そうなの?モーリスさん、よろしくね」


ヨーコはエミリーの右横に向けて頭を下げた。

モーリスはエミリーの左横にいるのだが、気持ちは通じただろう。


「旦那様。まずはお風呂の準備が出来ております。お風呂に入っている間に、お食事を準備させていただきます。ごゆっくりおくつろぎください」


「ありがとう。エミリー」


「夕飯のお食事は寝室の方にお運びしておきますね」


先の展開まで見越して、卒なく手配するエミリーに感服する。


「さ、ヨーコまずはお風呂でくつろごう」


俺はヨーコをエスコートしてお風呂へと向かった。


久しぶりにヨーコと生まれたままの姿で向かい合ったが、数日ぶりなのに凄く恥ずかしい。

俺はヨーコを座らせて、頭からお湯をかけた。

石鹸でゆっくり泡立てる様にヨーコの綺麗な赤い髪を揉む。

頭皮をマッサージするように指の腹でヨーコの頭を洗っていく。

手の間をすり抜ける細く柔らかな髪の毛の感触を楽しむ。

頭、うなじ、首筋、肩と柔らかく、すべすべな肌の感触を楽しみながらマッサージをするように洗っていく。


「ん、気持ち良い。ハルは洗うのがとても上手ね」


「ありがとう。痒いところとか無いか?」


「ん、大丈夫」


腕、背中、と洗って、腰、背中、首すじ、うなじ、頭と何度も往復するように洗っていく。


「さ、今度はこっちを向いて」


座ったまま、こちらを向くヨーコ。


「ハル。おおきくなってる」


「うん、ヨーコが魅力的すぎるからね」


俺は、ヨーコのおでこ、耳、鎖骨、と優しく洗っていく。


「私も洗ってあげるね」


「ひっ」


ヨーコの手が、泡をすくって俺の太ももに触れて、突然の事に変な声が出てしまう。


「ハル、かわいい」


顔が熱くなる。

きっとめちゃ赤くなっちゃってる。

でもしょうがない。

ヨーコ可愛すぎ。


「ヨーコ。駄目だ。我慢出来ないわ」


「だーめ。ゆっくりお互い洗いっこしよ」


ヨーコが立ち上がってキスしてくれた。

ぬるりと二人の絡み合う舌。

そしてゆっくりと離れる。

ぎゅっとそのまま俺を抱きしめてくれて、身体を滑らせる。

柔らかな身体が滑る。

石鹸の泡でヌメヌメと。

俺の身体を優しく包んで洗ってくれる。

何度か意識が飛びそうになる。


「はい、後ろ向いて」


ぼーっとした意識で言われるがままに背中を向ける。


「ハル。ありがとう。本当に頑張りすぎだよ」


ヨーコが背中から抱きついてきた。

背中に感じる柔らかな感触。


「俺、ヨーコを手に入れたくて無我夢中だったんだ」


「だからってドラゴンと戦うなんて無茶苦茶だよ」


「下層にいってグリフォンを倒すつもりだったんだ。だけどグリーンドラゴンが出てきてさ…」


「どっちにしても無茶だよ。そして、これからも無茶するんだもんね…」


「ああ、俺も伯爵にああまで言われちゃ引けないよ。ヨーコを守る為にも」


「ハルがいなくなっちゃうなんて嫌だよ」


「うん、でも死んじゃうかもしれない。だから本当はダンジョンに入る前に、ヨーコの奴隷紋を消して、本当の意味でヨーコを自由にしてあげたかったんだけどさ」


「ハル。知ってるかどうか分からないけど、奴隷紋って一度入ったらもう二度と消せないんだよ」


「うん。やっぱり消す方法は無いんだね」


「そう、だから諦めもつくし、奴隷になったら奴隷として精一杯やれるだけの事をして生きてくしかないのよ」


「俺はヨーコを大切にするよ」


「ハルみたいな人って珍しいんだよ。だから私はハルの奴隷になれてとっても幸せなんだ。これからもよろしくねご主人さま」


ヨーコが更に力を入れて俺を抱きしめる。

耳元で話されて甘い吐息がかかる。


「こちらこそよろしく、さて、湯船に入ろっか」


お互いにお湯で身体を流して湯船に入る。

俺の前に座るようにするヨーコ。


「ハルは何も聞かないんだね」


「聞かないって?」


「私の事。前にも言ったかもだけどさ、どうして奴隷になったとか、何年奴隷をしてたとか、そういう事を聞かないんだなって」


「うん。それはヨーコが話したくなったら話してよ。俺は今ヨーコがこうやって目の前にいるだけで幸せなんだ」


俺はヨーコをギュッと抱きしめる。

輝くような赤い髪に鼻先を押し当ててヨーコの優しい香りを嗅ぐ。

ああ、ヨーコの匂いだ。

ヨーコに会えた。

ヨーコと一緒にいれる。

想いが溢れて胸がいっぱいになる。


「ヨーコ」


「なーに?ハル」


「必ず帰ってくるから」


「うん、待ってる」


「俺、負けないから」


「うん、私も信じてる」


「だから、ずっと一緒にいてくれ」


「あはは、ずっと一緒に決まってるじゃない私はあなたの奴隷よ。心も身体もずっとずっとあなたのモノなのよ」


「うん。うん。ありがとう」


俺はさらにヨーコを抱きしめる。

細い肩に豊満な胸。

滑らかな素肌。

くびれた腰。

香り、声、眼差し、全てが愛おしい。

俺は、守り切る。

帰ってくる。

必ずグリーンドラゴンを倒して、もう一度この場所に帰ってくる。


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