第22話 報告

各層にある安全地帯でゆっくりと休憩をとりながら慎重に進んだ。

接敵を避け、何度も地図を確認し、避けられないトレントのみを遠距離からライフドレインで倒す。

木々が多い場所は、足元を根が出ていて、凹凸が多く歩きにくい。

ライフドレインで自らの体力を回復しつつ、スピリチュアルチャージでローザを回復する。

1層を抜けるのに平均で2日。

中層を抜けるのには10日ほどかかった。

トレント以外と接敵する事は無く進んできた。

マジックポーチの中の食料は無くなり、男爵家2男の大きなマジックポーチの中にあった食料を食べながら進んだ。



下層に入れば楽になるかとも思ったが、中層よりも敵の数が多い。

下層を進む際も、モスゴブリンの集落を避け、フォレストウルフの群れを避けた。


「単独の敵がいれば教えてくれ」


「かしこまりました」


後ろから歩いてくるローザは、酷い有様だった。

装備も壊れボロボロだった。

それでも必死に俺の背中を追ってくる。


幸いにもグリーンスライムやリーフラットのような敵としか接敵せず、ライフドレインで一蹴出来た。


俺達は無事にダンジョンから抜ける事が出来た。


「それじゃ、約束だ。首を出せ。少し痛むが我慢しろ」


俺は自分の指をナイフで切るとローザの首の奴隷紋に血を垂らす。

ローザの耳を傷つけ、ローザの血も奴隷紋に付ける。


主人と奴隷の双方の血が奴隷紋に魔力と共に反応していく。

奴隷紋の色が次第に薄くなり、ローザとの繋がりが希薄になっていき消えた。


「これで、お前は自由だ。あとは男爵家が判断するだろう」


「このあり様です。男爵家でも、約にも立たず、維持費だけが発生する奴隷など、奴隷商でも引き取り手は無いでしょう。主人を守れなかった私は殺される事もあるかもしれません」


ローザは静かに涙を流した。


「男爵家がどのように判断するか分からんが、命があって、どこにも行く宛が無いのならば、俺を訪ねてこい、この街の墓場の側に屋敷がある。墓場に隣接する屋敷は1件しかない、すぐに分かるはずだ」


後ろめたさを感じながらもローザに話す。

流石に貴族に目をつけられたくはない。


ローザを連れて、なんとか冒険者組合に辿り着く。


昼頃の時間帯だった為に、受付に人は少なかった。


「報告に来た。依頼は失敗した」


俺はグリフォンの素材を手に入れられる事が出来ずに依頼を失敗した旨を伝える。


「かしこまりました。下層の素材の回収依頼に関しては、失敗の報告に対してペナルティなどはありません。また挑戦してください。それで、後ろの方は?酷い怪我ですが…」


「ああ、ダンジョン内でオーガの集団に襲われている所を助けたんだが、既に主人は死んでいた。遺品はこれだ。他にもう一人奴隷が生きていたんだが、俺の相棒と一緒に11層に現れたグリーンドラゴンに殺された」


「11層に!?」


受付が驚いた顔をする。


「ああ、ユニーク個体だと思う、かなり黒光りした緑色だった」


「よく無事でしたね」


「この奴隷が水魔法の壁でブレスを防いでくれて助かったんだ。だけどその直後爆発が起きてな」


「炎のブレスに水の壁…水蒸気爆発ですね。ああ、それでその腕に…」


いろいろと納得したようで、深くは追求されなかった。

俺も語る事は少ない。

どさくさに紛れて逃走しただけだからな。


「これがこいつの主人だった男のマジックポーチだ、装備品など遺品になりそうなものも全部詰め込んである。主人に関する詳しい事は、この奴隷も置いていくから奴隷に質問してくれ。俺は、腹も減ったし、今は一刻も早く休みたい。もういいか?」


「かしこまりました。では、えっと…」


「ローザです」


「ローザさん、まずはこちらに」


受付はローザを医務室まで連れて行くようだ。


俺とローザの視線が交わるが、俺は頷いて別れを告げた。



屋敷に帰る。


モーリスが出てきたが、俺の様子を見ると絶句した様子で、そのまま消えていった。


エミリーは風呂を用意し、食事を用意してくれた。

余計な事は何も聞かれなかった。


俺のボロボロの装備、共に帰ってこなかったグリン。

消沈した様子。

全て察してくれているのだろう。


風呂に入り、食事をすると、いくらか気分が落ち着いてきた。

失ったものは多い。

喪失感も大きい。

だけど俺は生きている。

死ぬかと思った。

死が間近に迫っていた。

グリーンドラゴンの咆哮。

揺れる地面。

爆音。爆風。粉塵。


石鹸の香り。柔らかなベッド。満たされた腹。

生きていた。安全な場所に戻ってきた。明日が迎えられる。

喪失感よりも、大きな大きな安堵感に包まれて俺は眠りについた。


5日程、食べては寝てを繰り返した。

疲弊した精神もようやく少しづつ元に戻りつつある。


コンコン


「なんだ?」


「旦那様、お客様でございます」


エミリーが来客を告げる。


「誰だ?」


「冒険者組合からの使者との事でした。お手紙を受け取りましたので、本日はお帰りいただきますか?」


「いや、ちょっと待っててもらってくれ。着替える」


「かしこまりました」


冒険者組合は、雑に扱わない方が良い。

きっとローザ関係の事だろう。


俺は、急いで着替えると、手紙を開けてさっと目を通す。

男爵が隣の領地からこの街に来るらしい。

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