第20話 戦い

「レイスシールド!スピリチュアルチャージ!」

俺は、全員の防御力を上げ、霊力を注ぎ込む。


「ワオオオーン!!」


グリンがシャドウバインドの魔法でグリーンドラゴンを拘束しようというのだろう、暗黒の糸がグリーンドラゴンの周りに出現し拘束しようとする。


「今だ!」


ロゴスの掛け声で、シーグリム、ウルフリック、ナーグルの4人がグリーンドラゴンに向けて駆け出す。


「グアアアオオオ」


頭部に4人で集中攻撃を加えようとしたが、身体は拘束したものの首はまだ動くグリーンドラゴンは首を大きく振る。


「ぐあああ」


鋭い角がナーグルの腹部を切り裂く。


「こなくそ!」


切り裂かれながらも右目に向けて斧を振り下ろすナーグル。

右目に攻撃が当たる前に、ナーグルの右腕が角によって切り飛ばされる。

そのまま頭部から噛みつかれるナーグル。


「があああああ」


3mもの巨漢のナーグルを咥えたまま、グリーンドラゴンは首を上に向ける。

上を向いた口からは、ナーグルの下半身のみが見える。


柔らかそうな首に向かって、ロゴスが鉄鎚を左から振り抜き、ウルフリックが右側から大剣を振り抜く。


ローザは大きな水の刃を水魔法で作ると、グリーンドラゴンの顎のあたりに向けて飛ばした。


「ライフドレイン!」


俺もグリーンドラゴンの生命力を吸い続ける。


ロゴスの鉄鎚はゴインという音を響かせ弾き返された。

ウルフリックの大剣は、極太の首を切り裂く事は出来たが深い傷ではない。

ローザの水魔法は顎を狙ったがグリーンドラゴンが首を振っている為、狙いが外れてしまう。


グリーンドラゴンが大きな口を何度か開いたり閉じたりすると、ナーグルの下半身は消え、ドラゴンは次の獲物を探すように俺達をぐるりと眺め回す。


「グアアアアアオオオオンン」


大きく咆哮を上げると、口の中に炎が溜まっていく。


「ブレスが来るぞ!避けろ!ローザ!」


俺はローザの後ろに回り込む。


咄嗟にローザが巨大な水の壁を作り出す。


ジョアアアアと凄い音を立てて蒸発する水の壁。


「ローザ!お前の水の壁が頼りだ!」


更に水の壁が厚くなる。

蒸発した水の壁の水蒸気で辺りが霧のようになり、それは次第に濃霧となり視界が悪くなる。


ドガアアアアアン


突然の爆発。

凄まじい轟音と衝撃。

ふっ飛ばされ、背中が巨木に叩きつけられる。

続けて身体の前側へ衝撃。

俺の前にいたローザが飛んできたのだろう。

背中からずり落ちる俺と一緒にローザも巨木の下にずり落ちる。

土砂の粒と水滴を頭から無数に浴びる。

粉塵が舞い視界が悪い。

意識が飛かける。

気絶している場合じゃない。

水蒸気爆発?

駄目だ意識が混濁してる。

敵は?

味方は?

誰が生きてる?

ミーナやシーグリムは何処にいた?

グリンは?

ああああ。

逃げよう。

勝てない。

霧に紛れて逃げるしか無い。

撤退。

頭に浮かんだ2文字。

行動しなきゃ。

死ぬ。


「撤退だ!撤退!10層まで逃げろ!」


俺は力の限り叫んだ。


無い。

誰からも返答が無い。

胸が締め付けられる。


「グオオオオアアアアンン!!!」


今の爆発で倒せたんじゃないか?

淡い期待は、グリーンドラゴンの怒りの咆哮でかき消える。


「スピリチュアルチャージ!立てるか?」


ローザを回復させるが生者には通りが悪い。

ローザを揺する。

ローザの両腕が無い。

さっきの爆発で消し飛んだのだろう。

顔半分は酷い火傷。

スピリチュアルチャージで止血は出来たようだが、気絶しているようで反応がない。

俺はローザの頬を叩いたが目を覚まさない。

慌ててマジックポーチからナイフとポーションを取り出す。

ナイフをローザの肩に突き立てる。


「あああああっ」


目覚めたローザの肩からナイフを引き抜き放り投げる。

急いで肩の傷口、顔半分の火傷、両腕の欠損部位にポーションをかける。


「逃げるぞ!」


ローザの肩を抱いて立ち上がる。


「全員逃げろ!10層で合流だ!!」


静寂。

霧。

頭上から落ちてくる水滴と土砂の粒。

粉塵。


「グアアアアオオオオオオンン!!!」


返答を待ちたかったが、次のブレスが来るとしたら、この視界の悪さだ。

もう助からないだろう。

爆発が再度起こる可能性もある。


「10層で待っているぞっ!!」


俺はローザを連れて10層を目指す。


とにかく怪我人を連れて敵との戦闘は無理だ。

幸いにもグリーンドラゴンの気配のお陰なのか、敵の気配はまったく無い。

しばらく走ると、霧は晴れ、粉塵も舞っていない。

かなりグリーンドラゴンから離れることが出来たようだ。


俺は妖精から貰った魔法の地図を取り出すと、周囲の魔物を確認する。

10層までは敵との戦闘を避けて向かうことが出来そうだ。


「もう少しだ。スピリチュアルチャージ。生者に効きは悪いかもしれんが、少しはマシになるだろう」


「スピリチュアルチャージ」


ローザを回復した後に、念のため自分自身も回復しておく。

後頭部と背中から痛みが和らぐ事により、負傷していた事に気づく。

興奮状態で、自分の身体が負傷している事すら分かっていなかったようだ。

よく見れば、装備は壊れ、あちこちが血と泥で汚れいる。


「すいません、ご主人さま」


「会話は後だ。行くぞ」


地図を片手に、息を潜め慎重に進む。

呼吸が上手く出来ない。

失敗だ。

俺が無理をし過ぎたんだ。

過信していた。

上手く行き過ぎていた。

馬鹿野郎だ俺は。

グリンを撫でる感触が頭を過る。

視界が歪む。

泣いてる場合じゃない。

生きて戻るんだ。

黙々と進む。

身を潜め、息を殺し、足音を消して進む。

何時間も歩いた気分だが、実際にはそんな距離ではなかったはずだ。

俺は10層の安全地帯に辿り着くと安心感が一気に襲ってきて、前のめりにぶっ倒れた。

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