第19話 下層

「さて、出来ることだったな。俺は死霊術師だからな。主に死者の蘇生と強化、回復、あとは相手の生命力を奪う事が出来る。そしてこっちのグリンは闇に紛れて攻撃したり主に暗黒魔法を使える。牙で相手を毒状態にも出来る。ローザ、お前以外は全員死者で俺の従者となる」


「かしこまりました。ご主人さま。私は水・火・土の魔法を使うことが出来ます。得意な魔法は水ですが、魔法は好きです」


「3属性魔法か、エルフではそれが普通なのか?」


「エルフは風魔法が得意な者が多いのです。火の魔法を使うエルフは稀ですから、通常は2属性ほど使うエルフはいると思うのですが、私は、風魔法が使えませんし、里には居づらくて里を出たのです」


「そうか、俺としては風魔法とか関係なく3属性も使えるだけで凄い事だと思うけどな」


「ありがとうございます。ご主人さまの為に頑張ります」


「よろしくな。それで、ロゴス、シーグリム、ウルフリック、ナーグルの4人は近接戦闘が得意で、ミーナは回復魔法が得意という認識だが間違いないか?」


「間違いない」

「そうだな」

「俺は船の操舵も出来るぞ」

「私は薬学にも詳しいわよ」

「俺は力は誰にも負けない」


「良し、まぁお互いに出来る事が分かってるだけで戦闘は少し違うだろう。後は戦いながら調整していこう。下層に入った事がある奴はいるか?」


予想はしていたが、俺の質問に、誰も答えはしない。


「まぁそうだよな。下層に潜るような奴は冒険者の中でも猛者揃いだ。つまり俺よりも格が高い訳だから、こうやって死者として長期間の蘇生は難しかっただろうからな。それじゃ、全員が初の下層への潜入となるわけだ。魔物の強さも急激に強くなるというから注意して下層に進もう」


そう言って俺達は11層へと進む。

11層に入ると森は更に深くなり、木々も大きく森そのものが圧力を持っていた。


「ぐるる」


グリンが警戒の声を上げる。


闇が広がる。

これは、何度も見た光景だ。

グリンと同じ、ナイトシャドウウルフだろう。


「「「アオオーン」」」


複数の遠吠え。


「アオオオーン!」


グリンも遠吠えをする。

グリンの周囲の闇から、黒い狼の影が複数湧き出る。


一気に混戦になる。

襲いかかる黒い狼、迎え撃つ黒い狼。

そこに紛れて一際大きなナイトシャドウウルフが現れては消える。


「ウルフリック!!!」


ハゲ頭が宙を舞う。

落ちる前に、ナイトシャドウウルフが咥えて咀嚼を始める。

ゆっくりと倒れるウルフリックの胴体。


「みんな。背中合わせに円陣を!眼の前の敵を倒すんだ!」


「デスリザレクション!!」


霊気の霧が倒れたウルフリックの死体を包むと、ゆっくりと頭部が再生したウルフリックが蘇生する。


「悪い。油断しちまった」


「かまわん。今は目の前の敵に集中しろ」


闇に紛れて複数の黒いエネルギー弾が飛んでくる。

襲いかかる無数の狼。


グリンが一体のナイトシャドウウルフを捉えて、首筋に噛みつく。


「グルググアアア」


「よし!グリンそのまま抑えておけ!」


すかさずナーグルが斧で叩き潰す。


ザクッ!!!


ナイトシャドウウルフの肩口から、袈裟斬りに両断する。


ロゴスが肩を食いちぎられ、鉄の鎚を落としてしまうが、もう片方の手でナイトシャドウウルフの前足を捕まえる。


「チョロチョロしやがって、もう逃さねぇぞ!」


「ロゴス!そのまま!


ウルフリックが捕まえているロゴスの手ごとナイトシャドウウルフを大剣で両断する。


「落ちてる部位を拾って、くっつけろ」


俺の声に、ウルフリックが大剣を地面に差し、ロゴスの手と片腕を切断面に付けて待つ。


「スピリチュアルチャージ!」


霊気と魔力を注ぎ、回復をする。

やはり死者には通りが良い。


ローザが、土の魔法で地面から大きな棘を複数出して黒い狼を倒していく。


「きゃあああ」


円陣の中心にいたミーナの足にナイトシャドウウルフが闇から現れて足に噛みつき引きずり倒す。

足を引きちぎろうとミーナを咥えて首を振るナイトシャドウウルフに向けて、シーグリムが2本のナイフを突き立てる。


「グァアァルウル」


素早くミーナを離し、シーグリムを振り払おうと身体を回転させるナイトシャドウウルフに引きずられるようにシーグリムの足が宙に浮き、振り回される。


「死ね!」


ナーグルが斧を大上段から振り下ろしナイトシャドウウルフの首を両断する。

斬撃は少しずれたが、首を半分ほど切り落とす事に成功し、胴体からぶら下がるようになった首、胴体からは血が吹き出しゆっくりと倒れる。


「スピリチュアルチャージ!」


ミーナを含め、全員に回復を施す。


下層を舐めていた。

ナイトシャドウウルフ3匹にパーティーが壊滅しそうになった。

今の戦闘でかなり格が上がった事が分かるが、消耗が激しすぎる。

一度撤退をして、体制を整えてから再挑戦しても良いかもしれない。

そんな事を考えていたが、俺の考えをあざ笑うように事態は急変した。


「グアアアアアアオオオオオオオ!!!!」


巨大な木々が一瞬で燃え上がり、俺の右側に居たナーグルとミーナが炎に包まれる。

黒焦げになったナーグルとミーナがドサッと倒れた。


焼け焦げた木々を何本もなぎ倒される振動と爆音。

地面が揺れ立っているのも難しい。

振動も大きくなり、眼の前の黒焦げの大木が弾け飛び、灰が舞い視界が遮られる。


「グウウアアアアオオオオオンン!!」


耳が痛くなる程の吠え声で、舞っていた灰も消し飛んだ。


現れたのは巨大な体躯、大きな口に無数に生える牙、頭部から突き出た大きく黒い鋭い角、黒緑に輝く硬そうな鱗、爬虫類特有の感情を感じさせない瞳、極太の尻尾は地面をバンバンを叩き、大きな背中から生える羽を目一杯に広げて自分をより大きく見せようとし、こちらを威嚇する。


「グリーンドラゴン…」


ロゴスのつぶやき。


「ドラゴン?下層に入ってすぐだぞ!こんな所に出るなんて!」


俺の問い。


「ユニークモンスターってやつかもな。色が黒すぎる」


笑みを浮かべて戦闘態勢のロゴス。


「デスリザレクション!!」


ナーグルとミーナを霊気の霧が包む。


敵のほうが圧倒的な速度だろう逃げられるわけもない。

やるしかない。

やるしかないんだ。

悲痛な気持ちになりながらも、俺は両手を握り込んで巨大なグリーンドラゴンを睨みつけた。

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