第18話 今後の事
「喜ぶのは早い。おい、ミーナ。ローザの腕をくっつけろ。スピリチュアルチャージ」
更に霊力を注いでミーナを強化する。
短時間でも強化すれば回復魔法の威力に多少は影響があるかもしれない。
「分かった、やってみるわ」
真剣な表情でうなずくミーナ。
ローザの落ちている腕を拾ってきて、ローザの傷口に合わせると回復魔法を使いだす。
「ハイヒール!」
「スピリチュアルチャージ」
俺の魔法も合わせてかける。
なにかの足しにはなるかもしれない。
俺達は魔法をかけ続ける。
次第にローザの腕が繋がり始める。
「ハイヒール!」
「スピリチュアルチャージ」
何度目かの魔法の詠唱でローザの腕はなんとかくっついた。
切断されて間もない事、切断面が綺麗だった事、ローザの生命力、俺やミーナとの格の差。
様々な要因が良い方に働いたようだ。
「腕を治していただき本当に感謝いたします。ありがとうございます。ご主人さま」
怪我の治療の間で、ローザはかなり落ち着きを取り戻したようだ。
「こうやって、ローザに再会出来た事。私を蘇生してくれた事、感謝するわ死霊術師さん」
「ああ、紹介が遅れたな、俺はハルという、そしてこっちがグリン、そしてナグールだ。俺達はこれから下層まで行く、一度休憩をしたら、一緒に行くぞ」
「分かったわ」
「かしこまりました」
「パーティーメンバーになるなら、各々の能力を知っておきたい。こちらの紹介もするから、この後、他のメンバーも合流したら一度自己紹介を頼む」
「そうね。それは重要よね。了解よ。それよりも、この血まみれのローブをなんとかしたいんだけど良いかしら?」
「ああ、構わんが、どうするつもりだ?」
「マジックポーチの中に着替えがあるから着替えるわ」
「分かった。グリン、ナグール警戒を。安全地帯までは少し距離がある。着替えるならここで着替えろ」
「かしこまりました」
「警戒ありがとうね」
ミーナとローザは血まみれのローブを脱ぐ。
ローブの下は下着姿だった。
ローザの緑の長い髪がローブの下から現れる。
そしてその長い緑の髪から突き出た長い耳。
「エルフか?」
「はい。里を離れ旅をしていましたが、いろいろありまして今は奴隷になっています」
「そうか」
血にまみれて良くわからないがミーナはオレンジの髪をしていた。
こちらは小柄だが人間のようだな。
下着も着替えるのか裸になる二人。
裸になっても血で赤くなった素肌。
ローザは、ミーナと自分自身に水魔法をかけた、そしてお互いを洗い合う2人。
ローザはエルフだからなのか、透き通るような真っ白な肌。全体的にスレンダーだ。
緑の髪、緑の目、そして下の方も緑色だ。一言で言えば透明感のある美女だ。
ミーナは洗えばオレンジだと思っていた髪は金色だった。
赤い瞳、脱げば小柄ながらも、豊満で柔らかな曲線を書く女性らしい身体をしている。美少女と言って良いだろう容姿は気品がある。
豊富な水に濡れながらお互いを洗い合う。
濡れた肌、弾ける水、身体に張り付く髪の毛、ミーナの奴隷紋は死んだ事により消えたようだ。
ローザは奴隷として立場を弁えているのか、俺へ余計な質問はしてこない。
俺は二人が洗い合う姿をじっくりと見ている。
髪、首筋、背中、胸、太もも、足、入念に怪我などのチェックも兼ねてお互いに洗い合う。
水が程よく潤滑剤の役割をして、お互いの手が滑るように身体を撫でる。
汚れている部分は入念に手を動かし汚れを落とす。
艶めかしく動く2人の手が、凹凸に触れると凹凸の形が崩れ、その柔らかさをこちらに伝える。
汚れが落とされていき、きめ細やかな肌。
煌めく艶のある髪。
全てが一段と輝きを増して露となる。
身体を拭き、下着、ローブを着る。
艷やかでサラサラの髪の2人の美女と美少女。
この2人が奴隷?
こりゃ、高額だったろうな。
しかも若い。
片方は貴重なエルフで魔法も使えるときた。
そして片方は聖職者に多い回復魔法が使える奴隷。
金貨30枚どころの金額では無かっただろう。
いったいいくらしたんだ?
只者では無いぞこれは。
早まった事をしたかもしれない。
急速に俺の中で不安が膨らむ。
「お待たせいたしました」
「待たせてしまってごめんなさい。警戒もありがとう」
「二人を見ていろいろ考えてたんだが、主人はあの剣士風の男で間違いないな?」
「はい」
「ええ、そうよ」
「他の男2人も奴隷だったのか?」
「いいえ、一人は従者、一人は騎士よ」
不穏な言葉が出てきた。
「貴族か?」
「ええ、男爵家の次男ね」
「そうか、ちょっとお前達の容姿を見て、そんな気はしてたんだ。貴族じゃなければお前たち程の奴隷は買えないだろう」
「それは、そうかもしれないわね」
「私達を扱っていた奴隷商には、商人の方や冒険者の方なども購入にいらっしゃってはいましたよ」
「それは、大商人だったり、A級の冒険者だったりしただろうな。お前たちは普通の奴隷としては美しすぎるからな。だから前の主人もフードで顔を隠させていたのだろう。10階層で死ぬような実力でお前達のような容姿の女を連れていれば、必ずトラブルを招くだろうからな」
「確かに前のご主人さまは、私達に顔を隠せと頻繁におっしゃっていました」
ふむ。
知らなかったとはいえ、これは少し面倒な事になるかもしれないな。
とりあえず、遺品は貴族の家まで届ける必要があるだろう。
奴隷二人に関しては、緊急時だった為に契約してしまった話をするしかない。
ミーナの奴隷紋は消えている。これは似せて描くなりすれば、遠目で見ればどうにか誤魔化せるかもしれないが。
死因がまずい。
オーガに殺された事は、残った防具の傷で誤魔化せるかもしれない。
何よりもまずいのは俺のパーティーにナグールがいる事だ。
説明次第では俺が強盗まがいの事をして男爵家の次男を虐殺。
奴隷を奪い。傷ついた装備品を持って、男爵家からも礼を受け取ろうとする悪漢と受け取られる可能性がある。
いや、その可能性の方が高い。
ダンジョン内でそのような強盗があったとしても、法的には問題ない。
弱いやつは全てを奪われる。
それがダンジョンだ。
しかし、親としては、法で裁けぬものを納得しろ。
もしかしたら殺した仇かもしれない男を見逃せ。
そんな事はありえないだろう。
金の力を使って、どうあっても俺を抹殺しようとするだろう。
それは、勘違いであっても関係ない。
息子の死への弔いの為に、自分に納得させる為に、冒険者一人の命など軽いものだ。
「よし、ダンジョンから出たら、一度ローザとは奴隷契約を解除する」
「そんなっ!見捨てないでください!ご主人さま!」
「腕も治った事だし、最悪な事態にはならないだろう。お前は遺品を持って、貴族の家に行くんだ。俺と奴隷契約をされた状態で、お前が男爵の次男の死んだ状況を話してもなんの証拠にもならん。そして、奴隷であるお前が男爵の次男に攻撃出来ない事も確定事項だからな。オーガの傷に関しても信頼ある証言となるだろう。ミーナに関しては、首に大きな火傷を作って一緒に行け」
「分かったわ。死人だから感覚も無いし、信じてもらうとすれば、そうするしかないわよね」
「ああ、主人を守れなかったお前たちがどうなるかは男爵次第だが、ミーナに関しては、たとえ殺されても、ダンジョン外でのことならば俺が蘇生出来る」
「便利ねぇ。死霊術師も死人も」
「ああ、流石に槍で刺されるとかは血が出ない訳だから、一発で死人とバレて教会に払われる可能性があるから、万全な策では無いがな」
「私の予想では、男爵の家で、そんな事はされないと思うわ。隣の穀倉地帯が領地のレンハート男爵家よ。穏やかな性格の男爵が私達にそんな仕打ちをするとは思えないわ」
「分かった。とにかく、その辺の相談は一度ダンジョンを出てからにしよう。まずは下層に行って依頼を達成するのが先決だ」
「分かったわ」
「かしこまりました」
剣士風の男が持っていた大きなマジックポーチに装備品などを入れていく。
この大きなマジックポーチごと男爵家には遺品としてもって行くしか無いだろう。
そうして、俺達は合流地点へ戻った。
安全地帯手前から大柄な三人の人影が見える。
「おいおい、随分メンバー増えたんじゃないか?」
合流地点には既にロゴス達が待っていた。
「ああ、待たせたな。ちょっと色々あってな」
「そりゃいいけど、この人数で下層に潜るのか?」
「そのつもりだ、若干連携なんかに不安が残るからな。休憩をとりながら各々の出来ることを言い合ってから下層に挑もうと思ってる」
「分かった」
そうして、俺達は休憩の為に円を描くように座った。
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