第17話 遭遇

「ところで名前はあるのか?」


「俺はナーグルだよろしくな」


蘇生オーガはナーグルという名らしい。


「ハルだ。そしてこっちがグリン。これから下層まで潜る予定だ。頼んだぞ」


「分かった。強い者に従う。それオーガにとっては当たり前の事」


「グリンも頼んだぞ」


「ウォン」


闇を纏った漆黒のグリンが俺に擦り寄る。

既に俺よりも大きくなっているグリンの圧力で倒れそうになる。

グッと堪えて、両腕で抱えるようにしてグリンを撫でる。

もふもふで良い匂いがする。

暗い体毛で闇を纏っているグリンがだ、その匂いは陽だまりのように優しい匂いがした。



グリンが進化し、ナーグルが加わった俺達は中層では敵無しだった。

オーガ数匹は瞬殺。

ストームハーピーという雷を操る羽ばたく女怪鳥のような魔物も、高速飛行と羽ばたきによる強力な風圧攻撃や、雷撃を放つってきたが、グリンがシャドウバインドという魔法で、暗黒の糸を操り、敵の動きを封じ、落ちてきたところをナーグルが斧で倒す。

トレントという木そのものが動き出した巨大な植物の魔物も、圧倒的な力で攻撃するが、動きは遅いので、グリンがダークブラストという魔法で口から暗黒のエネルギーを放射しトレントの体力を削り、俺もライフドレインをつかって、ナーグルが斧で切り倒す事で苦もなく倒せた。


次々と襲いかかる中層の魔物を俺達は魔法の地図を見ながら効率的に倒しつつ進んでいく。

何よりも殲滅速度が早い。

本来、下層に住むというナイトシャドウウルフに進化したグリンの活躍が目覚ましい。

消えたと思えば敵の背後から強大な牙で攻撃、敵を拘束、遠隔からダークブラスト。更には遠吠えと共に暗黒の狼の集団を呼び出して敵を翻弄しながら倒していく。


途方もない数の敵を屠ったからか、俺とナーグルの格も少しづつだが上がるのを感じる。


10層と11層の境界にある安全地帯までたどり着き、俺達は野営をし、俺達はロゴス達を待つ。


俺はエミリーの作ってくれた軽食を食べて横になる。

ライフドレインによって体力などは万全だが、流石に精神的な疲れが溜まっている。

グリンとナーグルに警戒を任せ少し目を閉じた。


ゆっくりとまどろむ。


「ウォウ!」


グリンの声で目が覚める。

同時に聞こえる声。


「ぎぁあぁ」


かなり遠方のようだが、同じ10階層のようだな。

声が野太く無い。ロゴス達では無さそうだ。


「ふむ。どうするかな?」


様子を見に行くべきか迷う。


「ほっておけ、弱いものは死ぬ。あたりまえ」


ナーグルの言う事も一理ある。


「ウォン!」


グリンは気になるようだ。

しきりに声の方に向けてピクピクと耳を動かしている。

そして、俺も気になる。

この3人パーティーであれば10階層では大きな危険も無さそうだし、ロゴス達が来るまでの暇つぶしにもなるだろう。


「よし、行ってみよう」


「ウォフ!」


「分かった」


俺達はグリンを先頭にして、声の方に向かって行く。


途中でシルバーフォックスが少年の姿で現れたがグリンが瞬殺した。


声がかなり聞き取れるようになってきた。

森の隙間から遠目に広場が見える。


俺達も誘導された広場と同じようなオーガの狩り場だろう。

オーガは獲物を取り囲んで殺しやすいように、森の各所の木を伐採し狩り場を作っているようだ。


「盾を構えろ」


「魔法の弾幕をはれ」


「回復は無理そうだ」


「数が多すぎる」


「ぎゃぁぁ」


5人パーティーだろう。

怪我で動けなくなっている剣士風の男。

必死で剣士を守る盾を構えた男。

剣士に回復魔法をかける女。

魔法を放って牽制している女。

既に死んでいる小柄な男。


間に合うか、走ればオーガ達に気づかれる。

俺達はゆっくりと音を出さないように近づく。


相手はオーガ6匹。

死んでいるオーガが3匹。

どうやら9匹に囲まれ、なんとか3匹までは倒したようだ。


魔法使いが必死に火の魔法を放っているが、オーガは火傷しながらも突貫してくる。

盾の男に2匹のオーガから同時に斧が打ち下ろされた。


バキッ


「ぐああああ」


こちらまで音が聴こえる。

盾の男の腕の骨が折れたようだ。

肘のあたりから白い骨が突き出ている。


盾の男が崩壊したことで、一気に戦線が崩壊した。

そこからは一瞬だった。


盾の男の首に斧が振り下ろされ首が飛ぶ。

回復魔法をかけていた女が蹴り飛ばされ宙を舞う。

剣士風の男が潰され止めを刺される。

魔法使いの女の左腕が斧で切断されてボトリと落ちた。

絶叫と共に、魔法を唱えたのだろう、瞬時に魔法使いの女の周囲に土魔法で土塁が出来上がる。


「レイスシールド!スピリチュアルチャージ!」


グリンとナーグルに向け魔法を唱える。

防御力を高め、強化する。


「グリン!ナーグル!」


グリンは飛び出し、ナーグルは斧を振り上げ襲いかかった。


「ライフドレイン!」


俺は森からは出ずに、木々に隠れながらライフドレインでオーガ達の体力を奪っていく。


「レイスシールド!スピリチュアルチャージ!」


合間を見て、ナーグルに回復と強化を施す。


オーガ達の足元には黒い霧が立ち込め、その闇から攻撃しては闇に消えるグリンに関しては被弾すらせず一方的にオーガを攻撃していく。

グリンの攻撃した場所から、オーガの皮膚の色が黒紫色に変化し、動きが鈍くなる。

オーガはグリンの牙攻撃により毒状態になっている。

既に通常のオーガよりかなり格の上がっているナーグルは、弱ったオーガ達を斧で屠っていく。


「ライフドレイン!」

「スピリチュアルチャージ!」

「ライフドレイン!」


当然、俺にかまってる暇はオーガ達には無い。

俺は森の中から好きなだけ魔法が打てた。


一方的な戦闘は終わった。

小柄な男、盾の男、剣士風の男は既にダンジョンに吸収されてしまったようだ。

ダンジョンで寿命を迎えること無く、命を落としたものは、しばらくするとダンジョンに吸収されてしまう。

装備品だけが落ちていた。

回復魔法をかけていた女はまだ消えていないので、生きてるようだ。

土塁の中の魔法使いの女は生きてそうだ。


とりあえず俺は回復魔法をかけていた女に駆け寄る。

口から血を大量に流して倒れている。

3メートル近くあるオーガに、防具ではなくローブを着ている状態で思いっきり腹を蹴られていた。

内蔵が駄目になっているように見える。


「スピリチュアルチャージ!」


生者には効きが悪いが、気休め程度に効いてくれ。


「ぐふぅっぅ。がはぁっ。」


女が更に大量の血を吐き出す。


「ミーナ!!」


土塁を消して、魔法使いの女が、駆け寄ってきた。


「ロ、ローザ…無事で何よりだわ。今までありがとうね、これからは自由にいき…」


血まみれの口に微笑みを浮かべ事切れた。


「ミーナ!ミーナ!!!」


揺り動かされるが起きることは無い。

俺はミーナと呼ばれる女の首の奴隷紋を眺める。

奴隷を冒険者パーティーに加えるのは良く聞く話だ。

ローザと言われた女の首にも奴隷紋がある。


剣士風の男を守ろうとしていた盾の男も奴隷だったのだろうと予想する。

そうすると剣士風の男が主人だったのだろう。


俺はデスリザレクションを唱えるか迷う。

ダンジョンに吸収される前なら、死人として蘇生が可能ではある。

ただし、ローザという女に俺が死霊術師だと判明してしまう。


片手の魔法使い。

奴隷。

この女の未来も碌なものじゃないだろう。

魔法使いのローブからは緑の髪がのぞく、滴る水滴。

泣いているようだ。

仲間の死。

主人の死。

自分の未来。

嘆く事が多すぎるだろう女。


「助けてくれてありがとうございます」


ローザという女が俺に感謝を示し頭を下げる。


「通りがかりだ。残念だったな」


「あなたは私の命の恩人です。あのまま嬲り殺されると思っていました。それで、本当に無理なお願いなのは分かっているのですが、どうか私をあなたの奴隷として一緒にパーティーに加えていただけないでしょうか。きっとお役にたってみせます」


必死にローザが頼んでくる。

激戦だったのだろう、全身が血まみれだ。

この場合、ダンジョン内で死んだ者達の装備品も俺に取得する権利があるはずだ。

そして、ローザもダンジョンで取得した俺の奴隷と言っても誰も文句を言わんだろう。

しかし、俺はローザを見捨てる事も出来る。

その場合、前衛も回復もいない状態、片腕の魔法使いが地上に生還出来る可能性は限りなくゼロに近いだろう。


「10層で壊滅するようなパーティーの魔法使いが俺達のパーティーに加わって役に立つかといえば、正直に言うと役には立たないと思う。しかも片腕だからな」


俺は自分の正直な想いを伝える。


「命がけで頑張りまず。おねがいじまずっ!!お連れぐだざい!!」


片腕から血を流し、顔も髪も血まみれ。被ったローブも血まみれ。

両目から流れる涙で両頬だけが洗い流される。

俺の足元に縋り付くように懇願する。


「おねがいじまずっ!おやぐにだじまず!!ひっじにがんばりまず!!おづれぐだざい!!」


ここで見放されれば死ぬしかない事が分かるのだろう。

そして、自分が見捨てられる可能性が高い事も分かっているのだろう。

血と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で懇願してくる。


俺は悩んだ。

俺ならなんとかしてやれるだろう。

奴隷にすれば、ローザへ死霊術師と判明しても、秘密にしろと命令も出来る。

そうすれば、回復魔法の女も蘇生出来る。

役に立つかは分からない。

流石に見捨てるのは気が引ける。

俺の場合、奴隷の転売は難しいだろう。

死霊術師という事を知られるだろうからには、助けた場合は最後まで面倒を見なければならないだろう。

ローザを鍛えれば更にパーティーを強化して、俺自身もより高みへと辿り着く事が出来るかもしれない。


「分かった。お前を俺の奴隷にする。首を出せ」


「ありがどうございまず!!ありがとうございまず!!!がんじゃいだじまず!!」


剣士風の男が死んだからだろう、ローザの首の奴隷紋が白くなり、空白状態になっている。

その奴隷紋に俺は自らの指を切り血を垂らし、同時に魔力を注ぐ。


俺とローザの間に奴隷契約の繋がりが出来たのを感じる。


「よし、これでお前は今日から俺の奴隷だ。お前は、俺に関する事は口外することを禁じる」


「がんじゃいたじまずごしゅじんざま。わだじ、ローザはごじゅじんざまの事は決じで口外ぜず秘密は守るごどを誓いまず。ぐすっ…ぐすっうう…」


「よし、ではこれから起こる事も全て秘密だ。デスリザレクション!」


格が上がったからだろう、簡単に霊力と魔力が通る。

俺はミーナという女を俺は蘇生した。

起き上がるミーナ。


「スピリチュアルチャージ!」


死人は鮮度を保たねばな。

怪我や損傷は、すぐに直しておくに限る。

ミーナの傷も損傷も俺は直しておいた。

ミーナと俺の間に霊力による主従の繋がりが出来たのを感じる。


「ローザァァァ!」

「ミーナぁぁぁぁ!」

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