第16話 報酬

「お主には感謝しかない。また機会があったら訪れてくれ。これが報酬じゃ」


翌朝、目が覚めると既にオーガ達は再び昇天したようだった。

やはり、長期間の蘇生は難しかったようだ。

俺よりもオーガ達の方が格が高いということだろう。


それよりも、妖精達からの報酬は一枚の羊皮紙だった。


「これは?」


「この迷宮の魔法の地図じゃよ。数枚しかないものだが、お主に死なれては困るからな。これを渡しておくのは報酬でもあり、またお主に来てもらう為でもあるからの」


「そんな貴重なものを良いのか?」


「打算もあるから良いのじゃよ。これは我々妖精達が長い間かけて作ったものじゃ。我々はこの森の迷宮の各所に遊びにいったりするからの、森の中の様々な場所や変化に詳しいのじゃ。自分たちの記憶や観察をもとに、地図を描いて出来上がったものを複製してある。地図には各階層の様子や貴重な素材の在り処などが記されている。

そして、この地図は、ただの地図ではないぞ。我々の魔法を使って、地図に特別な効果を付与している。地図は魔法の力で常に最新の情報を反映しておるし、森の迷宮の変化に対応しておる。また、地図は我々が危険な魔物を避けるために、魔物の動きなども表示することができるからな。地図に触れると、その階層にいる魔物の種類や位置や数などが分かる。きっとお主にも役立つ事だろう」


「こりゃ本当に貴重な地図じゃないか!?」


「うむ、それを渡すほど我々がお主に感謝してるという事じゃ。本当にありがとう」


何度目か分からない感謝の言葉と共に、年老いた妖精は頭を下げた。


「ありがたく報酬を受け取るよ」


そういって、俺は妖精の魔法の地図をマジックポーチに収納した。


もしかしたら、これを売ればかなりの金額になるかもなと一瞬思ったが。

この地図は妖精達と俺との絆の証でもある。

流石に売る気にはならない。

そして、活用次第では、地図の何倍もの価値の金銭を稼ぐことが出来るとも思う。


俺は妖精達への感謝を胸に、6階層へと進んだのだった。

6階層はいわゆる中層と言われている層で、ここからは上層と比べても魔物がかなり強くなる。

俺の格は中層ではなかなか上がらないとは思うが、グリンに関しては下層の魔物を倒して上がる限界までは格が上がり切っているが、中層の魔物を倒せば、まだまだ格は上がると思う。

まずは、グリンの格を上げながら下層を目指そう。


「ぐるる」


「いるな」


魔法の地図がシルバーフォックスの接近を知らせてくれている。


しかし、森から出てきたのは、可愛い少女だった。


「冒険者さんですね?迷ってしまったのですが、助けていただけませんか?」


可憐な少女が俺に救助を願う。

一応、初心者冒険者っぽい格好をしているあたり芸が細かい。


深い森の中、シルバーフォックスとの遭遇かの瞬間、俺の心臓は激しく鼓動し始めた。

銀色に輝く毛皮を持つその狡猾な狐が、知恵を持って人間に化けることができると聞いて知ってはいたが想像以上のクオリティだ。

しかし、俺は魔法の地図のお陰で決して彼の幻影に惑わされることはない。

それにグリンの鼻はシルバーフォックスの魔法を見破る事が出来ているようで、流石に人間に比べて獣臭いのだろう、警戒の声をしきりに発している。


「グリン行けっ!」


グリンは牙を剥き出しにしてシルバーフォックスに向かって突進した。

グリンの突然の攻撃によって、シルバーフォックスは驚愕の表情を浮かべた。


「何をするの?やめて!この狼を止めさせて!」


言いながら、幻影魔法で霧を発生させる。


「グリン、見極めろ!幻影には惑わされるな!」


俺は命じた。


グリンは鋭敏な鼻を頼りに、シルバーフォックスの本当の位置を特定した。


「ぎゃぁ」


霧が晴れ、血に濡れた銀の毛をした狐が現れる、首元にグリンがしっかりと噛みつき動きを拘束している。



「ライフドレイン」


シルバーフォックスに向けて手を伸ばす。


シルバーフォックスの体力が次第に減少していくが、シルバーフォックスは決して諦めてないようだ、幻影の力で俺たちを混乱させようと必死になっている。


巨大な魔獣が現れたり、女性の悲鳴が聴こえたりするが、惑わされる事はない。


シルバーフォックスの体力が衰えていくにつれ、彼の輝く毛皮もくすんできた。

俺たちを睨みつけるが、俺は生命力を吸い続ける。


シルバーフォックスは小さな悲鳴を上げぐったりとすると、しばらくして消えてた。


ドロップアイテムの銀の毛皮とマジックポーチにしまい、先へと進む。



時折、魔法の地図を見ながら順調に攻略を進めた。

9層まで来たが、グリンの格もかなり上がってきた。


「ワウッ」


「ああ、分かってる」


魔法の地図には3匹のオークが俺達を取り囲みつつある事を示していた。

流石に近接戦闘が得意な彼らと俺達では相性が悪いと思っている。


相手が1匹ならまだしも、複数となると厄介だ。


3匹から上手く逃げるように走ったが、相手は巧妙な狩人たちだ。

俺達は3匹のオーガに誘導されるように森の中の広い広場に出てしまった。

ポッカリと木が無くなり見晴らしが良い。


「こりゃまずいかもな」


近づいてくる音の方へ振り返る。


そして、枝が折れる音と共に、三体の巨大なオーガが俺たちの前に姿を現した。

オーガたちは巨大で筋肉質な体躯を持つっていた。

身長は約3メートルほどあり、全身に厚い筋肉が盛り上がっている。

彼らの肌は粗い質感を持ち、茶色く地味な色合いをしている。


こちらを睨むオーガたちの顔は大きく、額には厚い眉毛が生えています。鋭い目つきを持で、黄色い瞳が光っている。

獲物を見つけ笑みを浮かべた彼らの口は大きく開き、鋭い牙や犬歯が並んでいる。

顎の力強さからは、強力な噛みつき攻撃を想像させた。


「美味そうな人間を見つけたぞ」

「ひょろいな。柔らかくて美味そうだ」

「でかいフォレストウルフは焼いて食おうぜ」


頭部には太い角が二本生えており、黒い角は曲線を描き、鋭利な尖端を持って上に伸びている。


中央の一際大きなオーガは肌に傷跡が見受けられることもあり歴戦の強靭な存在であるかを物語っていた。


「グリン、頼んだ!」


グリンは牙を剥き出しにして右端のオーガたちに向かって突進した。

俺も負けじと霊気と魔法のエネルギーを溜める。


「うぉぉおおおおお」

「こいこっらあっぁっっぁ」

「ひゃっはー」


オーガたちは俺たちに向かって巨大な斧を振りかざし、咆哮をあげた。


その威圧感に負けずに、俺はレイスシールドの魔法を唱えた。

霊気が俺とグリンを包み込み、防御力が高まる。


オーガたちが斧を振り下ろす直前、俺はスピリチュアルチャージを発動した。

自らの霊力を注ぎ込み、グリンや自分自身の強化を図る。

俺の体にエネルギーが満ち、力が増す。


盾で斧の攻撃を受けるが、物凄い衝撃だ。


グリンは右端のオーガたちに噛みつき、すぐ距離をとる。

俺もライフドレインの魔法を使って右端のオーガから体力を吸収する。

右端のオーガの動きが弱くなる。



俺達は、オーガ達との距離を取りながら右回りに移動しながら戦う。

オーガ達は巨体な上に、同士討ちを避ける為に、俺達への攻撃は単発での攻撃となる。

一撃をしのげば、俺達の連続攻撃が決まった。

躱し、防ぎ、凌ぐ。

盾を持つ左腕が痺れる。


オーガ達は俺たちに対する攻撃を続けるが、俺はレイスシールドを何度もかけて強力な防御力を得ながら、彼らの攻撃を跳ね返しました。

同時に、俺のスピリチュアルチャージの効果により、グリンと俺の回復力が高まり、傷ついた身体が次第に回復していく。

右端のオーガに攻撃を集中しているので、左端と中央のオーガの攻撃はかなり激しい。

とにかく、右に右にと避け続ける。


俺は再びライフドレインの魔法を使い、右端のオーガから体力を吸収した。

オーガの生命力が俺に加わると同時に、オーガも弱体化していく。

右端のオーガたちは次第に力を失い、倒れ込んだ。

しばらくすれば消えてドロップアイテムに変わるだろう。

だが、俺はこの時を待っていた。


「デスリザレクション 」


格上のオーガに対して、デスリザレクション を行う。

数時間も蘇生出来れば儲けもの。

とにかくこの1戦には助っ人が必要だ。

倒れた右端のオーガが斧を握り立ち上がる。


「まさか」

「そんな…」


左端と中央のオーガが、驚愕に見開かれた顔で右端のオーガを見る。


もう残り2匹になったわけだ。


左端の小さい方のオーガは突然の事に躊躇っていた。


「兄貴…」


蘇生したオーガが斧を振りかぶると、小さいほうのオーガに襲いかかる。

しかし、大きい方の傷のあるオーガに躊躇いはなかった、蘇生したオーガに横から襲いかかる。


「ぼやっとしてるな死ぬぞ!」


そこからは混戦だった。


俺はスピリチュアルチャージを再び発動し、蘇生したオーガの力を高める。

レイスシールドの魔法を唱え、霊気が蘇生オーガを包み込み、防御力が高まる。

攻撃を受けつつも蘇生オーガが小さい方のオーガに猛攻をしかける。

グリンもヒットアンドウェイで攻撃をしかけていく。

俺のライフドレインの魔法が傷ありオーガの体力を削り、俺自身の体力が回復していく。


小さい方のオーガは、蘇生オーガとグリンの連携により倒れ、ドロップアイテムの牙になる。


「クソっ!こりゃまずいかもな」


傷ありオーガは撤退しようとするが、逃さない。


そこからは、傷ありオーガに3人で攻撃を集中させた。

蘇生オーガは攻撃を受けながらも傷ありオーガに特攻攻撃をしかける。

スピリチュアルチャージとレイスシールドを交互に蘇生オーガに唱える。

最後の一撃、グリンの牙が傷ありオーガの首に突き刺ささる。


「ぐああああああ」


傷ありオーガは悲鳴を上げ、倒れ伏した。

しばらくすると、ドロップアイテムの2本の大きな角になった。

素早くマジックポーチに回収した。


戦闘の激闘が終わりを告げ、俺とグリンは息をついた。

汗と傷跡で汚れた身体が、戦いの疲れを物語っている。

しかし、俺たちは勝利を勝ち取りました。


「よくやった、グリン」


グリンは喜んで尾を振り、俺に近づいてきた。

俺は彼グリン毛並みを撫でながら、この戦いが俺たちの絆をより深めたことを感じた。


戦闘が終わり、静寂なる闇が広がる中、月明かりが薄暗い森を照らし、その光に照らされながら、グリンは身を包む黒い霧の中へと姿を消した。


黒い霧は徐々に濃くなり、森の中に強い暗闇をもたらした。

その中から、ゆっくりとグリンの姿が再び現れたが、全身は闇に包まれていた。

その毛並みは漆黒の色となり、目は鮮やかな黄金色となっていた。


グリンの体躯はより大きく、筋肉も発達して、鋭い牙が光り、俊敏な動きがより一層研ぎ澄まされているのを感じる。

グリンの姿はまさに闇の中の支配者といった風貌で、その存在は不気味さと力強さを同時に感じさた。


「ナイトシャドウウルフだ。下層に住む猛者だ」


蘇生オーガがつぶやく。


ナイトシャドウウルフの眼光は冷たく、知恵と邪悪さが満ちている。

グリンの周りには暗黒のオーラが漂い、その力が森全体を覆っているかのようだった。


「何人も仲間が殺されている。消える。動けなくなる。食われる」


オーガも襲われる存在か。

急激にグリンの格が上がっているのが分かる。

死闘を潜り抜けてきて、グリンが進化した。

蘇生オーガも加わった。

下層攻略に少し希望が見えてきた気がする。

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