第15話 再びダンジョンへ
冒険者組合へと入ると、俺はCランクの依頼表が掲示してある掲示板へ真っ直ぐに向かった。
Cランク依頼を達成出来れば俺もCランクだ。
安全圏のDランク依頼をちまちまやっていては時間がかかり過ぎる。
Cランク依頼は報酬もDランク依頼とは比較にならないが、難易度も一気に上がる。
ダンジョンも下層の依頼が多くなり、上層や中層と比べると難易度がグッと上がる。
報酬は魅力的だが、
エレメンタルの研究:森の迷宮には、火や水や土や風などの自然の力を具現化したモンスターであるエレメンタルが出現します。依頼者は、そのエレメンタルの生態や特性を研究したいと考えています。依頼内容は、エレメンタルを倒してドロップアイテムの魔力の結晶を採取することです。各属性のエレメンタルから5個ずつ、合計20個の結晶を持ってくることが条件です。報酬は、銀貨52枚と魔法の杖1本です。
ドライアドの花束:森の迷宮には、木と一体化した女性の妖精であるドライアドが住んでいます。依頼者は、そのドライアドに恋をしていますが、なかなか近づけません。依頼内容は、ドライアドが好む花を探して花束にすることです。森の中には色々な種類の花がありますが、ドライアドが好む花は赤いバラです。赤いバラは珍しくて危険な場所にしか咲きません。赤いバラ10本からなる花束を作って持ってくることが条件です。報酬は、銀貨45枚と花の香水です。
グリフィンの狩り:森の迷宮には、鷲と獅子を合わせたような姿をした獣であるグリフィンが飛んでいます。依頼者は、そのグリフィンのドロップアイテムである、羽や爪や肉、皮を欲していますが、自分では狩れません。依頼内容は、グリフィンを狩ってその素材を持ってくることです。グリフィンは空から急降下して攻撃してくるので、注意が必要です。グリフィンのドロップアイテムを1つ持ってくることが条件です。報酬は、銀貨78枚です。
正直、ドライアドの花束すら達成が難しいかもしれない。
ダンジョンの下層に入ったこともない俺からすれば、まずは慎重に他のパーティーと協力して依頼を達成するべきかもしれない。
言い訳はしない、挑戦しろと思ってたのに、ここで怖気づくのか?
俺はグリフォンの狩りの依頼を受付に提出し、依頼を受けた。
もしかしらた死ぬかもしれないな。
受付をしながらも自然と苦い笑みが浮かんでくる。
我ながら馬鹿野郎だな。
自ら死地に赴く自分自身を自虐しながらも、ワクワクもしている。
ヨーコの笑顔、ヨーコの俯いた顔、反らした視線、彼女の香り、甘さと苦さが交互に浮かぶ彼女への想い。
家に変えると俺の思い詰めた様子にモーリスが声をかけてきた。
「なんじゃ、難しい顔をして、悩みでもあるのか?」
「いや、今度初めて下層に入ることになるから緊張してるのかもしれないな」
「ほうほう、そりゃ依頼じゃな?どんな依頼じゃ?」
「グリフォンの討伐だよ」
「なんじゃと!?初めての下層でグリフォン討伐とはお主死ぬつもりか!?まずは下層でじっくり格を上げてからじゃないと死ぬぞ!」
「ああ、だから今回はたっぷり食料をもってゆっくり潜るつもりではあるんだ。数週間は帰らないかもしれない。じっくり格を上げつつ進んで、最終的にはグリフォンを倒す」
「なるほどのぉ。格を上げながら進むつもりか。だが、危険な事には変わらん。せめてロゴス達を連れていったらどうじゃ?」
「あいつらと一緒に行動してる事を街で知られたくないんだよ。あいつらの悪評は知ってるだろ?」
「なぁに、別々にダンジョンに入って、下層で合流すれば良い。下層ともなれば冒険者の数もぐっと減って、他のパーティーに遭遇する事も少ないじゃろう。それに、見つかっても下層の状況じゃ、臨時共闘をしてるとか、言い訳はどうとでも出来るじゃろう」
「なるほどなぁ、確かに別々で入れば大丈夫そうだな。中層ぐらいまではグリンと2人で攻略は可能そうだし。分かった。あいつらにも声をかけてみるよ」
俺はモーリスのアドバイスに従って、ロゴス達に協力を仰ぐ事にした。
翌日、朝起きると、エミリーが大きめの包を何個も渡してきた。
「旦那様、ダンジョンに行かれるというお話を聞きました。こちら携帯の食料になっています。栄養のバランスとカロリーを考えながら、なるべく日持ちがするように作っております。どうぞお持ちください」
「ありがとうエミリー。昨夜から今朝までずっと作ってくれたのか?」
「はい、幸いにも寝なくてもすむ身体ですので」
「そうか、助かるよ」
俺はエミリーの用意してくれた食料をマジックポーチに詰め込むと、グリンを連れ、さっそくロゴス達の拠点の屋敷に行った。
「スピリチュアルチャージ。いつもお疲れ様」
「ああ、こちらこそ霊力と損傷の治療、助かってるぜ。それと、これ」
ロゴスは銀貨40枚を俺に渡してきた。
「ずいぶん多いが?」
「ああ、今までより少し難易度の高い依頼を受けてるからな」
「死ぬのが怖くないってのは冒険の面白さだけを優先出来るしな」
「飯を食わなくても寝なくても良いのは楽だ」
三者三様の回答。
今の状態も悪くは無いようだ。
「実は、下層でグリフォン討伐の依頼を受けた。手伝って欲しいんだ」
「おお、面白そうだな。任せとけ」
「それで、少し面倒だけど、ダンジョンには別々に入って、下層で合流する事にしようと思う」
「分かった。それじゃ、俺達も冒険者組合で適当な依頼を受けてくるわ。先にダンジョンに行っててくれよ」
「了解。それじゃ先に行ってるぞ」
「後から行く。くれぐれも死ぬなよ。死霊術師のあてなんてお前以外にいないんだかよ」
「ああ、そうだな。気をつけるようにするよ」
俺はグリンと一緒にダンジョンへ向かった。
5層まではスムーズに進める。
前回通った道だ。
グリンの格も最大まで上昇している。
何の問題も無かった。
せっかくなので、第5層で妖精の花畑に寄った。
「こんちわー」
「また来てくれたんだねー」
「この間はありがとう」
「またやってー」
「わーい」
妖精達は俺を覚えててくれたようで大勢の妖精達に囲まれる。
「お主は人間の中ではかなり霊力が高いからのぉ。我々妖精からすると花畑に来たことはすぐ分かるぞ」
そういって、妖精の年老いたも現れた。
「ちょっと依頼で来たんでついでに寄ったんだ」
「お主には感謝してもしきれん。おかげで我々は昔の仲間と再び笑い合うことができた」
「いや、俺はただ死霊術を使っただけだ。感謝するのは妖精達の絆の方だろう」
「それでも、お主の力がなければならんかった。お主は本当に素晴らしい死霊術師じゃ」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
年老いた妖精はしばらく沈黙した後、俺に頼みごとをした。
「そうか、急ぎの依頼じゃなければ、実は、もう一つお願いがあるんじゃ。お主にまた死霊術を使ってもらえんか?」
「またか?今度は誰を呼び戻したいんだ?」
「今度はオーガじゃ。我々と友好的な関係を築いてくれたオーガの仲間たちを呼び戻したいんじゃ」
「オーガか?それは珍しいな。妖精達とオーガが仲良くなるなんて」
「そうじゃな。我々は昔からオーガと敵対してきた。しかし、数十年前に一人のオーガがこの森にやってきた。彼は我々に敵意を持たず、森に敬意を払って暮らしていた。彼は我々と交流し、友情を深めていった。彼のおかげで、我々はオーガに対する偏見を捨てることができた」
「そうか、それはすごい話だな」
「彼は後に仲間を連れてきた。彼らも彼と同じく我々と友好的だった。彼らは我々に色々なことを教えてくれた。文化や言葉や技術などだ。我々も彼らに自然の知恵や魔法や歌などを教えてやった。彼らと我々は互いに学び合い、助け合った。それが幸せな日々だった」
「しかし、オーガは妖精よりも寿命が短いんだろう?」
「そうじゃ。彼らは次々と老衰で亡くなっていった。我々は悲しみに暮れた。彼らの墓を作り、花を添えた。しかし、それでは心が満たされんかった。彼らともう一度話したい、笑い合いたいと思ったんじゃ」
「だから、俺に死霊術を使ってもらいたいというわけか」
「そうじゃ。戦いで死んだわけでもなく、この魔物の来ない領域内で寿命を迎えて死んだ者達じゃ、それならば魂もまだあるじゃろう。お主ならば可能じゃろう?お主の死霊術は奇跡を起こす力がある。お主ならば、我々のオーガの仲間との再会を果たせるじゃろう?」
「確かに可能だが……しかし、オーガの魂は妖精の魂と違って霊力もかなり使うことになるかもしれない。蘇らせる事は出来るとは思うが時間は短期間しか蘇らせておけないかもしれないぞ」
「それは困ったことじゃ。だが多くは望まん、一目会えれば良いのじゃ」
「そうか、俺は妖精達の願いを無視することもできん。俺は死霊術師として、死者と生者の絆を尊重するぞ」
「お主は本当に優しい心を持っておるな。我々はお主に感謝する。もし、お主が危険にさらされることがあれば、我々は必ず助ける」
「ありがとう、それは心強いよ。では、俺はオーガの仲間たちを呼び戻すことにする。彼らの墓はどこにある?」
「この森の一番奥にある。我々が作ったオーガのための小さな村だ。そこへ案内する」
「わかった、それでは行こう」
「妖精の粉はまだ溜まっておらんから、今回は他の報酬でも良いのか?」
「そこは、任せるよ。とりあえず墓へ移動しようか?」
「助かる」
年老いた妖精は深々と俺に頭を下げた。
少し気恥ずかしい。
墓に着くなり、俺は全力で魔法を放った。
俺は妖精達に従い、オーガの仲間たちの墓へと向かった。
俺はデスリザレクションの魔法を唱え、オーガの魂を呼び戻した。
再会の瞬間、涙が流れる妖精もいれば、笑顔で抱きしめ合うオーガもいた。
「ジョン」
「おおお」
「アリス」
「元気だったか?」
「会いたかったよぉぉ」
「大きくなったなぁ」
「遊ぼうぜ」
再会の瞬間、俺は妖精達と人間達が互いに愛し合う姿を見て感動した。
デスリザレクションの魔法は、種族を超えた絆を再び結んでいた。
教会が禁じた光景だが、俺はこれが正しいと信じていた。
俺は幸せそうな心で妖精達とオーガ達を見ていた。
「死霊術にこんな使い方があったなんてな、俺は君達の仲間たちとの再会を手伝うことが本当に嬉しいよ。俺の力が少しでもお役に立てたなら良かった」
「こちらこそ、感謝してもしきれん。おかげで我々は昔の仲間と再び笑い合うことができた」
「ありがとう、君は本当に素晴らしい死霊術師だ。君の死霊術は奇跡を起こす力がある。君ならば、死者と生者の絆を尊重できる」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
俺は妖精達とオーガ達から感謝の言葉を受け取り、微笑んだ。
再会の宴は夜遅くまで続きそうだ。
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