第11話 街中で

翌朝目が覚めるた。

ある程度傷が癒えると猛烈な眠気に襲われて寝てしまった。


身体の痛みはもう無い。

酔っ払いに小突かれたぐらいでは、ダンジョンで怪我をしたことを思えば大した怪我では無いしな。

牙でも爪でもない。

昨夜はかなり腹が立っていたが、一夜明け傷も癒えた今となっては、なんかロゴスにはちょっと可哀想な事言っちまったなと反省する気持ちまである。


素手での喧嘩で大きな問題にしちまう方がもっと情けないしな。

武器を持ち出した訳じゃ無いし、売り言葉に買い言葉ってやつだ。

やり過ぎだったとは思うが、いつまでも腹を立てる程の事じゃない。

怒りを持続するのも労力がかかるってもんだ。


俺は気を取り直して、屋敷の中に入り、風呂の準備をする。


風呂にでも入って、さっぱりしたら家具を買いにいくつもりだ。


「おはようさん。いくらマシな顔になったようじゃな」


「爺さん。昨日は見苦しい姿を見せちまったな」


「若い証拠じゃな。喧嘩じゃろ?」


「ああ、まぁボコボコにやかれちまったけどな」


「死霊術師は腕っぷしが弱いからな」


「お察しの通りで、粋がってあのざまだよ。恥ずかしかったぜ」


「無理はせんようにな。それよりも、今日はお主に相談したい事があったんじゃ」


「お、なんだ?」


「せっかく儂も元気になったからの、お主が依頼を受けて森の迷宮に行ってる間に墓地の中を散歩しながら面接してきたのじゃ」


「面接?」


「儂一人でこの家を管理してきたんじゃが、お主が快適に過ごすには、やっぱり餅は餅屋で専門家に来てもらった方が早いだろうからな。紹介するぞ、ジェイソンとエミリーじゃ」


「こんにちは、ジェイソンです」


「はじめまして、エミリーと申します」


背の高い引き締まった筋肉をしたジェイソンと佇まいに品のある柔らかな雰囲気のエミリーは二人共亡霊だった。


「えっと…」


「ジェイソンは庭師で、エミリーはメイドじゃな。亡霊に年齢は関係ないかもしれんが、ジェイソンは45歳で20年以上の庭師の経験を持つベテランじゃ。自然とのつながりを大切にし、美しい庭園を作り上げることに情熱を持っておると言う事じゃった。植物の知識にも長けておるし、季節ごとの植栽や剪定、草刈りなど、庭の手入れ全般を行うことが得意だということでな。建物の修繕なども出来るってことじゃから、連れてきたんじゃ」


ジェイソンの印象は、物静かで謙虚そうだ。


「エミリーは 30歳で 10年以上のメイド経験を持つとのことじゃった。整理整頓と清潔さを重視する完璧主義者らしくての。料理の腕前も高く、美味しい食事を提供して喜んでもらえたら嬉しいとのことじゃった。彼女は繊細な内装の掃除や飾り付けも得意らしくてな、屋敷の美しさと快適さを維持しいたいそうじゃ。」


「うん、それで相談っていうのは?」


「二人にデスリザレクションをかけて欲しいんじゃ」


「それは、良いけど流石に死人が俺の家にいたら大騒ぎになっちゃうんじゃない?」


「そこは大丈夫じゃ、ジェイソンもエミリーも既に知り合いはみんなあの世に昇天してるらしくてな。知り合いもいなければ、彼らが働いていてもバレはしないじゃろ。基本的に霊力が高いこの墓地で活動する分には霊力の補充も必要なく、死人とバレることも無いと思うぞ。墓地から出て、霊力が枯渇しそうな時は、お主がスピリチュアルチャージを偶にかけてやれば良い。二人はまた生前の様に生き生きと働けてウィンウィンの関係じゃろ?」


「俺としてはありがたいけどさ、二人は良いの?」


「私はまた庭いじりが出来ると聞いてワクワクしてますよ。理想の庭を作り上げるまでは死んでも死にきれないって思ってましたから」


「私も、またお屋敷で働けるなんて夢のようですわ。こんな素敵なご主人さまに出会えて光栄です。ぜひ、私のお料理を楽しんでいただければ幸いです」


「二人がそう言ってくれるなら、是非お願いします」


そう言って、俺は二人に頭を下げた。


「では、さっそく、デスリザレクション!」


俺は二人にデスリザレクションをかけた。


「おお」


「まぁ」


二人は、生前の身体に戻ったのを確かめるように自らの手足を見ながら、足踏みしたり手を握ったり開いたりしている。


「えっと、必要なものとかあると思うので、着替えとか、これからみんなで街に買い物に行きましょう」


「ありがとうございます。ところでモーリスさんにはデスリザレクションをかけなくても良いのですか?」


エミリーがそう俺に聞いてきた。


「うん、エミリーも分かると思うけど、モーリスって凄い霊力だろ?正直、俺なんかよりずっと格が上の亡霊なんだよ。そうするとデスリザレクションを使っても蘇らせる事は出来ないか、もしくは蘇らせたとしても凄く短時間ですぐに亡霊に戻っちゃうと思うんだ」


「なるほど、死霊術も誰にでも使えるって訳ではないのですね」


「そうなんだよ。きっとモーリスが一番そこら辺は詳しいと思うよ」


「そうじゃな、儂も昔は死霊術師じゃったからな、今の儂の状況は良く分かっとるし、別に儂はこのままでも困って無いからな。問題ない」


「って事だから、俺がお風呂に入った後になるけど、3人で街まで出かけましょう」


そう言って、俺は風呂に入り身支度を整えた。


ジェイソンとエミリーと共に、街に向かう。


基本的には星空商店でほとんどのものが揃うはずだ。


テーブル、椅子、ベッド、ソファなどの家具。

氷の魔石で動く食料保存庫。

鍋、フライパン、食器などのキッチン用品。

洗剤、モップ、ほうきなど、屋敷の清掃用具。

草刈り機、剪定ばさみ、ガーデニング用具、花や植物、種や苗、土や肥料、鉢や鋤の他に、散水用の水の魔石が付いた魔導具など。

光の魔石が付いた照明やランプなど、屋内や庭の明るさを確保するための照明器具。

タオルや洗剤など、日常生活で必要な雑貨。

二人の着替え。

まとめて頼んで屋敷宛に届けてもらう。

今日の午後には搬入されるそうだ。


全部で銀貨12枚。

贅沢品を買ったつもりは無いが量が量だ。


掃除用具や庭の手入れ道具など、荷物が搬送される前に軽く手入れしたいと2人が言い出して、俺が許可すると跳ねるような勢いで二人は屋敷に先に帰った。


とりあえず、午前中の用事は終わったし。


昼飯でも食って、午後の事でも考えようと俺は屋台でパンに野菜と肉が大盛りで挟んである軽食と、フルーツジュースを買うと、両手にもって食いながら街を歩いた。


このファスの街の地理もまだ良く分かってないからな。

とりあえず、街の中心地にある冒険者組合と近くにある星空商店、落ちこぼれ酒場と墓地。

それ以外の場所にはほとんど行ってない。

街の地図的なものでもあれば助かるんだけどな。

そう思いつつ俺はぶらぶらと飯を食いながら街を歩く。


歩いていくうちに人気が無くなってきた。

なんとなく街が薄汚くなってきた。

こりゃスラムに入っちまったかな?

なんて思ってると、背中に強い衝撃を受けて俺は前に吹っ飛んだ。


飯は食い終わってたけど、飲みかけのフルーツジュースを地面にぶちまけた。


「おい、人通りの少ない場所では気をつけろって行ったよな!」


手をついて立ち上がり振り返ると、案の定ロゴスがいた。

ニヤついた顔のお友達も一緒だし、今日はもう一人鋭い目つきの男が増えている。

それにしても3人共でかい。

何食ったらこんなにでかくなるんだ?

ダンジョンにでもこれから行くのだろうか、昨日とは違って鎧を着て武器を持って、しっかり武装している。


「おいおい、しつこい奴だな。おまえシラフでも絡み癖があるのか?」


「うるせぇ、昨日の今日でずいぶん元気になってるじゃねぇか、仲間に聖職者でもいるのか?」


「まぁ、似たようなもんだな。で、何のようだ?」


「街を歩いてたらムカつく顔を見かけたもんでな、つい足で蹴りとばしちゃっただけだわ」


「そうか、じゃぁもう用事は済んだんだな?」


「俺も昨日はかなり酔ってたからな、お前が俺に詫びを入れれば許してやるぜ」


「そうか、悪かったな俺も言い過ぎた部分があったかもしれない」


「いやいや、そうじゃねぇよ詫びだよ詫び。俺の心は深く傷ついちゃったんだよ」


「は?いま詫びただろう?」


「金貨1枚だな」


「は?」


「俺の心の治療費に金貨1枚だ」


「俺にはそんな金無いぞ」


「良いから出せ。今日は素手じゃないぞ」


3人は、武器を構えて俺を脅してきた。

どうやら本気のようだ。

周囲に人の気配も無い。


「自分の命と、金貨1枚どっちが大事かよく考えるんだな」


ロゴスに金貨を渡せば、この場は切り抜けられるかもしれない。

だが、こいつのニヤついた顔を見れば分かる。

ここで金なんか渡したら、定期的にいちゃもんを付けられて金を渡し続ける事になるだろう。


ここで金貨1枚渡して、定期的に搾取されたら、もう二度と這い上がれないだろう。


俺は意を決して魔法を使った。


「スピリットサーチ」


「なんだ?魔法か?」


まぁ、こいつらには俺が何をしたのか分かるはずも無いよな。

死霊術師の魔法なんてお目にかかる事は無いはずだからな。


「痛くも痒くもないぞ?」

「虚仮威しだ」

「ブラフか?」


三人が一瞬戸惑っている瞬間をつき、俺はサーチにひっかかった強い反応に向かって走り出した。


「おいっ逃げたぞ!追え!」


俺の後ろから3人のドスドスという重低音の足音が追いかけてくる。

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