第8話 森の迷宮
ファスの街から出て、しばらく東に進むと目の前に広がるのは美しい森の風景だ。
木々は繁茂し、鮮やかな花々が道沿いに咲いている。
そんな森の中にある洞窟が、森の迷宮の入り口ということだった。
森に入ると森は静かで美しかったが、同時に不気味でもあった。
木々が高く茂り、日差しはほとんど届かなかった。
盾を構えて、洞窟の入り口を探した。
あまり接近戦は得意とは言えないが盾と防具で武装はしていた。
しばらく歩くと、洞窟の入り口を見つけた。
洞窟の入り口は大きな岩に隠れていて、見落としそうになった。
洞窟の入り口に近づいて、中を覗いた。
「これが森の迷宮か……」
ダンジョンの中は、異空間になっているが、あまり外の森との違いは分からなかった。
ただ、森の中の洞窟の中に入るとそこにも森が広がっている事に少しだけ違和感を感じるだけだ。
しばらく歩くと、木の葉がカサカサと音を立てて動くのに気づいた。
反射的に剣を振り下ろしたが、何も切れなかった。
すると、その木の葉が飛び上がって顔に向かってきた。
驚いて盾で防いだが、その木の葉は鋭い歯で盾を噛みついた。
その木の葉をよく見ると、それがリーフラットという魔物だと気づいた。
リーフラットは葉っぱのような姿をした小さな魔物で、木の葉に紛れて獲物に近づき、鋭い歯で噛みつくという性質を持っている。
火や弱いという弱点もあるようだが、死霊術師の俺には火魔法のような攻撃手段はない。
「ライフドレイン」
俺はリーフラットの生命力を吸い取った。
倒れたリーフラットは30秒ほどで消え去り一枚の葉っぱになった。
俺は薬草になるらしいその葉を回収して先に進む。
ダンジョンの魔物は死体にはならず、ドロップアイテムとなる。
解体の必要が無いので、ダンジョン外の魔物よりアイテムの回収は楽だが、回収出来るアイテムの量は少なくなる。
ダンジョンでしか手に入らないアイテムもあるし、一長一短だと思う。
俺は、第一層をライフドレインをしながらどんどんと進む。
流石に一層の魔物では相手にもならない。
グリーンスライムという森の迷宮によく出現する緑色のスライムも出てきたが弱い攻撃力しかなく、移動を妨げる程度だ。
小さな魔石や葉っぱや小さな歯など、端金にしかならない素材だが次々と回収しながら先に進む。
15階層ある森の迷宮は5階層毎に上層中層下層と別れている。
今回俺が目指すのは第5層の妖精の花畑だ。
2階層に入るとすぐにフォレストウルフの牙が茂みの中から襲ってきた。
その鋭い歯は、盾を傷つけ、押し込んでくる。
後ろに飛び退き、盾を構え直す。
しかし、接近戦は得意ではない。
ライフドレインの魔法を使って、フォレストウルフの生命力を吸い取りたいが、俊敏で、俺の呪文を避けている。
呪文を唱える。
「ライフドレイン」
右手から暗いエネルギーが放たれ、フォレストウルフに向かって飛ぶ。
フォレストウルフ体が震え、力が抜けていく。
しかし、まだ倒せない。
フォレストウルフは再び襲ってくる。
俊敏な動きは俺を翻弄する、盾で彼の攻撃を防ぐが、牙は俺の盾を傷つけ続けている。
再び呪文を唱える。
「ライフドレイン」
今度はより強力なエネルギーが放たれ、フォレストウルフに直撃する。
そして咆哮し、地面に倒れ伏す。
息を整え、森の闇に包まれた中で立ち尽くす。
フォレストウルフはもう立ち上がらないだろう。
ライフドレインの魔法でこちらの体力は回復している。
「デスリザレクション」
俺は、フォレストウルフの死体が消える前に、一時的に蘇らせ、俺の命令に従わせる。
「よし、これで少しは楽になるぞ」
流石に2階層からは死霊術師としての能力は開放しないと厳しい。
フォレストウルフなら、他の冒険者に遭遇してもテイムモンスターと言い訳が出来る。
フォレストウルフの頭を撫でてやると、目を細めて身体を擦り付けてきた。
「スピリチュアルチャージ」
俺は撫でながら自らの霊力をフォレストウルフに注ぎ強化する。
俺は死者との関係性というのは死霊術師として重要視している。
昨日の敵は今日の友。
死霊術師にとっては、この心得が重要だと思っている。
「よし、お前の名前は緑っぽいしグリンだ。グリンよろしくな」
死霊術師と死者との出会いは一期一会だ。
死者が天に召されるまでは大切にしていきたい。
「ウォン」
グリンは一声鳴くと、俺の前を先導するように進み始めた。
5層までの道のりはグリンのお陰でかなり楽になってきた。
俺は傷ついてもライフドレインで回復出来るし
グリンに関してもスピリチュアルチャージで回復&強化出来る。
死霊術師としてはデスリザレクションを複数体にかけて、死者の軍団を作るなんて方法もあるのかもしれないが、一発で死霊術師とバレそうな方法なので、俺はこの単体強化の方法で攻略を主体にしている。
ワイルドボア、モスゴブリン、ツリーゴーレム、モスコングと、どんどんと倒していく。
グリンが近接攻撃で、敵の攻撃を交わしつつ注意をひく、俺が遠距離からライフドレイン。
敵が単体であれば、基本的にはこの戦い方で無双できた。
モスゴブリンのように、複数体で出てくる的には、俺がライフドレインとレイスシールドで、俺とグリンの防御を固めれば、グリンが一掃してくれた。
第5層に来る頃にはグリンもかなり強化出来たようで、スピリチュアルチャージで強化しようとしても霊力が入らないぐらいになっていた。
格の上限に達したようだ。
もう、この段階になると、グリンが出てくる魔物を瞬殺していくので、俺はドロップアイテムを回収するだけになっていた。
そして、第5層でついに妖精の花畑へ俺は到着した。
妖精の花畑は、まるで夢の中にいるような美しい光景だった。
色とりどりの花々が広がり、その香りが甘く漂っていた。
光が木々の隙間から差し込み、花畑全体を明るく照らしています。
花畑の中央には、大きな木がそびえ立っていた。
その木は葉が繁茂し、様々な色と形の花で飾られている。
ピンクや紫、青や黄色の花が優雅に咲き誇り、風に揺れながら美しいメロディを奏でているかのように見えた。
妖精たちは花々の上やその周りに舞っている。
「綺麗だな。心が洗われる」
俺は近寄ってきたグリンの頭を撫でながらその光景にしばらく魅入った。
妖精達は透明な羽根を持ち、優雅な動きで空中を舞っている。
妖精が触れる花々は、優しく揺れながら光り輝き、その中からは微かな輝きが放たれていた。
花畑の中を歩くと、足元には柔らかな苔が広がっており、心地よい感触を与えてくれる。
小さな妖精たちが苔の上で踊りながら、笑顔で遊んでいる姿が見られた。
ダンジョンの中とは思えない光景だ。
花畑全体には穏やかな雰囲気が漂い、自然の響きや風のささやきが耳に心地よく響く。
この場所は、森の迷宮の中でも特別な場所であり、妖精たちの魔法の力が溢れているように感じられた。
また、霊力の高い領域である事も感じられる。
死霊術師の俺にとっても心地よい場所だった。
しばらくぼーっとしていると、遠巻きに俺達を見ていた妖精達が恐る恐る近づいてきた。
「人間だ」
「かなり霊力が高いぞ」
「狼だ」
「もふもふだ」
俺達が動かずにいると、どんどんと近づいてきて、頭に乗ったり周囲を飛び回ったりと10cmほどの綺麗な妖精達が集まってきた。
俺は出来るだけ驚かさないようにそっと話しかけた。
「こんにちは妖精さん達」
「「「こんちわー」」」
「「「いらっしゃい」」」
「「しゃべったぞー」」
「「なんかようか?」」
「えっと、今日は妖精の羽の粉を集めて来てくださいという依頼を受けて、ここへ来たんだ」
「あれ簡単には渡せないぞ」
「結構疲れるんだよ」
「めんどくさーい」
「爺ちゃんに話してくる」
まぁ、そう簡単に手に入るものでも無いとは思ってたけど、敵対することも無い。
時間もたっぷりあるし、しばらくはこの景色を楽しませてもらおう。
ダンジョンの中の安全地帯ですることといえば休憩だな。
俺は、花畑の端に寝転がり、この霊力の高い領域でたっぷりと霊力回復の為に昼寝を始めた。
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