第7話 モーリス

朝起きるて、マジックポーチから軽食を取り出し朝食とした。

穀物とナッツを蜂蜜で固めたカロリーバーのような物だ。


朝食を食べながら庭を見渡す。

庭は、かつて美しい庭園だったことがうかがえるが、今は荒廃した様子が広がっている。


俺が野営した周辺だけは草を軽く刈ったが、全部を刈り込むのは骨が折れるだろう。


草が伸び放題に生い茂り、荒れ果てた花壇や崩れた石垣がその存在感を示している。


木々は逆に枯れ果て、葉っぱは朽ちて地面に散らばっている。

かつては手入れされたであろう小道は、雑草やつる草に侵され、不規則な塗装が剥げ落ちたベンチやテーブルは、錆びつき、傷んでいた。


庭の一角には、崩れ落ちた噴水があって。

かつては美しい水の流れと共に噴き上がっていたであろう水は、今は干上がり、静まり返っていた。

噴水の周りには、苔や雑草が繁茂し、草むらからは小さな動物たちの気配が感じられる。


遠くからは、風の音や鳥のさえずりが聞こえますが、廃墟の庭は寂しい静けさに包まれた。

確かにこんな寂れたところで何百年も一人というのは辛いな。


「この庭もかなり寂れてしまったな」


俺の後ろからモーリスが話しかけてきた。


「昔はかなり綺麗だったんだろう?」


「そうじゃ、子供らが駆け回ってな、妻が花壇を気に入っておった」


「もう何十年も手入れしてない感じだな」


「儂が意識が飛びかけて数十年は経ったからな、それまではちょこちょこ管理してたんだがな。霊力が強いこの立地で何百年も家の管理をしてきたんじゃが、この家に住む人間もおらん、何故か他の霊も寄って来なかったからの、本当に一人で何百年も過ごしてきたんじゃ。気力の衰えは霊力の衰えとは良く言ったもんじゃ、もう昇天しかかっておったからの、ハルのスピリチュアルチャージは本当に助かったのじゃ、この世でこうやって若い者と一緒に暮らす事が出来る事になるとは、張り合いがあるわい。しかもお主は死霊術師ときた」


「俺が死霊術師だと何か都合が良いのか?スピリチュアルチャージが定期的に受けられるとかか?」


「うむ、実は儂も生前は死霊術師じゃったからな。親近感ってやつじゃ。この家も死霊術で稼いで建てたようなもんじゃぞ」


「おお、そりゃ親近感がわくなぁ、俺の死霊術なんてほとんど独学っていうかさ手探り状態で覚えたものだから、いろいろ教えてくれよ」


「もちろんそのつもりじゃぞ」


「師匠とかって呼んだ方がいいか?」


「いやいやモーリスでも爺さんでも良いぞ、死者にかしこまるなんて死霊術師がするもんじゃない」


「分かった、それにしてもこれだけデカイ豪邸を建てるなんて爺さんの死霊術って凄かったんだな」


「かなり昔の事じゃからな今の基準は分からんが、当時は重宝されておったの」


「今は教会が死霊術を邪悪な魔法として迫害しているからな、俺は死霊術師は教会の聖職者や騎士や神官に見つからないようにひっそりと死霊術を使ってる感じだよ」


「なんじゃと?今はそんな事になっとるのか?」


「昔は違ったの?」


「そりゃのぉ、墓地に人がほとんど来ないから何となく死霊術師が排斥されてるんでは無いかとは思っとったが、そんな事になっとったか。昔は墓地にはちょこちょこ人が来てな、死んだ親に会いたいとか、上司に聞きたい案件があるとか、まぁ死者と交流は重宝されてたからのぉ、墓地と死霊術師はセットで繁栄しておったよ。ただ教会にとっては邪魔じゃったのかもな。死者は皆天国や地獄に行くという教えじゃからな。お主なら分かるじゃろう、死者がその想いが尽きるまではこの世に留まっておる事が」


「ああ、想いの強さによって、時間は違うけど、死んですぐに昇天する魂の方がめずらしいかもな」


「葬式で立ち会えなかったり、病気で会話が出来なかったり、言い忘れたことがあったり。死ぬと人間だいたいが未練や恥ずかしさなんて消えるからな、嘘も言えなくなりがち出しな。嫁さんに感謝の言葉が伝えられないで死んだ頑固者なぞたくさんいたからな。死んだ後の墓参りで良く嫁さんに怒られてた霊はいっぱいいたぞ、死んでからじゃなく生きてる時にもっと感謝して欲しかった。言って欲しかったってな」


「なんか、良いなそういう死霊術師の仕事。俺もそんな死霊術師になりたかったな」


「まぁ、先程の話を聞く限りは難しいかもな」


「だな。俺一個人がどうにか出来る範囲を超えてる問題だわ。俺はこれからも相変わらずひっそりとやってくよ」


「儂が協力出来る事は、協力するからな。して、今日の予定はなんじゃ?」


「俺もこの街に来て間もないからな、冒険者としてもまずは軽い腕試しのつもりで森の迷宮で妖精の羽の粉を集めてくるんだ」


「おお、まだあの迷宮あるのか?」


「うん、あるみたいだぞ。空気も良さそうだし、花とかも咲いてて綺麗な所かもな」


「そうじゃな、昔はこの家にも妖精が住んでいてな賑やかだったぞ」


「へぇ、なんか俺はあんまり妖精とか見たこと無いけど、妖精なんかも減っちゃったのかね?」


「そりゃ儂も分からん。とにかく誰も何もこの屋敷に訪れなかったからのぉ。せっかくだし、儂も一緒に迷宮に行っても良いか?」


「おお、良いぞ、一緒に行こう」


俺はモーリスを連れて森の迷宮に向かった。


ところが、モーリスは墓地から出れなかった。


「むむむ」


「どーした?」


「どうやら墓地からは出れないようじゃ」


「霊力と領域の結びつきが強くなりすぎちゃったのかもな。何百年もこの地に居続けたんだろ?」


「そうじゃな。儂は知らず知らずにこの地との繋がりが離れがたいものになってしまたようじゃ。地縛霊ってやつかもな」


「一緒に行くのは、諦めるしか無いかもね」


「そうじゃな、儂は屋敷で待っておるよ」


「分かった、では行ってきます」


「いってらっしゃい」


そうして俺は一人、森の迷宮へと向かった。


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