第6話 新たな住まい
不動産屋へ俺は向かった。
さて、なぜ俺が不動産屋へ向かってるかだよ。
俺はこれまで根無し草でフラフラと過ごしてきた。
だから飯は宿屋で食って寝て。
そうやって過ごしてきた訳だ。
だけど、金を貯めるなら、家を買うなり借りるなりした方が結局は安い。
家もピンキリだが、買ってしまえば、月々の支払いは無いからな。
一応、冒険者は一定数の依頼をしていれば税金なんかは、自然と依頼料の中から引かれているらしい。
とにかく、出る金は少なく。
入る金は多く。
毎月銀貨30枚、年間金貨4枚弱がかかる訳だからな。
金を貯めるつもりなら、まずは日々の住まいを決めようという事だ。
不動産屋に着くと、さっそく小太りの男が俺を案内してくれた。
「いらっしゃいませ、ようこそファスファス不動産へ。担当させていただきますデンと申します。本日はどのようなご要件でしょうか?」
「家を借りたい。もしくは買いたいと思ってきた。」
「ありがとうございます。では、簡単にご予算とご要望があれば聞かせていただければと思います」
「一人暮らしだから、広さは問わない。賃貸なら月に銀貨10枚、買い取りなら金貨1枚で考えている。条件は風呂があれば助かります。生活魔法と魔石への魔力補充は自分で出来ます」
「かしこまりました。では、該当の物件をいくつかご提案させていただきますね」
提案された物件は、一長一短で、全ての条件を満たす物件はなかった。
魔法学校の寮:
魔法学校の敷地内にある寮の一室です。風呂はありますが、共同で使うことになります。
賃貸で月に銀貨9枚、買い取りは出来ません。
問題は、寮には他の学生や教師が住んでおり、時々宿題や試験の催促やアドバイスが聞こえてくることです。
魔法実験により、数年に一度、寮内で爆発事故が起きています。
城壁の真下の小屋:
城壁の真下にある小さな木造の小屋です。
風呂はありませんが、近くに公衆浴場があります。
賃貸で月に銀貨7枚、買い取りで銀貨70枚です。
問題は、城壁の真下は常に日陰で日当たりは最悪、治安も悪いです。
強盗などから自らを守る必要はある地域です。
地下水路の入口:
地下水路の入口にある石造りの部屋です。
風呂はありませんが、地下水路に水源があります。
賃貸で月に銀貨5枚、買い取りで銀貨50枚です。
問題は、地下水路にはネズミやワニやゴブリンなどのモンスターが住んでおり、時々部屋に侵入してくることです。
花屋の二階:
花屋の二階にある部屋です。
風呂はありますが、水圧が弱く、温度も低いです。
賃貸で月に銀貨15枚、買い取りは出来ません。
問題は、花屋には花や植物が多く、時々花粉や虫が部屋に入ってくることです。
墓地の真横の家:
墓地の真横にある一軒家です。
風呂はありますが、水場は遠く水の魔石及び火の魔石に定期的に魔力補充が必要です。
賃貸で月に銀貨4枚、買い取りで銀貨40枚です。
問題は、墓地には死者や亡霊が多く、時々声や気配が感じられることです。
呪われるとの噂もあります。
「おすすめの物件は、花屋の二階ですかね。お客様であればお風呂の問題は生活魔法で解決できそうですし、街の中心街に近く、何かと便利な立地ですよ」
「えっと、墓地の真横の家でお願いします」
俺は即答した。
死霊術師には最高の家じゃないか。
「そちらの家は、何年も人が住んでいません。定期的に業者に掃除はさせておりますので、すぐ住むことも可能ですが、いくら冒険者の方でも、聖職者のような亡霊などに対処出来る力が無い方にはおすすめしにくい物件になりますが」
「大丈夫です。墓地の家を賃貸では無く、買い取りでお願いします」
「お客様、物件を見てから購入を決めても大丈夫ですよ」
「大丈夫です。買います」
俺は側近で支払いを済ませ、鍵を受け取った。
いざ、行かん我が家へ!
俺は街の端の高台にあるという墓地のあるという地域へ向かった。
俺は、墓地へと向かいながら自らの死霊術に思いを馳せる。
俺は死霊術師としても中級ぐらいの実力は出来てきたと思っている。
だからこそDランクまでランクを上げる事が出来たのだけど、死霊術っていうと死体を操る術ってイメージだけど、その魔法は幅広く結構いろいろ出来ることが多いんだ。
代表的なところを紹介しておくと
攻撃系
デスリザレクション : 死者を一時的に蘇らせ、自身の命令に従わせる能力。
デスレクイエム:怨霊、亡霊、霊魂を強制的に昇天させる能力。
防御系
レイスシールド: 自身や他者を攻撃から守る能力。
回復系
ライフドレイン: 生者から生命力を吸い取り、自身の回復や強化に利用する能力。
その他
デッドアイズ: 亡霊や死者の視点を借りて遠くの場所を見る能力。
スピリチュアルサーチ: 亡霊や死者の存在を感知し、その位置や状態を把握する能力。
スピリチュアルチャージ:自らの霊力を使い、亡霊や死者を回復や強化する事が出来る。生者にも効果はあるが、効果は弱くなる。
と、回復、防御、攻撃とオールラウンダーに成り得る能力がある。
ただし、この能力には死者や亡霊との関係性や、俺自身の魔力、そして何よりも肝心な霊力のが霊力だな。
一般的に霊力というと、聖職者が神に祈りを捧げたり、瞑想したり修行を行って高めるイメージがあると思う。
ただし、死霊術師の使う霊力とは少し違う。
もっと死に近い力というのだろうか、霊的な場所や、怨念邪念、執念など霊的な場所に留まることにより高められたり、霊的に強い存在との交流、もちろん死霊術を使ううちに少しづつ高まるものでもある。
その魔力や霊力によって、死霊術の効果も変わるし、そもそもの格の違いとでも言うのだろうか、俺よりも霊力の高い死体や亡霊には死霊術が使えない場合もある。
考えながら歩いていると墓地が見えてきた。
300ほどの墓石のある中規模な墓地だ。
墓地中央には巨大な墓石がある。
無縁仏とでもいうのだろうか、身寄りがないものや、罪人など様々な理由で普通の墓地には入れられない遺体を埋葬する墓石だ。
俺の家は直ぐに見つかった。
墓地に隣接している家なんて一軒しかなかった。
俺が想像していた家よりもかなり大きい。
庭付きの豪邸と言って良いだった。
墓地の真横ってのはちょっと不気味だけど、賃貸でも買い取りでもこの家は魅力的な値段だったな。
俺は家の前に立ち、ドアを開ける。
さて、新しい家だ。
中を見てみよう。
中に入ると、少し薄暗くて静かな雰囲気が広がっている。
家具は無いが汚くは無い。
風呂の場所や水場を確認していく。
聞いていた通り、風呂はあるけど、水場まで遠い。
まあ、水の魔石と火の魔石で魔力補充すればいいみたいだけど…。
その時、突然、遠くから声が聞こえる。
俺は耳を澄ませる。
「…助けて…」
何だ?声が聞こえるぞ?
僅かながら霊の気配を感じる。
呪われてるって噂は本当だったのか?
心臓がバクバクと高鳴り、不安が募る。
「…助けてくれ…」
俺は決意を固めてスピリチュアルサーチを使った。
そして大声で叫んだ。
「わかった、声の主よ。助けてやる!今行くぞ」
俺がスピリチュアルサーチでとらえた霊の霊力は、かなり小さくなっていた。
方向へ向かって進む。
薄暗い廊下を進みながら、不気味な気配が増していく。
「…こっちだ…」
俺は声に導かれるように進むと、一室にたどり着く。
そこには微弱な霊的な存在が浮かんでいた。
「お前が…助けを求めていたのか?」
「…助けて…」
「わかった、落ち着け。俺が助けてやるから」
俺は勇気を振り絞り、霊へと近づくと、スピリチュアルチャージを使った。
一瞬ふらっと意識が飛びそうになるのをグッと堪えた。
ごっそりと俺の中から魔力と霊力が無くなった。
ここまで枯渇した感覚は久しぶりだ。
「…ありがとう…」
声が消えたかと思うと、突然、俺の背後から声が聞こえた。
「やあ、ようこそ。儂はこの家の主じゃ、助かったありがとう」
振り返ると、そこには白い服を着た老人の霊がいた。
俺が放出した以上の霊力が、老人の霊を中心にぐんぐんと集まってきている。
霊力の充満する立地ゆえなのか、近隣から恐ろしい程の霊力が老人に集まっている。
老人は笑顔で俺に手を振った。
「お主は新しい住人か?儂はこの家の前の住人じゃ。名前はモーリスと言うんじゃ」
「えっ、前の住人?でも、この家はずっと空き家だと聞いたんですが」
「そうじゃ、ずっとずっと空き家じゃよ。儂はもう何百年も前に死んでいるからのう」
モーリスは平然と言った。
俺は驚いて後ずさった。
何百年もこの霊的な場所で霊力を高めてきた亡霊か…
なんでこんなに霊力が弱くなってたんだ?
「じゃあ、モーリスは古代の亡霊なのか?なんで助けてくれって?」
「何百年もこの空き家で儂は一人ぼっちじゃった。死んだ当初に持っていた恨みや後悔などいろんな執着も何百年の月日と共に同時に消えていってな、恨む相手も国も何もかも無くなってしまった。どうでも良くなってもう昇天しかかっておったのじゃ。でも、そんな時にこの空き家に来訪者が現れた。せめてこの世で最後に人に会ってから昇天しようと思ってな、ダメ元で呼び寄せたのじゃよ。まさか来訪者が死霊術師とはな。因果なもんじゃ。まぁ、怖がらないでくれ。儂は悪いことをするつもりはない。この家が好きだから除霊はせんでくれ」
モーリスは優しく言った。
俺は困惑した。
「この家が好き?でも、この家は古くて汚くて手入れもされて無いじゃないか」
「それでも、儂にとっては大切な家なんじゃよ。儂はこの家で生まれて育ち、妻と子供と幸せに暮らしたんじゃ。妻と子供もこの墓地に眠っているんじゃよ」
モーリスは懐かしそうに言った。
俺は少し同情した。
「そっか。それなら、俺もこの家を大切にするよ。でも、モーリスと一緒に住むのはちょっと怖いな。死霊術師だからあんたの霊力の強さが良く分かるからな。この大きな墓地という霊的に優れた立地に数百年とかいるんだろ?モーリスは、自分が凄まじい霊力を持ってる自覚はあるのか?」
「大丈夫じゃよ、儂はお主に危害を加えたりしない。むしろ、お主のことを助けたりするかもしれん」
モーリスは笑顔で言った。
「助ける?どういうことだ?」
「例えば、風呂の水圧や温度を調整したり、魔石への魔力補充を手伝ったり、家の掃除をしたりする事じゃ」
モーリスは得意げに言った。
霊力がある程度ある亡霊は生者と同じように物を持ったり動かしたり出来るので風呂の管理や掃除などは出来るだろう。
それに、モーリスがいるだけで邪霊や怨霊などこの家に近づきもしないだろう。
「まぁ、モーリスほどの霊力の死者や亡霊はこの墓地には居ないだろう。他の死者や亡霊も従うだろうね。むしろ街中にモーリスのような強力な霊力をもつ危険な存在が居たら、普通は直ぐに冒険者組合に除霊の依頼が入って教会から高位の聖職者が複数人で除霊に現れるだろうな」
「それじゃあ、これからよろしくな。儂はモーリスと言ったけど、お主の名前は何と言うんじゃ?」
モーリスは友好的に聞いた。
「俺の名前はハル。これからよろしくモーリス」
この家が何百年も朽ちていない理由は、強力な霊力を持つモーリスが留まって管理をして、この家は護られてきたのだろう。
家の守護霊的存在になっていたモーリスは地縛霊であり守護霊でもある存在のようだ。
俺は、今日から爺さんの霊という同居人との新生活を始める。
死霊術師としては最高の物件に住む事が出来たと思う。
この出逢いに感謝。
とりあえず家具も無いので、今日は家の庭で野営の準備をして寝る事にした。
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