第11話 巨大な敵との戦い
夏美は裕二と結婚する前に別れさせ屋をしていた。夏美は苦学生で、そのときの上司は金子だ。
裕二と美優が隅田川の畔でキスをしてるのを突き止めた。あのときは『乳揉ませろよ』とかセクハラ行為を平然とする奴だったが、子供が生まれたのか随分、大人しくなっていた。あれは2003年、夏美は20歳だった。
標的はとんでもないDV野郎で、恐怖のあまりに本性を曝け出せずに結婚してしまった。実家や友人とつきあうのを制限したり、電話や手紙を細かくチェックしたりされた。
『オマエは俺の妻だよな? 聞いてんのかよ!?』
台所でネギを包丁で切ってると怒鳴られた。
『高校の同窓会くらいいいじゃない!』
『反抗的だな!?』
殴る素振りをした。実際に殴られたことはないが、毎日ビクビクしていた。
気を取り直し、小説執筆に取り掛かる。タイトルは『アザミ』アザミの花言葉は報復なのだ。
成功した病院長で、模範的な市民である中年男性、榊原雄一は最愛の妻、夏子と茨城県土浦市に住み、仕事も家庭も順風満帆に過ごしていた。
休日は土浦駅ナカにあるタリーズで2人でデートするのが日課だった。ハリーポッターの音楽が店内を流れる。店内にはマウンテンバイクが飾られてある。花火大会は一般的には夏にやるが、土浦では11月に行われる。秋田の大曲、新潟の長岡と並ぶ三大花火に数えられる。ある年に花火を見に夏子は一人で土手に行った。もう秋も終わりだというのに異様な暑さだった。普段ならセーターとか着てもおかしくないのに、夏子はワンピース姿だった。スターマインや枝垂れ柳に夏子は涙を流しそうになった。コロナによって父を失い、行動制限でどこにも行けない日々が続いた。ヒュ〜!と、上がった花火は不発でまるで隕石が墜落したみたかった。
「あっ、流れ星!」と、誰かが声を出した。どことなく、雄一の声に似ていた。夏子は声のした方に向かった。太鼓橋の上に雄一の姿を見つけた。雄一の隣には若くて素敵な女性がいた。千秋っていう、雄一の秘書だ。雄一は会合に行ったはずだったが、あれは嘘だったようだ。千秋は雄一にキスをした。
「私と奥さん、どっちが好き?」
夏子は心臓がバクバクしていた。どう答える?
私なのかい、千秋なのかいどっちなんだい!?
「勿論、君に決まってるじゃないか」
夏子は2人を麻酔で眠らせて、車に運び込みナイフで刺し殺すイメージをした。
「腰の痛い私には無理だ」
榊原雄一は優れた経営者として名を馳せ、自身の病院を成功させてきた。彼は医療の質を向上させるために革新的な方法を導入し、多くの人々の命を救ってきた。
しかし、雄一は成功の果てに堕落し、金銭的な欲望が彼を支配するようになった。彼は裏での不正取引や利益追求に走り、病院の根底にある倫理的価値を失ってしまった。
周囲は雄一の変化に気づき、彼の行動に疑問を抱くようになった。しかし、雄一は利益至上主義にとらわれ、自分の野心と欲望を追求することで強くなり、他の人々を踏みにじってしまった。
結果として、病院の信頼性は急速に低下し、離職も相次いだ。患者たちは雄一の欺瞞に気付き、信じることができなくなった。
雄一は最終的に孤独を感じ、自分自身がどれほど間違っていたかを痛感する。彼は過ちに気付き、償いの道を歩むことを決意し、病院を立て直すために努力する。
患者と職員の信頼を取り戻すため、雄一は真摯に謝罪し、病院の経営を新たな価値観と倫理に基づいて再構築する。時間をかけて、彼は自分自身と向き合い、共感と思いやりを取り戻すことに成功する。
雄一の努力が報われ、病院は再び信頼を取り戻し、患者と職員の生活を支える存在となる。彼は過去の過ちを踏まえ、新たなる使命感を持って医療業界で貢献していくのだった。
そこまで入力し終え、夏美は千秋のモチーフとなった美優を思い出した。美優は看護師だ。どことなくホラン千秋に似ている、だから千秋って名前にした。あの泥棒猫め!溺死がいいかな?感電死がいいかな?
夏美はSpotifyでドリカムの『Goodbye,Darlin'』を聴きながら切ない気持ちになった。まだ、3人だった頃のドリカムの曲だ。
裕二が好きだった曲だ。よく、カラオケで歌っていた。あまりうまいとは思わなかったが、泣けてきた。
あずさは哲也から殴られるんじゃないか?と、ヒヤヒヤした。哲也は優しい方だと、あずさは思っていた。あずさはあまり食事を作らないが、哲也は声を荒げたことはない。
だが、今夜の哲也は鬼の形相だ。
「石本ってのは誰だ!?」
「は? 何のこと!?」
あまりの寒さに哲也の手は悴んでいた。手袋を持ってくるんだったな?
「綾田って小説家がいるけど、あれはオマエなんじゃないか!?」
「知らないわよ!」
「何なの!? 騒々しい……」
台所から風吹ジュンに似たあずさの母親、虹子が出て来た。煮物の匂いがした。
「あ〜、さっぱりした。おっ、おまえ!何でここに?」
風呂場から平泉成に似たあずさの父親、大吉がバスタオルで頭を拭きながら現れた。
大吉は以前から哲也のことをあまり快く思っていなかった。
『フンッ! デカなんて危険な職業の奴に娘を任せられるか』
挨拶のために初めてこの家にやって来たとき、冷たい態度を取られたことを思い出した。
「あんなことしておいて、よくウチに来れだもんだ。とっとと帰ってくれ」
不倫の事実を知った大吉が哲也の家に乗り込んで来た日のことを思い出し、身震いした。大吉は玄関先で哲也を蹴飛ばした。
『このクズ野郎!』
「こんな夜更けに申し訳ございませんでした」
哲也は土下座して謝り、柊邸を後にした。どこかで犬の鳴き声がした。奥多摩はクマが出没することで有名だ。もし、クマと鉢合わせたら目を逸らさずに背中を向けずに逃げなければならない。
大吉が斧でも担いで追いかけてくるんじゃとヒヤヒヤしたが、誰も追いかけてこなかった。タクシーを拾おうとしてクラッチバッグからスマホを取り出したが、電池が切れていた。
絶望的だ。モバイルバッテリーを持ってくるんだった!凍死とか、マジ勘弁だ!リュックで来るべきだったと後悔した。腕が痛くて仕方がなかった。充電スポットを探そうにも、スマホがこれじゃな。哲也は柊邸に戻ろうか悩んだ。アソコに行けば暖も取れるし、充電も出来る。だが、大吉たちが怖い。地震・雷・火事・親父なんて言葉があったな。
今まで散々、悪いことしたからな。あの手術を受ける前は神様みたいな人間だった。職場に行く途中に道に迷ってる老婆がいたので道案内してあげたり、仲間の刑事の父親が亡くなったので、あずさとのデートをキャンセルして宿直を担当したり、課長から救世主と呼ばれたりした。
夜が更けるにつれて、森の奥から異変の気配が漂い始める。哲也は怪しげな音や謎めいた足音に耳を澄ませる。その中で、なんとも不気味な低い唸り声が聞こえてきた。
哲也は最初は恐怖に震えていたが、次第に哲也は落ち着きを取り戻し、ただちに対処する決意を固める。彼は勇気を振り絞り、手元にあった傘を持ち、低い唸りの方向へ進む。
すると、森の陰から一匹の巨大な熊が姿を現した。哲也は内心驚愕しながらも、勇気を持って怪物に立ち向かう準備をする。交わした目線から哲也は、熊の目になんとも異様な光が宿っていることに気づく。
哲也は先制攻撃を仕掛け、激しく傘を振るう。しかし、熊は哲也の攻撃をかわし、反撃してきた。激しい戦いの中で、哲也は熊との個体差を感じた。
アォォォッ!という咆哮に地元の住民がかけつけた。
ついには短気な行動が災いし、哲也は熊に重傷を負わされてしまう。しかし、敢えて弱みを見せることで熊の怒りをかきたて、住民たちに迎撃のチャンスを作る。
住民の活躍と鈴木の奮闘によって、ついに熊が倒される。森は沈黙に包まれ、哲也は住民たちによって救出される。
この経験を通じて、哲也は自分の内に眠る勇気や友情の意味を再確認し、大いなる成長を遂げる。そして、この恐怖と闘い、生き残った彼は、伝説の鈴木哲也として奥多摩で知られるようになったのである。
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