第8話 新たな人生

 2025年10月

 築地にあるホームセンターで働きながら平穏な日々を送る夏美は、誰からも慕われる好人物で、土日は行きつけの図書館での読書が日課となっていた。その店には同じく常連で、あずさと名乗る女性がおり、言葉をかわす内に奇妙な友情が芽生えていく。歌手になる夢を持つあずさは、娼婦の仕事に嫌気がさしていたが、やがてあずさは自分に暴力を振るった客に反撃して傷つけてしまう。客の苦情を受け、元締めでヤクザの石井和也は見せしめとしてあずさに激しい暴力を行い、彼女はICU送りとなる。彼女の入院を知り、その悲惨な姿をガラス越しに見た夏美は石井らのいるクラブに赴き、500万を提示して彼女を自由にするよう申し出るが、石井は無下に断り、これからも彼女を搾取すると言い放つ。素直に引き下がるかに見えた夏美だが、静かな怒りに燃える彼女は、石井を含め、その場にいたギャング5名を、その場にある物だけ用いて30秒足らずで殺害してしまう。


 事件を受けて石井の上司である山西敏也は、部下で解決屋の倉田雅裕を築地に派遣する。頭脳明晰で戦闘能力も高く、凶悪な倉田は、暴力と情況証拠による推理ですぐに夏美を割り出す。直接会っても尻尾を出さない夏美を犯人だと確信する倉田であったが、襲撃は失敗し、彼女の経歴を洗っても正体もわからず、倉田はますます夏美に興味を持つ。

 

 夏美は病院を辞めてから、スパイ組織で働いていた。夏美は凄腕の特殊工作員で、友人の死を受けて引退した過去を持っていた。かつての同僚、大谷福美の伝手で敵の情報を得た夏美は、その正体が、表向きは新興財閥の総帥で政財界に影響力を持つ山西であること、倉田の正体が北のスパイであること、また一部の刑事が彼らに加担していることを知る。


 夏美は手始めにマフィアと癒着する、汚職刑事の二岡を脅し、築地における山西のマネーロンダリングのアジトを壊滅させる。さらに夏美は次々と山西の拠点を破壊し、彼らの東京における活動自体が危ぶまれるほどの事態となる。また、二岡が自己保身のため担保していた政財界の黒い関係のリスト(USBメモリ)も押収し、その内容は警視庁の鈴木哲也を通じて世に知られることとなる。山西から叱責を受け、後がない倉田は戦力をかき集め、ホームセンターの店員を人質に取って、夏美を港へ誘き出す策に出る。


 夏美は倉田を出し抜いて人質を救出すると、逆にホームセンターで彼らを待ち受ける。地の利とホームセンターの工具や鉄条網線を武器にして、倉田の手下たちは為す術なく夏美に殺されていく。時に抵抗を受けて負傷し、危機に陥る夏美であったが、最終的には正体を問う倉田を無言のままネイルガンで殺害し、殲滅を完了する。更にその3日後、夏美は高円寺にある山西の屋敷に潜入すると、彼を感電させて殺害する。


 後日、築地で平穏な生活を送る夏美にあずさが声を掛けてくる。傷が癒えた彼女は、夏美から受け取った金を元手に真っ当な生活を送っていた。夏美の平凡な表の顔しか知らないあずさだったが、常連の図書館で夏美から勇気づけられたアドバイスなどのお礼を言って別れる。

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