第16話 子供に「一体あなたは何をやりたいのですか」とか言われるのは結構辛い

「イミル。それにユミルも。君たちは……何をやっているんだ?」


 声の主は、ほっそりとした少年だった。


 身体を包むガウンは、年齢と背丈に合わせたものなのだろうが、袖や裾の丈が微妙に合っていない。


 大きすぎるのだ。


 おそらくガウンを仕立てた頃には付いてた肉がその後失われたから――おそらくは病によって――俺の邪推おそらくを、少年の、年齢にそぐわない眼窩の落ち窪みが補強する。


 そして少年の背後、後方彼氏面のポジンションに女が1人。

 旅隊のリーダー――ミゲルだ。

 ミゲルが言った。


「彼が、ウラガンの紹介で雇い入れたユウキです」

「そうか」

 

 少年が、それに対し鷹揚に頷く。

 状況的に、この少年がセシリアやウラカンが言ってた『さる御方』と考えるべきだろう。


 マップでは、ミゲルと同じく少年にも『鑑定阻害』の表示が付けられている。


 だが少年の素性については、セシリアのステータスを思い出すだけで充分だ。

 セシリアには、こんな称号が付いていた。


『王子の守護者』


 まだ泣きじゃくるクソガキイミルの代わりに、クソガキじゃない方ユミルが事情を説明していた。


「あのねぇ。あのねぇ。ユウキおじさんが強そうだから、追い出しちゃおうってイミルが言ったのぉ。順番・・が変わっちゃうかもしれないから邪魔だって言ったのぉ。そしたらユウキおじさんがどんどん強くなって、イミルが泣かされちゃったのぉ」


「ふうん……強くなった・・・


「最初はねぇ。ユウキおじさんはあまり強くなかったのぉ。ウラガンの倍ぐらいしか強くなかったのぉ。でも、おじさんの指輪がぱりーんて壊れるたびに、おじさんが強くなってったのぉ」


「能力低下のアイテムか」


 つぶやく少年に。


「ダンジョン産のアイテムでその様なものがあったかと」


 ミゲルが耳打ちする。


 それを受けて俺は、指輪が目立つように、さりげなく手の位置を変えた。続けていつの間にか来てたウラガンに目をやると、それだけで少年は悟ってくれたらしく、ミゲルに顎で命じ――ミゲルが訊いた。


「ウラガン、委細を」

「は、はい…………っ」


 命じられたウラガンは、真っ青な顔で説明を始めた。俺が舐めプ用アイテム能力低下の指輪を着けることになった経緯を。そして全力で謝罪した。その説明を怠っていたことを。


「まあ、いいか……」


 少年は、その一言でウラガンを許した。

 それでこの件は、終了……だと良かったのだが。


 もちろん、そんなはず無かったのだった。

 少年が言った――俺を見て。


「ユウキ……といったか」

「はーっ! ユウキでございます」

「……舐めているのか?」

「いぇっ! そんなことはございません!」


 密かに昔の漫画のキャラの物真似をしたのが、少年には舐めた態度として受け止められたらしい。


 内心あせりまくる俺を、糞虫を見るような目で見ながら少年が訊いた。


「オマエは、いったい何がしたいのだ? 何を目当てに我らと同道を願うと言うのか」


「龍と……契約いたしたく」


「私は、この旅隊の主だ。職業はドラゴンテイマー。既に2柱の龍と契約し、更に3柱目の龍と契約すべくドラスケ山へと旅隊を率いている。ここまでの道中、冒険者たちはよく働き、何より私の契約龍――イミルとユミルの武威により危難を遠ざけてきた。イミルとユミルは強い。実に強い。魔物は言うまでもなくどこで手に入れたのかアダマンタイトの鎧で身を固めた賊の群れも、イミルとユミルを前にしては砕け、溶け、あるいは裂け……」


「…………」


「……然るにだ。オマエは、そのイミルと戦って死なないどころか、負けないどころか、引き分けるどころか、勝つどころか、泣くほど叩きのめし、圧勝した――オマエは強い。実に強い。オマエがその気になれば、ここにいる全員が砕け、溶け、裂け……」


「……………………」


「オマエにとっては、この場にいる全員を屠るなど容易いことであろう。我らがどれだけ抗ったところで砕け、溶け、裂け…………」


「……………………(王子、好きすぎだろ。そのフレーズ)」


「で、あろうにも関わらずだ。オマエは、龍と契約をしたいなどという。私の契約龍を倒すオマエが――龍より強いオマエが龍と契約して、何の意味があるというのか」


「龍と契約すれば、強くなれるのでは?」


「それ以上強くなってどうする――国でも盗るか?」


「いえ……龍と、闘うために…………龍より、強くなるために」


「だから、オマエは龍より――いや、そうか。なるほど……名前は?」


「ユウキです」


「オマエではなく、オマエが闘いたいという龍の名だ」


「それが分からないんですよ。会話しなかったわけではないんですが、そういえば名前を聞いてなかった――あ、そうだ」


『異世界通販』で出した紙と鉛筆で、俺は似顔絵を描いた。金髪のイケメンな美女――あの高位龍アロハの似顔絵だ。


「こういう顔をしてました」


 それを少年に見せると。


「これは…………うむむむむむむむ」


 しばらく唸った後、少年は言った。


「オマエは、絵が下手なんだな」


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