第15話 いまの俺にはLOVEしか無いぜ

 そうして、再び立ち上がった俺だったのだが。


「ザコーーーーっ!! ザコっ! ザコっ! ザコっ! ざまあ! ざまあ! ざまあ! ざまあ!」


 今度は、いきなり顔を踏み潰されて。

 速攻で、また死んだ。

 そして再び立ち上がるのも、これまた速攻だった。


「16……いや、32でも大丈夫かな」

「っっっ…………!!!!!」


 首筋に来た蹴りを、前腕でガード。

 痛いことは痛いが、腕が折れるほどではなかった。


「うん。32で充分か」

「なんで……ザコのくせに!! どうして!?」


 クソガキも、気付いてはいるはずだ。

 しかし、それを認めるのはまた別だ。


 クソガキイミルが認め難いだろう事実を、クソガキじゃない方ユミルが言ってくれた。


「イミルぅ。その人、強くなってるよぉ。指輪が1個減るごとにぃ。どんどん強くなってるのぉ」


「正解」


 サムズ・アップする俺の手には、指輪がはめられている。

 舐めプ用の指輪だ。

 1個はめるごとに、ステータスが2分の1になる。


 それを俺は、両手の親指を除く全ての指にはめていた。

 つまり、2の8乗で256。

 クソガキと立ち会った最初の時点での俺は、本来の256分の1のステータスだったわけだ。


 指輪は、HPが0になるごとに1個砕け。

 砕けると同時に、封印されてたステータスが開放される。

 ここまで3回死んだから、3個砕け。


 結果としていま俺は、本来の32分の1の強さになっている。

 そしてクソガキイミルに分からせてやるには、その強さで充分だと確信していた。


「……っ! ……っ! ……っ! ……っ!」


 既に煽る余裕すら失ったクソガキイミルの連打を、俺は手の平で捌き、受け止め。


「余所見はいかんよ君ィ」


 大振りで姿勢を崩したところへ、デコピン。


「…………っ!!」


 痛いことは痛いが、骨が折れるような衝撃ではないだろう――でも、クソガキイミルの心を折るには充分だったみたいだ。


「あ、あ、ああああ…………」


 クソガキイミルが、ぺたんとしゃがみこむ。

 美しい顔立ちの、その目に涙を浮かべて。


 俺は思う――やっぱり、こいつはクソガキだ。


 クソガキは、勝負ができない。


 自分こっちが圧倒するか、あっちが圧倒してそのまま勝ち負けが決まる、そういう戦いしか出来ない――相手の有利が一瞬でこちらの有利に変わり、こっちの有利が一瞬で相手の有利に変わる本当の戦い、攻防、ぎりぎりの凌ぎ合いが出来ないのだ。


 いまの俺は、クソガキイミルより強い。


 でもそれは、こいつの立ち回り次第でどうにか出来る程度の差でしかない。そこに気付き、全力を出して勝機を掴みに行く、その気概、発想自体をこいつは持っていない。


 クソガキイミルのステータスに『龍』の文字を見て、俺はアルケインレジェンドゲームで出会いこの世界に俺を送り込んだアロハあいつのことを思い出していた。


 俺は、あいつに圧倒されて負けたわけだが、もし逆に俺がアロハあいつを圧倒することになっても、アロハあいつはこのクソガキイミルみたいなことにはならないだろうと、何故かそんな風に思えた――と、つらつらとそんな事を考えていたわけだが。


 結論が出た。


 もうちょっと、クソガキこいつを苛めてやろう。


「でもちょっと、キリが悪いんだよな……というわけで、こいつも外す」


 舐めプ用の指輪には、1つに1文字づつ、文字が刻まれている。

 最初に8個はめてた時点では、こういう並びだった。


 右手に『L』『O』『V』『E』

 左手に『H』『A』『T』『E』


 そこから、3個指輪が砕けた現時点ではこうだ。


 右手に『L』『O』『V』『E』

 左手に『H』


 そしていま、左手に最後に残った『H』を外す。

 同時に、強さが32分の1から16分の1に。


「ひぃっ……!」


 クソガキイミルが、頭を抱えてうずくまった。

 俺は言った。


「かかってこいよ。安心していいぜ。今の俺にはLOVEしか無いからな――優しく、分からせてやる」


「ぃぃぃぃっ……や、やだぁ。ごんなの。ごんなの」


 身体を丸めて嗚咽するクソガキイミルを膝で押すと、イミルはこちらに背中を向けたまま地面に転がった。


「おい。俺はザコなんじゃなかったのか? 俺みたいなザコのおっさんにこんなことされてていいのか?」


 イミルをまたいで反対側から足で押すと、イミルはまた背中を見せる。それをまたいで再び押すと、イミルもまた転がり背中を見せ……4,5回は繰り返しただろうか。イミルは両手で顔を隠し、泣き声を漏らすだけとなっていた。


「ゆ、ゆるじて……ゆるじて……ごべんださぁい」


 そもそも俺が舐めプ用の指輪を着けたのは、俺の強さを気取ったウラカンが腰を抜かしたからだ。いまのイミルは、あの時のウラカンと同じく、俺の強さの前に怯懦している。


 ウラカンより悪いのは、俺の強さに気付いたのが、さんざん俺を煽り、侮り、3度も殺した後だったことだ――さぞや恐ろしい思いをしてるに違いない。


 ああ……いい気味だ。


 泣きじゃくる子供を前にこんなことを思える俺も、たいがいロクなもんじゃない。現代日本元の世界で生涯独身だったのも、むべなるかなだ。俺を振った女たちは、まことに正しい選択をしたと言えるだろう。


「何とか言ってみろ。クソガキ」

「ガキじゃないれすぅ……ぐすっ。10万12歳でずぅ……」


 あ、子供じゃなかったか――さて。

 空気でわかる。


「ふぇ、ふえ、ふえぇえ…………」

「あのよぉ……ちょっと、これは…………」


 ここまでの流れを間近で見ていたクソガキじゃない方ユミルとサルートが、ドン引きしている――これは良くない。

 

 旅隊から俺を排除しに来たイミルを撃退したのはいいが、別の意味で旅隊に居づらくなってしまうではないか。


 思えば、似たようなことが現代日本元の世界でもあった。パワハラ上司とその腰巾着を、俺を始めとしたその他の社員で囲んで糾弾にしたところ、その後の調査でパワハラの原因が俺たち部下の無能さと反抗的な態度により上司が心のバランスを崩していたことにあったと判明し、酷く気まずいことになって、結局、上司を含む同じ部署の社員が、俺を除いて全員退職したことが――なんて記憶、思い出しちゃダメ! 絶対! 10年近く前のこととはいえ、まだ心のカサブタが取れきってない記憶なんだから!!


 とはいえ、どうにかしなきゃならない状況なのは変わりなく――かといえ、どうにも出来なさそうなのも、また変わりなかった。


 これは、あれで行くしかないか。

 ドローカード――『開き直り』!!


……いかん。それは、一番やってはいけないことだ。


 と、そんな時だった。


「イミル。それにユミルも。君たちは……何をやっているんだ?」


 聞こえてきた声は、イミルとユミル二人の龍を咎める、とても弱々しい声だった。


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