第13話 クソガキ登場

「惜しい?」


 話の流れは予想がつくが、一応、先を促す。


 サルートも、それを察したらしい。

 両手を胸の前にかざすと、言った。


俺ではないよ・・・・・・


「ほお。じゃあ誰が、俺を追い出してくれるんだ? ――その役目を、誰が?」


 惜しい・・・とサルートが言ったのは、俺を旅隊には置いておけない。そのことが惜しいと――そういう意味に違いない。だが俺も、出てけと言われてあっさり出て行くつもりはない。となると、誰か・・が力づくで俺を追い払うということになる。いま問うているのは、その役を誰が・・やるかということだ。


 マップと『鑑定』で見た限り、旅隊の中で、サルートはそれを任せるに足る順位の強者だ。


 では、サルートでないとするなら、誰が?

 

「『彼ら』だ」


 サルートが、次のタバコに火を点けた。


「護衛任務は、たいがいが寄せ集めだ。腕も性根もバラバラな寄せ集めの連中が、折り合いを付け、それが付けられないやつは切り捨てながら任務を全うする……そういうもんだ。その点、この旅隊はかなりのもんだ。最初から付けられる奴・・・・・・だけが集められている。でもなあ……それでも、だからこそか。紛れ込むものなんだ。腹に一物抱えた奴ってのがな」


「俺がそうだと?」


「いや、あんたは違う。あんたはもう1つの方……とにかく、そういう奴らを『彼ら』は見逃さない。すれ違った商人に目配せしたり、休憩中にほんの僅かのあいだ姿をくらましたり……そういうのを『彼ら』は見逃さず、夜のうちに始末する。そいつらが何を企んでたのか、俺たちが知るのは何もかも終わった後だ」


「ほお……」


「そして『彼ら』が始末するのは、そういう奴らだけじゃない。もう1つ……あんたはこっちの方だ。『彼ら』があんたを始末しようとするだろうと、あんたが『彼らに』始末されるだろうと判断するに足る、もう1つの方・・・・・・の理由を、俺は、あんたから感じている」


「もう1つの方の……理由?」


「『強さ』さ」


「…………」


「あまりにも強すぎる誰かさんを『彼ら』は見逃さない――旅隊への帯同を許さない。そこそこ・・・・なんて悪い冗談だ。見えるんだよ。戦場で鬼神や死神だなんて呼ばれてる奴ら、ダンジョンの一番奥で冒険者を喰らって生きてる奴ら、そしてそんな奴らの首を容易く刈り取って帰って来る奴ら。そういう奴らが纏ってるのと同じ、暴力が凝り固まって出来た衣みたいなものを、あんたも纏っているのがな。おそらく、あんたは強い……『彼ら』の排除の対象となる程に」


 火が震えている。

 サルートの持つ、タバコに点る火だ。

 指先から始まった震えが、たちまちサルートの、太い全身を支配していた。


 突然、現れた気配が言った。


「おじさん、強いんだって?」


 声は、サルートの背後からだった。

 その気配に、俺も震える。


「セシリアのお気に入りなんだって?」


 震えが、止まらない。

 

「ウラガンや、ミギルにも一目置かれてるんだってね――気に食わないなぁ」


 サルートの背後から現れたのは、二人。


 二人の、子供だった。


 どちらも顔立ちは美しく、着ている服も上等なものだ。


 一人の陰にもう一人が隠れるように立ち、こちらは気が弱そう。


 そして前に立つ、さっきから喋ってるもう一人。こっちは言うまでも無いだろう――見事なまでの、クソガキ面だった。


「でも信じられないよねえ。ザコ面だしぃ。ぶるぶる震えちゃってるしぃ。ザーコザーコ。怖くて何も言い返せな~い」


 クソガキがクソガキ的な語彙をクソガキ的な声で放つと、サルートがタバコを落とした。


 粘っこそうな汗を流しながら、驚愕の目で俺を見てる。


 ああ、俺は――


 顔を伏せ、サルートのタバコを目で追いながら、歯を剥き出し、俺は笑っているのだろう。


 アルケインレジェンドゲームでも、こういうのはよくあった。夏休みの中学生に暴言を吐かれるたび、HUDヘッドアップディスプレイの中で口の端を吊り上げ、全身を震わし、俺はこう言ったものだった。


『うわあ、こわ~い。おじさん、顔が真っ赤になっちゃうよ~』


 そして、ボコボコにしてやるのだ。


 マップを見ると、子供たちふたりを表す点は、味方でも黄色中立でもなかった。


 ですらなく、白い輪郭で描かれてるだけの――ただの丸だった。


 アルケインレジェンドゲームで、こんな表示がされるキャラは2種類。


 1つは、イベントの起点となるNPC。

 そしてもう1つは――レイドボスだ。

 

 クソガキが言った。


「ほら、強いんでしょ? 震えてないで来なよ――壊してためしてあげるから」


 ここは アルケインレジェンドゲームの世界じゃない。

 だから、垢BANの心配はない。

 だから、暴言を吐いても無問題――俺は言った。


「てめえが来いよ、クソガキ……ぶっ殺してやる」


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