第11話 呼び捨てでいい
「ユウキ殿、1つ提案があるのだが――私は、龍との契約に向かう
俺に、否は無い。
「願ってもないことです。是非ともお願いします」
正しくとも微妙な言葉遣いな気もするが、まあいいだろう。前のめりな感じが伝わって、かえって好印象かもしれない。
「で、ではちょっと待っていてくれ!」
セシリアも、ぜんぜん気にしてないみたいだった。
わちゃわちゃと、ドラゴンロードに向かって駆け出す。
ドラゴンロードまでは数百メートル。
平地ならともかく、森の中では仲間とはぐれ、すれ違い、遭難するのに十分な距離だ。
だが、心配は無いだろう。セシリアは仲間の位置を感知する魔道具を持っているとかで、マップでは、セシリアを示す青い点が旅隊と思しき黄色い点の群れに向かってまっすぐ進んでいる。
旅隊は、セシリアの帰還を待ち足を止めているようだった。
セシリアが旅隊に合流するまで5分。それから10分ほど、いくつか点の密集した場所に留まり、それと離れ、また他の点の集まった場所に動き、更にまた5分で俺のいるところに戻ってきた。
セシリアだけでなく、もう1つの点を伴って――誰かを連れて。
「ユウキ殿~! ユウキ殿~!」
「こちらです! セシリア様!」
手を降って迎える。
セシリアに同行してきたのは、30歳そこそこに見える髭面の男だった。
その男が、俺を見た途端、腰を抜かした。
「ひぃっ!」
「どうした!? ウラガン!」
「ひ、ひひひひ! ひ! ひぃっ! なんなのだこれは!?」
「だからどうしたウラガン!?」
俺を見るウラガンの目は、驚愕に彩られている。
そんなウラガンを見て、セシリアも驚いていた。
俺も驚いてウラガンを鑑定――理由がわかった。
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ウラガン・ヌマス(28歳)
種族:人間
職業:聖騎士
レベル:36
HP:190/220
MP:90/120
AGI:80、STR:120、AP:88、ATK:130、DF:120、DV:140、Dex:100
スキル:格闘Lv8、剣技Lv7、投擲Lv10、身体強化Lv6、治癒魔法Lv2、
空間魔法Lv2、魔力操作Lv3、魔法耐性Lv8、危険察知Lv8
称号:近衛騎士団精鋭
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セシリアを頑丈にしたようなステータスだが、注目すべきはスキルだ。
『危険察知Lv8 』
ウラガンの異常な反応は、おそらくこのスキルが原因だ。
『危険察知』で相手の
Lv4のセシリアが俺を見ても、単純に味方としか判断できないだろう。しかし、Lv8のウラガンから見た俺は、味方なのは確かなのだが、しかし…………
「あ、青……味方!? なのになんということだこの脅威度は!? この巨大な反応は!」
「だからウラガン、どうした!? どうしたというのだウラガン!!」
「セ、セシリア様、こ、こんな。これは……」
白々しく、俺は訊ねた。
「どうされましたか? よろしければ水筒に茶を用意してありますが」
ウラガンが、俺の方を向いて言った。
「目の前が、真っ青です。何もかもが青く塗りつぶされて、青以外は何も見えない――アナタほどの方なら、こう言えばお分かり頂けるのではありませんか?」
「なるほど、そう見えましたか」
『マップ作成』スキルを持たない人間には『危険察知』の伝える情報――
「では、これならどうでしょう?」
ストレージから出した舐めプ用のアイテムを付けまくって、ちょっと強い初心者くらいのステータスに弱体化してみた。
すると。
「お、おお……それでも、これほどに。青が、
でもまだ、相当な強さみたいだ。
ウラガンが落ち着くのを待って、俺は名乗った。
「ユウキと申します。未契約のドラゴンテイマーです」
ウラガンは、呆れたような諦めたような表情で、何かを呑み込むように息を吐くと名乗った。
「……
「そこは呼び捨てで」
「ユ、ユウキ――ええ、その……」
「呼び捨てにふさわしい話し方で結構です」
「お、おお……うん。あ~、ユウキ。お前……かなり強そうだな。その気があるなら、護衛に雇って……やる。龍との契約も良い順番を回して……やろう」
「是非とも、お願いします」
「じゃあ、車列に戻って契約しよう……こんな感じで? 宜し――いや、いいか?」
「ええ、結構です」
こうして、思ったより簡単に旅隊に混ざることが出来た。
(上出来上出来)
と、内申にんまりしていると。
セシリアが、上目遣いで俺を見て言った。
「ユウ……ヤ? 私も呼び捨てで良いかな?」
「はい。もちろんですセシリア様」
「だったらユウキも、もっとそれなりに……な」
「?」
もじもじするセシリアに、俺が戸惑ってると、ウラガンが、苦笑とともに助け舟を出してくれた。
「ほら。俺たちは冒険者だから。既に察するところもあるかもしれないが――察してもらえると有り難いのだが」
ああ、なるほど。
俺も察してないわけではなかったのだが、
ウラガンが続けた。
「
「ああ、それでいい。よろしく頼むよ、ウラガン」
「おう。言うまでも無いだろうが、
「了解だ。
そうウラガンに答えて、俺は付け加えた。
「君がくれたチャンスを無駄にはしない――
どこか赤らんだ顔で。
セシリアが、ぱあっと笑って言った。
「おう。期待してるぞ! ユウキ!」
そして俺たちは、旅隊の待つドラゴンロードに向かう。
先を行くウラガンとセシリアを見ながら、俺は考えていた。
(察するところ……)
聖騎士という職業もそうだし、俺という絶対強者と出くわした際の言葉遣いもそうだ。
ウラガンが察してくれと言ったのは、ここから先だろう。
龍と契約するため旅隊を組めるのは貴族か豪商。
その護衛に貴族がつくこともあるだろう。
しかし、
これは、どういう意図でだろう?
ヒントは、二人のステータスにあった称号だ。
『近衛騎士団精鋭』
こんな二人が護衛につくということは、二人が護衛している『さる御方』というのは、貴族――それも、貴族の上に立つような貴族だ。
おそらくはお忍びで。
そうでもなければ、
そして、お忍びで龍と契約しなければならないのは、キナ臭い事情があるから――結論としてセシリアの
『王子の守護者』
さて、俺はどう動いたら良いんだろうね?
もちろん、何もしないという選択肢もあるのだろうが。
さっき見た、セシリアの笑顔を思い出してしまう俺なのだった。
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