第8話 ドラゴンロードを探せ!

 アルケインレジェンドゲームでの話だが――


 カンストするスキルが3つを超えたあたりから、俺は、強さを求めることをしなくなってたと思う。


 もちろんレベルアップには励んでいたが、以前よりガツガツしなくなったというか、強くなることを主眼としたスタイルではなくなっていた。


 山の頂の直前で、あえて回り道するような感じ、とでも表現したらいいだろうか。別サーバーで1から新キャラを育てたり、舐めプとは言わないが、あえて初心者用の装備を着けて弱さを楽しむようなプレイをするようになっていた。


 頂にたどり着いた後のことを思い躊躇ってたのだろう――実際、すべてのスキルがカンストした後の俺は、どこか倦んでいた。


 それが、強さの上限が取っ払われたとなったら燃えるよな。

 

「『SFソルジャー』を選択っと」


『SFソルジャー』は、数年前に発売された装備セットだ。


 武器も装甲もほどほどで操作性も大味だから、中級以上のプレイヤーには物足りないセットという評価。だがこのセットの真価は、そこではない。


 滞空能力だ。


 低い段差を乗り越えられるくらいのホバリング能力があるのだが、MPの消費量を上げることで、高度と滞空時間を上げることができる。


 朝になり、いま俺は高度300メートルでホバリングしている。


「それでもまだ全部は見えないか……」


 ルソルコの森は広く、高度300メートルでも全容を見渡せない。おまけに立ち並ぶ巨木は100メートル以上の高さで、目当てのもの・・・・・・を見つけることは出来そうになかった。


 いったん着地して設定を変更。

 消費MPを1秒につき50から600に増やし、再びジャンプ。


「これなら……おお! あったあった!」


 今度は、見つかった。


 俺が探していたのは、森の南端から10キロあたりに通された道――龍と契約するドラゴンテイマーは、この道を通ってドラスケ山を目指す。


 ドラゴンロードと呼ばれる道だ。


 ドラスケ山までの道のりは険しく、数十人規模の旅団を組まなければ到達は不可能。だから、人を雇う金のない貧乏人に龍との契約はできない……というのは、既に言った通りだ。


 しかし、これには抜け道がある。


 ドラスケ団を目指す旅団に、護衛や荷物持ちとして混ぜてもらうのだ。


 それにはある程度のコネや心付けが必要で、あくまでおまけで付いてく身だから扱いは酷く、魔物と出くわしたときは置き去りにして時間稼ぎに使われたりもするらしい。


 だが、躊躇っても仕方がない。


 ドラゴンロードに行き、通りがかった旅団に話を持ちかけて、合流させてもらおう。


 わざわざそんなことをしなくても、直接一人でドラスケ山に行けばいいじゃないかという考えも浮かんだが、脳内会議で即座に却下された。


 一人で行ったところで、肝心の龍と契約する方法を俺は知らない。旅団のドラゴンテイマーが契約するのを見て学ぶしか無い――結局、旅団に混ざるのが一番手っ取り早かった。


 うん。これで行こう。


「行こう」


 そういうことになった。


 と、その前に――


 腹拵えしておこう。

 いささか気が重いが、あのスキルを使うことにする。


『異世界通販』だ。


 昨夜、熊を倒した直後にこのスキルを試したのだが……以下、そのときの回想。


ここから回想===============


「異世界通販か……使えるのかな? 異世界こっちの金は持ってないんだが……おう。現代世界あっちの預金がそのまま使えるのか。残高がいくつも並んでるのは、銀行口座ごとになってるんだな。グレイアウトしてるのは定期預金の口座か。お、証券取引の口座もある。じゃあ配当も入ってくるのか? 口座間で金を移動するのは別画面か。タ◯ラトミーの|株主配当で貰えるタ◯ラトミーモールでの買い物が40%引きになるクーポン《クーポン》は、使えるのかな? とりあえず買い物タブでコンビニを選択して、と。おおう。買い物するコンビニの支店名まで選べるのか。支店によってホットスナックの出来に違いがあったりするからな。そこらへんも考慮してるのかな。ではうちの近所のあの店で、幕の内……いや、ハンバーグ弁当にしよう。温めますか? 温めます、と――ふううううううう! 肉! 米! デミグラスソース! 異世界の農家じゃこんなの食えなかったし! まあ15年っていっても俺の意識の連続性としては1日も経ってないわけだが! わけだが! というわけで、いただきま~す!! …………なんだこれ不味い! 不味い! 不味い! くそっ! 異世界こっちの雑な料理に慣れた舌が複雑な味を受け付けない! 口の中を刺すような痛みは精製された塩とかアミノ酸とかのせい? ひぃぃぃぃっ! 吐き気とともに襲ってくる悪寒! 心臓がばくばくいって血管がぎゅーっと縮んで、これは――アナフィラキシーショック!? 死ぬ! 死ぬ! 死んじゃう! 状態異常無効さん仕事して~~~~~っ!!!!」


===============回想終わり


 というわけで、異世界で15年間暮らした俺の体は、元の世界の料理を受け付けなくなっていた。


 だが、慣れないわけにはいかないだろう。今後、異世界通販このスキルでしか食料を調達できない事態に陥る可能性もあるわけだし。


 ただ1つ、これで分かったのは――


「飲食業無双は無理か……」


――ということだった。残念。


 身体を慣らす手始めとして、スーパーの野菜を生でかじるところから始めてるが、これも微妙だ。状態異常無効さんも学習したらしくアナフィラキーショックは起こらない。ただ単純に味への不満があるだけだ。品種改良された野菜や、輸入ものの岩塩にすら異世界人の味覚は違和感を訴えてくる。


 今いる場所からドラゴンロードまでは、直線距離で100キロ強。


 その間、多数の魔物と戦うことになるだろうが、彼らを食べるつもりは無い。


 魔物の肉は、異世界の自分ギリーにとっても未知の食材だ。旅団と合流したら、調理法を教えてもらえるかもしれないから、それまで魔物の肉は食べないことにしよう。


 そんな誓いを立てながら、ドラゴンロードに向けて出発する俺なのだった。


 

 

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