第6話 初めての戦闘
『危険察知』は、『マップ作成』に付随したスキルだ。
設定した感度に合わせて、危険をマップに赤く表示してくれる。
デフォルトの感度は10で、これ以上感度を上げると、足元に転がる石や顔の高さにある木の枝まで危険扱いされてマップが真っ赤になってしまう。
熟練したプレイヤーの平均は4で、ここからのプラスマイナスは、それぞれの個性に因っていた。
ゲームで俺は3に設定していたのだが、とりあえず今はデフォルトのまま行くことにする。
ステータスは、アルケインレジェンドのキャラと同じ――最強レベルになってはいるが、記憶を取り戻した直後だし、これはゲームじゃなくて現実だし、ということで。
現実とゲームでスキルとパラメータ構成が酷似している点、そしてそれ以前に普通にステータスが見られてる点についてはつっこまずにおこう――何しろ、神がやったことだしな。
と、そんなことやってる間に、マップに赤い点が現れた。
10メートルほど先だ。
その辺りに目を凝らすと……
草むらに、角をはやしたウサギがいた。
「おおう!」
若干うろたえながら、俺は、顔の前に手をかざす。
ばしっ!
小気味よい音とともに、手の中に重みが現れる――それを、掴んだ。
「ギィッ! ギギギギッ!」
ウサギだ。
10メートルを跳び超えて、ウサギが襲いかかってきたのだ。
軌道からすると、俺の首を狙ってたんだろう――掴んで止めなければ、確実に死んでた。
「悪いな……俺はモ◯ティ・パイソン観てるからな。ウサギには油断しないんだよ」
軽口は、余裕からじゃない。
いきなりの初戦闘で、動揺したからだった。
証拠に、心臓がバクバクいって――いきかけて止んだ。『状態異常無効』――その下にある、精神系のサブスキルか。
「ギギギッ! ギッ! ギッ! ギギギっ!」
「…………………………」
「ギギギギッギギギギギギッギッッッッ!!」
「…………………………………………」
頭を捕まれ身を捩るウサギを、しばらく眺め。
地面に押しつけ。
ゆっくり、膝で踏み潰した。
「ギィ――――――――――――――――ッ…………………………………………ッッッ」
こうして、俺の初戦闘は終わった。
その後で、思い出したことがある。
「あーーーっ! くそっ! やっぱ浮足立ってんな!!」
今更だが、チェックしてないステータスがあった。
ストレージだ。
「こんな
俺の装備は村を出てきたときのままだった。
農民の服に農民のズボンに農民のサンダル。武器に至っては、手にぶら下げた空の酒瓶という無防備っぷりだ。
ありえないだろう。
慌ててストレージをチェックすると――
「良かったあ~~~~~」
――アルケインレジェンドで入れてた装備やアイテムが、そのまま残っていた。胸をなでおろす俺だったが、しかし、それならそれで……
「あ~~~っ、どうしよう。『レインボードラゴン』か『激渋オッサンセット』か『SFソルジャー』か『ヤクザウォリアー』か、それともいきなり『サウザンド・フォックス』か!?」
今度は、保存してたどの装備セットを使うかで悩んだ。延々、10分くらい悩んだ。あまりにはしゃぎすぎ、危機感なさすぎといえよう。
だから、急かされたのかもしれない。
マップに、再び赤い点が現れていた。
さっきのウサギのときより、ずっと大きい。
つまり、ずっと強い危険。
敵。
「ウサギの次に熊って、
生い茂る木々を押し分けながら現れたのは、赤い目をした熊だった。
逆に、冷静になって俺は決めた。
「よし! 『激渋オッサンセット』だ」
激渋オッサンセット――それは、フレンドの『オッサン』というキャラクターの装備がカッコ良かったのでパクって真似した装備セットだ。
眼帯にバンダナ、防弾ベスト、タクティカルグローブ。獲物はハンドガード付きのナイフで、これをダークブルーとブラックのツートンで渋くまとめている。
ちなみに『真似してごめん!』とオッサンに謝ったところ、彼は言ったものだった。『いいよいいよ。おれのも、スネ◯クとスプリ◯ンの御神◯優のパクリだから』と。
というわけで、装備セットを選択した次の瞬間、俺は激渋オッサンセットに身を包んでいた。
「グルルル…………」
熊との距離は7メートル。
突進されれば、一瞬でゼロになる間合いだ。
俺はサイドステップで、近付くでもなく遠ざかるでない位置をキープしながら左右に往復――こうすることで、熊に突進するか否かの判断を保留させる。
「グルルルルルルル…………」
その間に『鑑定』スキルを使用。
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ルビーベア(成体)
脅威レベル:D+
スキル:チャージアタックLv3、身体硬化Lv2
ドロップアイテム:魔石(中等)、ルビーベアの皮、ルビーベアの肉、ルビーベアの目玉
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さて、D+というのがどのくらいの強さなのか。ウサギも鑑定しておけば比較できたんだろうが、いま言っても仕方がない。
とりあえず、いまは――
「速攻&即逃げ!」
逆手に握ったナイフを振り抜き、俺はジャンプした。
真上に真っ直ぐ跳んで、数十メートル。
巨木の枝につかまって見下ろすと、熊が子猫くらいの大きさになってた。
「………………」
熊の声は聞こえない――黙っている。
「……………………」
俺も、黙って見てた――体感で、十秒近く。
すると――ずるり。
熊の体が、胸辺りでずれて。
ぼとり。
上半身が、地面に落ちた。
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