第4話 チート全部盛りにするため盛大にゴネる(俺以外のやつが)

 なんか光の通路みたいなところを歩いて、終わると異世界だった。

 というわけでもなかった。


 セレブ向けのマンションのエントランスみたいな場所に出た。


「こいつ、神様」


 アロハが顎で差したのは、なんか気の弱そうな美少女だ。


「神です」


 それだけ言って、神様かのじょは目を伏せる。


 明らかに迷惑そうというか、関わり合いになりたくないって雰囲気で『こっち見んな』とか『話しかけるんじゃねーぞ』って文字が周囲に浮かんでるようだった。


「異世界転移っていったら、まず無限収納だろ? それから経験値100倍に状態異常無効に魔法適正無制限に万能言語理解に……」


 しかしそんなの関係なく捲したてるアロハを見て、俺は確信した。 


 このひとはアロハと性格が合わないっていうか、日常的にアロハに迷惑をかけられてるに違いない。


 そして往々にして、迷惑をかけてる側はそんなの全然気にしていないのだった。


「あとはアレだ。最近の流行りとして異世界通販も外せないだろ」


 確かに異世界通販は最近の流行りだけど、あくまで俺の世界の最近だろ。


 そんな知識、いつの間に調べたって――あれ?


 俺のファボを漁ったときみたくネットで調べた、というのも可能性が高いけど。


 でも……もしかして。


 ちょっと躊躇って、俺は訪ねた。

 神に。


「もしかして、俺の前にも転移者っていたんですか?」

「いるぜ――オマエの世界からも来てる。今回の件とは別にな」


 神ではなく、アロハが答えた。


「神は持ち回りだからさ。世界の発展具合とか関係なく、時期が来ると担当者が変わるんだよ。こいつは2000年前からこの世界を担当してるんだけど、担当するのはここが初めてっていう新人でさ。だからこの世界は他の世界よそから舐められてる。世界の発展具合とか守護者の強さとか関係なく、半人前の、経験不足な、ド新人の神が担当してるってだけの理由でな!」


「…………」


 神が黙して語らずなところを見ると、本当なんだろう。

 アロハは、調子に乗ってる時の虹◯億泰みたいな顔で続けた。


「それで舐められてるこの世界には、他の世界から結構な頻度で転移者が送られて来てる。間違えて死なせちゃった奴とか、自分の世界ところで召喚したけど手に負えなくなった勇者とかそういうのがな。また転移者を送ってくるのがこいつの上司とか先輩の神だから適当に扱うわけにもいかなくてさ。漏れなく派手目なチートをくれてやらなきゃならないわけよ。ちなみにオマエの世界の神は、こいつの上司の後輩の部下で――」


「…………無理です」


「はあ?先輩の神あいつらから押し付けられた転移者にはチート付けるくせに、オレが連れてきたこいつには無理って言うのかよ!?」


「チートは、本人の性格や元の世界での特技に紐づけて与えられるものです。普通は言語理解にプラス1つか2つ。勇者なら3つくらいまで付けられますけど……勇者は、もう5人以上いますし」


「オマエが舐められてるせいで押し付けられた勇者がな!!」


「……教えてください」


「え? 俺?」


 神が、俺に訊いてきた。


「ぴえんは、まだ流行っていますか?」


「流行ってないです」


「そうですか……」

 

 泣きたいってことなんだろうな、これは。

 プラス流行りの言葉で、あざとく可愛い自分を演出してみたかったって感じだろうか。


「…………」

 

 神は、非難がましいような恨みがましいような顔で俯いてる。


 プラス、じっとりした上目遣いで。


 そしてやっぱり、そんな神の様子なんで無視して、アロハは言うのだった。


「心配すんなって。こいつには『世界守護者オレの加護』って称号を付けるから! それなら勇者より格上だし、どんなチートを付けても問題ないだろ?」


「それなら……でも……やっぱり……転移していきなり加護持ちになるのは……」


「じゃあ、転移じゃなくて転生ってことにして農民の子供に生まれ変わらせる。神託の職業は『ドラゴンテイマー』で、前世の記憶を取り戻すのは15歳の誕生日! これならどうだ!?」


「それなら……」


「ヨシだろ!!」


「…………ギリで、ヨシです」


「ヨシ!!!!」


 そんな神とアロハのやりとりを聞きながら俺は、


(ヨシなのか……)


と思うくらいしか出来なかった。


 だから、聞き流してしまったのだ。


 目の前に現れた光がみるみる大きくなり、俺を包み込み。

 神やアロハの姿が薄い影となっていく、その中で。


「……いいですよ、別に。これで私達の企みが、上手くいくのなら。だったら私は…………」


 聞こえてきた、その声を。


 とにかくそんな感じで、今度こそ俺は異世界に転移――いや、転生したのだった。

 

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