cys:5 覚醒の光
「うっ、これは……!」
地獄のような光景とはよくいう表現だが、そこは正にその言葉がピッタリ当てはまるような光景だった。
ノーティスがフェクターのいる場所に駆けつけると、辺り一帯は破壊された建物から巻き上がる粉塵に覆われていた。
その中には重傷を負って血を流している人や倒れている人、さらには、フェクターに無惨にも引き裂かれた死体。
その側で燃え上がっている炎。
「うぅっ……」
そして、それらを見下ろし地の底から湧きで出来たような咆哮を上げる、巨大なフェクターがその場を支配していたのだ。
「グガァァァァッ!!」
そのフェクターから人々を守りながら、命をかけて戦っているのは街の衛生兵達だが、フェクターの強さに苦しい顔を浮かべている。
「くっそ、なんて強さだ。それに、剣が通らない!」
「矢も全然効かん。もう、こうなればスマート・ミレニアム軍に要請をするしか……」
「いや、あの人達は敵国トゥーラ・レヴォルトと戦うのが使命だ。街の平和は、俺達が守るしかないんだよ!」
衛生兵の指揮官は勇ましいが、フェクターの大きな一撃により仲間達がブワッ! と、吹き飛ばされてしまう。
「うわぁぁぁぁっ!!」
「ぐはっ!」
何とか耐えてる者も、顔色は良くない。
「ちっ……フェクターを止めるには倒すか、暴走してる魔力クリスタルを破壊しなきゃいけねーんだよな。全く……厄介だぜ!」
そんな絶望と粉塵の舞う中、ノーティスが必死になって目で追っていたのは、さっきのあの少女だった。
───どこだ? あの子はどこにいる?! それとも、上手く逃げれたのか……?!
ノーティスが左右に目を凝らしていると、立ち昇っていた粉塵が少しずつ晴れてくる。
すると、その時ノーティスの目に飛び込んできた。
フェクターのすぐ近くで、倒れている母親を両手で揺さぶっている、さっきの少女の泣きじゃくる姿が!
「お母さん起きて! このままだと殺されちゃうよ!」
けれど少女の母親は、倒れたまま微動だにしない。
まだ息はあるみたいだが頭から血を流し、相当な重傷を負っている。
「お母さんっ! お母さんっ! ボクと一緒に逃げよう!」
少女は母親を何とか助けようとしているが、無惨にもその背後ろからフェクターが、ズシン!! ズシン!! と、大きな足音を立てながら迫ってきている。
それは衛生兵達も分かっているが、危険すぎて近寄れない。
「隊長! このままではあの親子が……!」
「くっ……! 分かっている。だが、今のこの状態で近寄れば確実にやられる」
「じゃあ、どうしたらいいんですか?!」
彼らがそうしているのをよそに、ノーティスは少女の下へ全速力で駆け寄り、フェクターに向かい両手をバッと横に広げて睨み上げた。
「やめろ! この人達に危害を加えるな!」
すると、フェクターはグルルルルルッと、熱い吐息を吐きながらノーティスをギロッと見下ろした。
巨体から凄まじい魔力を放ち、血のように赤い瞳にノーティスを映して。
正に絶望とも言える状況だが、ノーティスは勇気を振り絞り、そのプレッシャーに立ち向かう。
「フェクター! キミの気持は少し分かる! 俺は……無色の魔力クリスタルなんだ! そのせいで、クラスメイト達からはもちろん、世間や親からも疎まれ捨てられ蹂躙されてきた。俺だって、好きでこんな魔力クリスタルになった訳じゃないのに……」
フェクターに言葉が通じるハズも無いが、フェクターは少し動きを止めた。
「キミだって、そういう意味では一緒だろ。しかもフェクターって、魔力クリスタルの故障だけじゃなくて、強い怒りや悲しみとかの感情で魔力クリスタルの回路が暴走する……それが原因の場合も多いって聞く。だから、その時の感情に合わせた姿になるんだっていうのも……」
ノーティスはフェクターを見据えながら、さらに言葉を続ける。
ありえないかもしれないが、その姿は、本当に大切な友に語りかけているように思えてしまう。
「だから分かるんだよ。俺だって、みんなからあんな風に酷い扱い受けて、凄く憎く思う時だってあるし、正直、世界を呪った事だってある。けど……けどさ、味方もいるんだよ! どんな状況でも、頑張って生きてれば!」
フェクターは明らかに動きを止めていたが、ノーティスの事を怒りの眼差しで見下ろしているのは変わらない。
なので、それを感じた衛生兵の隊長は、ノーティスに向かい大声で叫ぶ。
「キミ! フェクターを説得なんて無理だ! 危ないからそこから離れて!」
その叫びを背中に受けたノーティスは、フェクターの方を向いたまま、決死の想いを振り絞って衛生兵の隊長に答える。
「俺が殺されたら、その隙にこの子と母親を助けてください!」
「キ、キミはなぜそこまで……!」
「……この子は俺に命を吹き込んでくれたんです。だから……この子だけは、俺の命に代えても守り抜きます!」
その時、衛生兵の隊長は思った。
いや、その場の誰もが思った。
───この子を死なせたくない!
けれど無情にも、フェクターは唸り声を上げるとその巨大な腕を振り上げた。
「グガアッ!!」
死を覚悟したノーティスは、目をギュッとつぶって叫ぶ。
「この子だけは救ってください!!!」
その瞬間、ノーティスの魔力クリスタルが突然白く鮮やかに煌めき、強く大きな白い光を放った!
それを見た衛生兵達は、今まで見た事のないあまりに眩い輝きに思わず目を細め、片腕で顔の下半分を覆う。
「こ、この光は……!」
また、フェクターもその輝きを受けると、振り上げた腕をピタッと止めた。
しかし、その輝きはすぐに消えてしまったので、フェクターは再び拳に力を込め、ノーティス目掛けて振り下ろした!
「グガァァァァッ!!」
───もうダメだ!
その場の誰もがそう思ったその刹那、
「お前の輝きは希望の光だ『エッジ・スラッシュ』!!」
という男の声と共に、ノーティスの後ろから一瞬の閃光が走り、フェクターの魔力クリスタルを貫いた。
すると、フェクターの魔力クリスタルはパリンッと音を立てて砕け散り、フェクターはみるみる内に元の人間の姿に戻って、その場にドサッと倒れ込んだ。
その光景を見た皆は、ノーティスも含め一体何が起こったのか分からず唖然としている。
あの獰猛なフェクターの魔力クリスタルを一閃するなど、正に神業としか言いようがないからだ。
「あっ……な、なんて男だ!」
そんな中、フェクターの魔力クリスタルを一瞬で砕いた長身の男は、ノーティスにゆっくり近づいてきた。
その流れる前髪からチラッと見える、クールで自信に満ち溢れた艶やかな瞳を向けて。
ノーティスはその男が誰なのか全く分からなかったが、フェクターの脅威が去った事だけは分かった。
そしてその瞬間、疲労感がドッと全身を駆け巡り、その場にドサッと倒れかけてしまう。
が、先程閃光の技を放った男は、倒れかけたノーティスを片手でサッと支え抱き抱え、ノーティスを見ながらニヤッと笑った。
「おっとぉ。地面で寝るのはオススメしないぜ♪」
そして、虚ろな目をしたノーティスを抱きかかえたまま、凛とした眼差しでノーティスの顔を見つめる。
「よくやった。お前の魂が俺をここへ呼び寄せた。後はお前のその輝き、俺が極限にまで高めてやる。お前が俺の……後継者だ!」
「後…継……者?」
突然そう言われても、ノーティスは一体何の事か分からない。
ただ、今はそれを考える気力も残っておらず、ノーティスはその男の腕の中でスッと眠りに落ちた……
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ご覧になって下さってありがとうございます
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次話から遂に、スカッとざまぁの始まりです!
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