烏
オオカミ
彼とて人間
この近年、死亡率は高くないものの感染率が高い病気が流行していた。感染経路は主に空気感染だと言われていた。
そんな病の特効薬は徐々に開発されていたが、全員の体に薬が合う訳もなく、数種類の薬を作り出す事を人間は試行錯誤していた。
しかし、病の方も形変えながら人間に猛威を振るっていた。
私も感染し生還したその1人だ。後遺症としてはたまに体が痒くなる程度で重度の方だと夜も眠れない程の痒みや、痛みに襲われるらしい。
軽度でよかったと思う反面、再び感染するまでの期間が短いと言われ、早い人では2ヶ月後にはもう一度感染する人も居るらしい。
2度もかかりたくないと私は欠かさず薬を飲み続け、常に検査を忘れないようにしていた。
そんなある日家のチラシに何やら怪しい黒い封筒が入っていた。私は恐る恐る封を切った。
中には黒い紙に白い文字で
「今宵21時にお迎えに参ります。」
とだけ書かれていた。送り主の名前など他の情報は何も無く不気味さを私は覚えた。
私は逃げようかと思ったが、何故か逃げても見つかるような気がした為、大人しく時間まで家で待っていた。
そして21時。ドアをコンコンと叩く音がした。
「はい…どちら様でしょうか?」
「…手紙を出した者」
「私に何の用ですか?」
「…流行り病について話がある」
その言葉に私は目を見開いた。私は今この病に言ってしまえば怯えている。それを誰かわからない人から話があるというのは上手い話しすぎるのはわかっているが、話を聴きたくてどうしようもない自分がいた。私はゆっくりドアを開けた。
そこには鳥のようなマスクをつけた黒いローブに身を包んだ背の高い人が居た。
「…面会感謝する。早速着いてきて欲しい。」
「え。いや身支度も何も…」
「必要ない。」
そう言われ半場強引に馬車に載せられ連れていかれた。馬車は夜の森の中を颯爽と駆けていた。
着いたのは大きな不気味さが漂う館だった。
この館で何がされているのか私は今から見ることになるのだろう。そう思っていると扉が開いた。
「…着いた。来い」
「はい。」
馬車の高さはそれなりにあり私はどう降りようかと悩んでいると、黒い手袋をした手が伸びてきた。言葉はなく手を伸ばしたまま微動だにしない。
「ありがとうございます」
私はその手を掴みゆっくり馬車を降りた。
館は薄く電気が着いており、他に誰かいるのかも私には分からない。入口に来ると手袋と質のいいマスクを渡された。
「…予防。着けろ。」
「あ、はい。」
私は慎重に手袋を着けマスクを着けた。
中に入るとホールはロウソクで灯されていた。
中央に大きな絵がありそそこまで行くのに、左右に階段が弧をえがきながら伸びていた。
鳥のようなマスクをつけた人はそこではなく、地下へ繋がる階段の前で私を待っていた。
私は急いで着いて行った。地下に行くと、色々な瓶や試験管がずらりと並んでいた。
その中に蠢く何かがいるのを目をこらすと見えた。
「これ…は?」
「…流行り病。研究している。」
「どうして私をここに連れてきたんですか?」
「…敏感過ぎる。だから連れてきた。」
「な、何故それを…」
「…色んな病院を視察。何度も見かけた。」
その言葉に返す言葉がなかった。
私はどうされるんだろう。そう思っていた矢先、鳥のようなマスクの人は注射器を持ちながら近づいてきた。
「何をするんですか。」
「…実験。ワクチンを試す」
「なぜ私なのですか!」
「…予防の薬飲んでいる。1番適応者だと判断」
「私が断ったらどうしますか?」
「…俺が実験台。誰も興味無い」
淡々と話していたはずなのに私には悲しみの籠った声に聞こえた。私はきっとお人好しなんだろう。でも…
「わかりました。私に打ってください。」
「…感謝する」
私は椅子に座り、腕を出した。その腕を縛り血管を探しだしゆっくりと針を指した。
痛みはほぼなかった。
「今回、即効性のワクチン。1時間ほどで副作用出るはず。自由にしてろ」
そうして鳥のようなマスクの人は奥の部屋へ入っていってしまった。
私はこんな所で1時間も待機するのかと気が気ではなかった。数分で私は立ち上がり館を少し歩く事にした。
まず玄関ホールには悪魔の様な石像が何体も並べられていた。一部欠けていたり、傷ついていたりしていた。
石像の中には天使を貪っている悪魔たちの石像もあった。私はあの人は本当に人なんだろうか…そう不安になってしまった。
不安を胸に歩いていると食堂ホールへとたどり着いた。そこには作りたてのような料理がずらりと並んでいた。お腹がすいていた私の鼻にいい匂いが届いた。思わず食べたくなってしまうが人の物を食べるほど私は無礼では無いと言い聞かせ、我慢した。
私は少し迷子になっていた。気がついたら大きな階段がある場所に来ていた。私は階段を上がりその先に大きな扉の部屋を見つけた。
恐る恐る扉を開くと、中は誰かが暴れた跡が鮮明に残っていた。私は少し中に入った所で何となく体が熱いことに気づいた。そこから徐々に力が入らなくなり、倒れると僅かに残った力で受身を取ろうとした…が痛みは来なかった。
鳥のようなマスクの人が私を支えていた。
「…自由娘。」
「す、すみませ…」
そこで私の意識は途切れた。
目を覚ますと読書をしている鳥のようなマスクの人がそばにいてくれた。
「…副作用出ると言った。」
「あの部屋でじっとしている方が怖いです。」
「…それであの部屋を見たな?」
その声は少し怒りが混ざっていたように感じた。
「…ごめんなさい。あれは…貴方が?」
「…。俺だ。薬の副作用で破壊衝動が抑えられなくなる。」
そういうと鳥のようなマスクを外すとそこにはとても整っている顔立ちの男性だった。しかし顔は傷だらけで隻眼だった。思わず口を抑えてしまった。
「…怖いか。だからマスクをしている。」
そう言いながらマスクをつけ直した。
「な、何の薬を…?」
「…あの病は師匠の作った病。それの実験台となり身体が変わり果てた。人間の体を維持する薬。」
私は体の震えが止まらなかった。
痒みや痛みは細胞が変化していたからなのだと…
「…先程のワクチン。細胞の破壊を抑えるワクチン。そなたはもう大丈夫。」
「あ、あなたは…これからどうするのですか…?」
「…ここで死を待つ。」
その時私は何も考えずに次の言葉が飛び出していた。
「私が一緒に過ごします!貴方を1人にはしません!」
「…ッ!?」
マスク越しにでも驚いているのが目に見えた。
「私は初め貴女が怖かった。でも今は貴方と居たい。」
「…同情か。家まで送る。」
「違います!私は貴方のそばで貴方と最期を迎えたいんです!貴方の事をもっと知りたい!」
「…何故?」
「…寂しそうで苦しそうな貴方の言葉を聞いていると私も苦しくなる…私は貴方に笑って欲しい」
「…。」
「お願いします!掃除でもなんでもします!ここに住ませてください!」
「…掃除は要らない。好きに住めば良い。」
「!?あ、ありがとうございます!」
こうしてペストマスクの男性と1人の女性の生活が始まった。そして数十年後2人の遺体が見つかった時、2人は抱き合い幸せそうに亡くなっていたという。
烏 オオカミ @DendokuTOKAGE
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