第7話:複眼の男


「私たちをもっと楽しませてくれないと。いつまで経っても、貴方の大切な人たちがいる世界に戻れませんよ」


 複眼の男がニヤリと笑う。ムカつくけど、向こうから情報を持って来た訳だからな。情報を引き出してやる。


「おまえたちを楽しませれば、俺を元の世界に戻してやるって言いたいのか? そもそも、おまえたちが俺をこの世界の神凪遥斗かみなぎはるとにした目的は何だよ? それが解らないと、楽しませる何もないだろう」


「それくらいは説明しても問題ないでしょう。貴方には私たちの新しいゲームの駒として、この世界に来て貰いました。

 アリウス・ジルベルトのままでは、この世界に存在できませんので。神凪遥斗かみなぎはるとというを用意した次第です」


 まるで遥斗は、俺のために存在するような言い方だな。少なくとも、俺が遥斗になるまで遥斗という人格が存在した筈だ。


「そんなくだらない理由で、俺をこの世界に無理矢理連れて来たのか? それで俺が、おまえたちの言いなりになると。本気で思っているのか?」


「はい。私たちに従う以外に、貴方が元の世界に戻る方法はありません。貴方は大切な人たちがいる世界に戻りたいのでしょう?」


 複眼の男は嘲るように笑う。


「あのなあ……言葉だけで信じる筈がないだろう? 俺を納得させる証拠を見せろよ」


「証拠を見せることは、残念ながらできません。ですが、私たちが貴方をこの世界の神凪遥斗かみなぎはるとにしたのは事実です。そうでなければ、こんな話をする筈がないでしょう?

 それだけの力があれば、元の世界に戻せる可能性が高い。それくらいは、貴方なら解りますよね?」


 こいつが何を言たいのかは理解できる。


 だけど結局のところ、本当に俺を元の世界に戻せるのか? 他に方法がないかも解らないけど。


「証拠がないなら……話にならないな。まあ、おまえが言ったことが事実だとしても。従うつもりはないけど。俺はどんなことをしても、自分の力で元の世界に戻るつもりだからな!」


 こいつらの言いなりなって、元の世界に戻ったとしても。呪縛に嵌まったままだ。


 どうやって、俺をこの世界の神凪遥斗にしたのか。その方法を解明しないと、また同じような目に遭う可能性がある。

 

「貴方なら、そう言うとは思いました。ですが、誤解しないでください。私はあくまでも、貴方に忠告しに来たのですよ」


 複眼の男は全部解っているいう感じで、自信たっぷりな顔をする。


「どんな方法でも構いませんから。まずは貴方本来の力を、この世界の人間たちに示してください。そうすれば自ずと、事態が動くことになるでしょう。

 それとも貴方は、この世界の人間如きを恐れて。力を隠し続けるつもりですか?」


 俺の能力がバレると、色々と面倒なことになるから。力を隠していた。

 だけど、俺が一番警戒していたのは、こいつら・・・・のことだからな。


 こいつらには、俺のことが筒抜けみたいだし。

 神凪遥斗かみなぎはるとになってから、三ヶ月で。この世界の状況は、だいたい把握したからな。


 妹の綾香あやかと母親の静香しずかさえ、巻き込まなければ。そこまで俺の力を隠す必要はないだろう。


「おまうの忠告に従うつもりはないけど。言いたいことは解ったよ。それで、俺が本来の力を使うとして。まずはおまえと戦えば良いってことか?」


 俺は『収納庫ストレージ』から2本の剣を取り出す。赤と青の光を放つ特殊金属製の剣は、どちらも異世界産だ。


「いいえ、私は遠慮させて貰いますよ……この身体・・・・では、貴方に敵う筈がありませんから」


 『鑑定アブレイズ』したから。こいつのレベルと能力は解っている。確かに今のこいつじゃ、俺には勝てないだろう。


 だけど他の奴にとっては、こいつの力は脅威だ。俺はこの世界のダンジョンで、こいつよりも強い魔物に遭遇したことがない。


「私たちは貴方に期待していますよ。この世界を面白くしてください!」


 複眼の男は『転移魔法テレポート』を発動する。だけど転移する直前、俺は剣で奴の身体を真っ二つにした。


「あ……貴方は何を考えているのですか?」


 複眼の男が唖然とする。身体が真っ二つになっても、喋れる時点で。こいつが異常な力を持っている証拠になる。


「おまえさ。さっきから何を言っているんだよ? 俺をこの世界に連れて来た時点で、どう考えても敵対行為だよな。俺は敵には容赦しないんだよ!」


「なるほど……貴方らしい考え方ですね……」


 複眼の男が光のエフェクトと共に消滅する。

 身体が消滅したってことは、こいつはダンジョンの魔物ってことか? 


 まあ、とりあえず。俺を神凪遥斗にした関係者に接触できた訳だし。


 複眼の男が、どこまで本当のことを言ったのかは解らないけど。少しは情報が手に入った。


 元の世界に戻る方法については、結局何も解らなかったけど。そんなに簡単に見つかるなんて思っていないし。


 どうせ俺の情報があいつら・・・・に筒抜けなら。これからは俺の好きに行動させて貰うからな。


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