第4話:探索者


 神凪遥斗かみなぎはるとの世界にダンジョンが突然出現したのは、今から50年ほど前。


 ダンジョンから溢れ出した魔物に、通常兵器は、ほとんど効かなくて。数百万人単位の犠牲者が出たらしい。


 だけどこの世界の人間は、そこから反撃に出た。魔力に覚醒する者たちが現れるようになったからだ。


 魔力に覚醒して、魔法やスキルで魔物を倒す者たちのことを、この世界では『探索者』と呼ぶ。


 ダンジョンが出現してから数十年が経つと、状況は一変する。探索者の数が増えたことで、安定して魔物を倒せるようになったからだ。


 ダンジョンの魔物を倒すと手に入る魔石によって、世界のエネルギー事情が一変して。ダンジョンは危険な場所というよりも、資源の宝庫として認識されるようになった。


 この辺のことは遥斗はるとの記憶にあったし。教科書にも載っているから、この世界の人間にとっては常識なんだろう。


 ダンジョンに入るには探索者資格が必要だから、俺は高校に入ってから直ぐに資格を取った。

 探索者になるための条件は、魔力が使えることだけ。魔力に覚醒するとステータス画面が開けるようになるから、覚醒すれば直ぐに解るらしい。


 探索者の資格試験は、ステータス画面を見せる方法と。魔力を実際に使って、測定して貰う方法の二つがある。ステータス画面を見せると、手の内を晒すことになるからな。大半の奴は魔力を測定する試験を受けるらしい。


 俺も魔力測定で合格して、探索者になった。『恋学コイガク』のアリウスの能力を引き継いでいる俺のステータス画面を、見せる訳にはいかないからな。

 まあ、俺のステータスがバレても、この世界の奴らに、どうにかできるとは思わないけど。


※ ※ ※ ※


 今日、俺が向かったのは、東京の郊外にある一級ダンジョン『A142』。

 この世界にはダンジョンがたくさんにあるから、いちいち名前をつけずに番号で呼んでいる。『A』は一級ダンジョンの意味で、数字は発見された順番。

 つまり『A142』は、この世界で142番目に発見された一級ダンジョンってことだ。


 普通に移動すると時間が掛かるからな。俺は『転移魔法テレポート』と『飛行魔法フライ』で移動する。

直接ダンジョンに転移した方が早いけど。『転移魔法』は一度訪れた場所にしか転移できないからな。このダンジョンに来るのは、今日が初めてなんだよ。


 『A142』に到着すると、早速攻略を始める。自宅を出るときに『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動済みだから、誰も俺を認識できない。


 どうしてダンジョンを攻略するのに、姿を隠すかと言うと、理由は二つある。一つは俺の探索者等級だと、一級ダンジョンに入れないからだ。

 探索者には等級があって、自分の等級以下のダンジョンにしか入ることができない。


 探索者の等級を上げるには、実績を積んで探索者協会に認定される必要があるし。しかも認定されるまでに、それなりに時間が掛かる。

 そんな悠長なことをするつもりはないし。俺の実績を素直に報告したら、絶対に怪しまれるからな。


 もう一つの理由は、俺が戦うところを他の奴に見せたくないからだ。別に犯罪者紛いの戦い方をするとか、禁忌に触れるとか、そんなことじゃないけど。面倒なことになるのは解っているからな。


 妹の綾香あやかに八時には帰ると約束したから。時間もないことだし、早速始めるとするか。

 俺は『収納庫ストレージ』から、青と赤の金属でできた二本の光を放つ剣を取り出す。どちらも『恋学コイガク」の世界で手に入れたマジックアイテムだ。


音速の数倍の速度・・・・・・・・まで一気に加速すると、回廊を擦り抜けるように進む。俺の動体視力と反応速度、思考速度なら、これでも十分反応できる。


 ダンジョンの扉を破壊しないために、『開錠オープンロック』と『念動テレキネシス』を発動して、行く先にある扉を次々と開ける。

トラップがあっても、発動するのは俺が通り過ぎた後だから無視する。


 出会い頭に遭遇した魔物たちを、二本の剣で仕留めていく。範囲攻撃魔法を使った方が手っ取り早いけど、手を抜くと鍛錬にならないからな。

 他の探索者が魔物と戦っている場面に遭遇したら、無視スルーする。魔物を横取りするのはマナー違反だからな。


 俺が姿を隠して戦っても、魔物を倒せばバレるから意味がないと思うだろう。だけど俺は『認識阻害』と『透明化』を周囲に展開して、倒す前に魔物を取り込むから問題ない。

 ダンジョンの魔物は倒すと消滅して、魔石だけが残る。だから魔石を回収すれば、俺が魔物を倒した痕跡も残らない。


 こんな感じでダンジョンを突き進むと、深層部まで二時間も掛からなかった。

 ダンジョンは階層が深いほど、強い魔物が出現するから。ここから、本格的に攻略する――って感じでもないんだよな。


 この世界のダンジョンは、やたらと階層が深いだけ・・だからな。俺は速度を落さないで、ダンジョンの深層部に突入する。


 深層部で最初に遭遇したのは、ドラゴンの群れだ。まあ、所詮しょせん普通・・のドラゴンだからな。俺は加速したまま瞬殺する。

 イフリートとか上級精霊に、グレーターリッチや始祖トゥルーバンパイアなんかのアンデッド。デーモンロードとか色々遭遇したけど、全部擦れ違いざまに殲滅する。


 まあ、大体こんな感じで。俺は全部で三時間ほどで、一級ダンジョン『A142』を攻略した。

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