第3話:家族
午後の授業とHRが終わって、俺が教室を出て行こうとすると。
「じゃあな、
アッシュグレーの爽やか系イケメン男子。俺の数少ない友だちの
「
艶のある黒髪を背中まで伸ばした清楚系美少女。
スクールカーストトップの二人と、顔が半分隠れるくらい前髪を伸ばした、黒縁眼鏡の陰キャ男子の俺。
全然釣り合わない俺たちが絡むと、クラスメイトたちが奇異の視線を向けるのはいつものことで。俺は他人にどう思われようと、気にしないからな。
「琴乃。悪いけど、今日も用事があるんだよ」
素っ気ない返事に、琴乃は悪戯っぽく笑う。
「遥斗はいつも用事ばかりよね。私のことを都合の良い女だと思っているでしょ?」
「「「え! 琴乃と神凪って……」」」
周りの女子たちが黄色い声を上げて。男子たちの嫉妬の視線が俺に集まる。
「琴乃。おまえ、わざとやっているだろう?」
「え? 何のことかしら……遥斗が何を言いたいのか、全然解らないわよ」
しれっと嘘をついて、琴乃は小さく舌を出す。こいつが清楚なのは見た目だけだな。
「じゃあ、俺は帰るよ。琴乃、また明日な」
「仕方ないわね。あとで連絡するから」
学校を出で、真っ直ぐ家に向かう。用事があるのは本当だけど、家に帰って着替えてからだ。
学校から徒歩と電車で30分ほどの距離に、
家に入ると、玄関に靴が脱ぎ捨てられている。脱ぎ方だけで誰の靴か解るけど。
「
「お、お兄ちゃん、お帰りなさい!」
リビングでソファーに寝転がって、漫画を読んでいた黒髪ツインテールの少女が、跳び上がるように起きる。中学三年生の遥斗の妹、
『
「れ、冷蔵庫子にプリンが入っているけど。お兄ちゃんも、食べるわよね?」
綾香は髪の乱れをしきりに気にしながら、恥ずかしそうに言う。そんなに髪型が気になるなら、寝転がっているなよ。
「俺はまた出掛けるから、先に着替えて来るよ」
「だったら……
綾香が甘えるように言う。まあ、そう言うと思ったけど。
二階の自分の部屋に行って、服を着替える。白いティーシャツの上に、色が濃いデニムのシャツ。グレイのチノパンと、まあ、普通の格好だな。
そして右手の人差し指に嵌めていた『
『変化の指輪』は
まあ、俺が変えているのは髪の毛の長さと、髪と目の色だけで。『変化の指輪』を外して、遥斗本来の姿に戻っただけだ。
リビングに戻ると、綾香がニコニコしながら俺を見る。
「うん、やっぱり、その方が全然良いよ! お兄ちゃんが目立ちたくない気持ちも解るけど。私に言わせれば、隠すのは勿体ないわ!」
今の俺の髪は銀色で、目は
いや、何の冗談だよって思ったけど。遥斗は父親が北欧系のハーフらしい。
だけどハーフだからって、完全にアリウスの顔だから偶然の筈がない。
ちなみに俺が遥斗になる前も、遥斗はウイッグとカラコンで、陰キャの格好をしていた。子供の頃に髪と目の色が違うこと散々
遥斗が元々そういう格好をしていたのもあるけど。俺が学校で髪と目の色を変えて、陰キャのフリをしているのは、アリウスの顔を隠すためだ。
アリウスは乙女ゲーの攻略対象だから、顔面スペックが滅茶苦茶高いんだよ。だからこの顔を見られると、色々と面倒なことになる。
いや、自意識過剰って訳じゃないからな。俺は『恋学』の世界で、実際に経験して来たんだよ。知らない女子に何度も告白されて、男子から散々嫉妬の視線を向けられた。
全部無視すれば良いけど、告白を断る必要はあるからな。いちいち断るのも面倒なんだよ。
ちなみに綾香は普通に日本人だ。遥斗と春香は血が繋がっていない。遥斗が七歳のときに両親が事故で死んで。遥斗の叔母に当たる綾香母親が引き取って養子にした。
遥斗が綾香や叔母のことをどう思っていたのか解らないけど。俺が初めて会った頃は、綾香と叔母の態度が余所余所しかったからな。それなりに距離があったんだろう。今の綾香は全然そんな感じじゃないけど。
「お兄ちゃん。はい、プリン。コーヒーも飲むよね?」
綾香が冷蔵からプリンを出して来て、コーヒーを入れてくれる。
「綾香、ありがとう」
「そんな、お礼なんて良いよ!」
俺が食べている様子を、綾香がニマニマしながら見ているけど。気にしないことにする。
食べ終わった食器を、シンクに持って行こうとすると。
「お兄ちゃん、私が片づけるよ」
「綾香、そこまでしなくて良いよ。自分のことは自分でやるからさ」
俺はシンクに食器を運んで洗っていると。綾香が隣に来て、またニマニマする。
「なんか。お兄ちゃん、変わったよね。勿論、良い意味でだけど。前は黙って食べるだけで、後片付けなんて全然しなかったのに」
「いや、これくらい当然だろう。綾香もこれから受験で忙しくなるだろうから。他にも家事でやることがあったら、俺がやるからな」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん!」
洗い終わった食器を拭いて、元の場所に戻す。
「じゃあ、綾香。俺は出掛けて来るよ」
「お兄ちゃん、今日もダンジョンに行くんでしょう? 危ないことは絶対しないでね」
綾香が心配そうな顔をする。
「ああ、解っているよ。八時頃には帰るからな」
「うん。行ってらっしゃい!」
俺は高校に入ると直ぐに『探索者』になって、ダンジョンを攻略している。理由はシンプルで、この世界にダンジョンがあるからだ。
『恋学』の世界で俺を待っている
直ぐに帰る方法が解る訳じゃないし。
俺は『恋学』の世界で、最強を目指していたからな。ダンジョンがあるなら、攻略するのは当然だろう。
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