第6話 サイフ忘れた人

次に会った人は、64歳の人。

奥さんを亡くされてて。

65歳の延長雇用期間が終わったらって悩んでた。


「居酒屋に行きませんか?話はそこの優待券を持っているので、ご馳走しますから。」


初めからお酒かぁ。イケおじ事件もあるし、

嫌だな。しかし、真面目そうだし。

繁華街のど真ん中だから、いざとなれば

走って逃げよう。


ドンキの前なんかで待ち合わせするから

ものすごい人で、立ってる場所さえありぁしない。


写真を送ってもらってたから、わかるだろうと。

ぜんぜん、わからない。

電話して、ようやく出会う。


、、、。写真はいつの頃のだったんです?

と思わず、聞きたくなるくらいの別人。

笑いを堪えるのに必死。


居酒屋チェーンのお店に入る。

タッチパネルで注文するシステム。


ビールで乾杯。

初めは自己紹介かな。


そこから、酔っていかれると、亡くなった奥さんの治療がいかに過酷だったか、いかに金銭的負担が大きかったかの話に延々と傾聴。


相手はガンガン飲むけど、こっちは

そういう話になると、色々思い出して

暗い気持ちになって、、。


2時間話をただ、ひたすら聞いて、まだ飲みたいと言うのを、もう時間も遅いのでとやんわり止めて帰り支度をする。


会計をしようとした時、

相手はなにやら細切れの券を出してきた。

500円券??

しかも、数枚??


「あれ?これじゃあ足りない。

サイフ、、、。」

ガサゴソなにやら探してる。


「どうしましたか?大丈夫ですか?」


「サイフを忘れてきました。」


「あ、はい、はい。

じゃあ、私払ってきますね。」


私は支払いを済ませて、さあ、帰れるぞーと

思った。


「あのね、貴方だって、忘れる事って

あるでしょう‼️誰でもある事なんだから‼️」

と何だか怒り口調。

絡み酒なのか。


「はい、そうですよね。

とにかく、今日はありがとうございました、

帰りますね。」

とにこやかにさよならをして、小走りに地下鉄へ。


家に着いたら、

「とても楽しかった。こんなに話やすい女性との出会いはなかった。

また会いたいです。今後もよろしく。」


速攻で返した。

「価値観が違うと感じました。

良い方が見つかりますように。」


停止にする。


初めて会って、亡くなった奥さんの話を

ただひたすら聞くと言うのに疲れて果て。

おまけに、支払いして、不機嫌になられては

こっちもへとへと。

二回目に会いたいとは思えない。


仕方ない。

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