4 学生の本分は勉強であるのです
数学の教師が何かのグラフを板書しているのを見ながら、私は正直上の空という体だった。
取り敢えず藤阪以外の誰の頭にもねこみみは付いていないし、他の誰からも指摘されることはなかった。神崎もネコミミは見えないと言っていたので、おそらく私と藤阪以外の誰にもネコミミは見えないのだろう。
取り敢えず私の先祖に猫はいないはずだ。
藤阪の先祖のことは分からないが、多分彼にしても猫の血は入っていないと思う。進化の過程を遡ってもサルは混ざっても猫は混じらない気がする。しっぽだって生えていない。尾てい骨は人間には残っているけど退化しているはずだ。そもそもサルにだってしっぽはあるからあまり関係ない。
あとは病気……だろうか。メンタル系の。
祐子とか由真とかほどではないにしても、私だって能天気な方だと思うのだが。いや、幻覚を見るのはそういうのとあまり関係ない? だとして正直、誰にどう説明すればいいんだろう。自分の頭の上にネコミミがあるとか。
……どちらにしても説明が付かない。だとすると残りは魔法、とか。
「……まほう?」
口の中で呟いてみてから首を横に振った。
それこそ意味が分からない。誰がなんのために。
こういう時に頭の良い子ならもっと思索にふけるんだろうし、一方で悩まない子であれば自然に状況を受け入れられるんだろうけど、残念ながら所詮は私は小市民なわけで。
つまりは他のことで頭をいっぱいにして、取り敢えず忘れる。
学生の本分は勉強であるのです。
板書しているグラフをじっと見つめる。ふむふむ。ふむふむ。なるほど? これがこうなるから……。
確認するように頷く代わりに、どうしても気になって仕方がない頭の上のねこみみを揺すってみる。おお、なんだかちょっと楽しい。
「おい、宮川」
なるほどほど? ぴくっ。ぴぴくっ。
「みやがわー、当ててるぞ」
「にゃ!?」
思わず変な声を上げてしまう。
直後にどっと笑い声が上がった。
「猫かよっ!」
「授業聞いてたかー?」
「奈緒はほんとにいつも裏切らない」
「面白い」
あちこちから声が上がる。
「静かに!」
ぱん、と先生が手を叩いた。
「はい、そこはまずYについての式を解決すればいいと思います。因数分解が可能なので、その式を……」
おー、と誰かが声を上げた。
「……合っている」
こくりと先生が頷いたので、私は口元を少し上げてから着席した。
授業が終わってから祐子が席に近寄ってきた。
「今日の奈緒なにがあったの? すごい」
「私のこと何だと思ってるの?」
「いや、でも今日はすごかったよ」
答えになってない。
あと私は気付いているぞ、さっき「いつも裏切らない」って言ったの祐子だよね?
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