第116話 【12月25日】

 癌の元恋人に電話をしてみた。体調の事があるので少し迷ったが、架けてみると思い外元気な声が返ってきた。

「どうしてた?」ボクが言うと、

「うん、毎日人生の最期を満喫してるよ」と笑えない冗談を言ってきた。

「あのさ。アナタのところにJって人、来なかった?」

「来たわよ」

 即答。「あんたの知り合いだって。でも内緒で少し話がしたいって」

「どういうこと?」

「最初は分からなかったわよ。あんたとももう15年も会ってないって言うしね。私のことをどこでどう聞いてきたかも微妙だったし…」

 そりゃ、そうだ。それで?

「とにかく話はあんたのことを聞きたがってたってこと。今、どこでどうしてるだの、元気でいるかだの、だれかと一緒にいるかだの。でもさ」

「何?」

「そのうちだんだん腹が立ってきたのよ。そのJさんって人に。分かる?」

 自信はない。

「だってそうでしょ。あんたはあんまり話たがらなかったけど、結局勝手にあんたの前から姿を消したわけでしょ。何も告げずに最初からいなかったみたいにね。そんなのってないよ。生きてることを馬鹿にしてるよ」

 彼女の言葉は重たかった。

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