第114話 【12月23日】

「神様ですか?」ボクは返す。

「そうさ。何かおかしいかい?」

「いえ、おかしくはないですけど、急に出てきたものですから」

「あんたら若い人は世の中自分の思う理屈で生きていけると思ってる。そいでそれが上手くいかないと急にわけの分からん宗教に走ったりする。でもそれは本当に信じることを知らんのじゃないかって俺は思う」

「信じることですか?」

「そうさ、あんた今まで何か信じたことあるかい?」

 問われてボクは思いを巡らす。

「一度だけありましたよ」

「ほう、どんなこと?」

「子どもの頃なんですけどね、そうちょうど今時分のことです。クリスマスイブの夜、ボクが二番目の兄と二段ベッドで寝ていると、窓の方からシャンシャン、音がしてくるんです。それで子ども心に『変だな』と起き上がって窓から外を見るといつの間にかそこいらじゅうが銀世界になってて、その降りしきる雪に合わせるようにシャンシャンシャンシャン、鈴のような音がしてたんです」

「へえ。ひょっとしてそれはサンタクロースだったのかい?」

「分かりません。ボクも半分寝ぼけてましたから、その時は何だか途中から怖くなってそのまま寝てしまったんです。翌朝家族に言うとみんなから笑われてしまいました。でもボクにはそれが本当のサンタクロースだったような気がするんです」

「なるほどね。そりゃ良い話だ、うん」

「信じるってそういうことですかね」

「どうだろな。でもいいんじゃねえか。信じることに理屈は要らねえんだから。ただな」

「ただ?」

「俺たちがどう思おうと、どう信じようと居るもんは居る。居ないものは居ないんだ。違うか?」

「…そうですね」

「俺たち人間はよ、自分たちの都合で考え過ぎるんだ。何でも」

 確かにそうかもしれない。ひょっとしたらボクたちに周りでごく普通に奇跡は起きているかもしれないし、その逆だってありうる。ボクたちが目を向けないだけで…。

 その時、電車の窓に光るものが映った。

「あ、おじさん。あれ」

「ん?何だ、ありゃ」

 夜空を跳ねる一筋の光は、いつか見た『空飛ぶ自警団』、その姿だった。

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