第33話 【10月3日】
兄と久々に街を歩いた。考えてみれば大人になってからこうして兄妹肩を並べて歩くなんてあまりないことだなと思う。とは云え兄はボクに気をつかう風でもなく、さっさとマイペースで歩く。昔からそうだった。
「よく散歩するの?」ボクは斜め後ろから尋ねた。
「俺はあの、ただ歩くというわざとらしさが嫌なんだ」即座に兄はそう応えた。
彼は何かに腹を立てているのか、特に目的もないのにさも緊急案件に向かうが如く歩みを刻む。
「兄さんさ、どうでもいいけどもう少しゆっくり歩いてよ」
「ああ、スマン。癖だよ、癖」
「…それだけ歩ければ、もちょっと痩せてもよさそうなのに」
「おい、この辺で美味い店はないか?」
「え?さっき昼ごはん食べたばっかじゃん」
「バカ。喫茶店とかだよ。コーヒー飲もうぜ。おごるよ」
結局ボクらはそこから通り2つ越えたところにある、昔ながらの雰囲気をもつ喫茶店に入る。兄はそこでコーヒーとチョコの乗ったチーズケーキを注文し、ボクが何を飲むか迷っているうちに先にきたコーヒーを啜っている。ボクはこんな兄のどこに例のインドネシア娘が惚れたのか皆目分からなくなった。ふと横をみると高校生ぐらいのバイトのウエイトレスがチーズケーキのお盆を持ってボクと兄を交互に見ている。
「あ。それこっち」兄は自分からさっさと皿を受け取ると、「お前、ダイエットでもしてるのか?」とボクに向き直った。ボクはウエイトレスの娘に苦笑いの会釈をすると「アップルパイとシナモンティー、下さい」と言って、自分の声が思ったより大きかったことに自分でも驚く。それから窓の外の曇り空と兄の食べっぷりをセットで眺めながら「まあ、うちらって変わってる兄妹かもね」と呟いて、兄から一瞥された。
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