其ノ拾肆 交錯
俺は、刀を構えた。そして、じりじりと葉月に迫る。
「僕は、美沙の相手をする。柊真君は葉月の相手をして。」
……ん?
「いやいやいや、無理ですって!葉月と一対一とか!」
「じゃあ、美沙の相手する?」
「それも無理です!」
「じゃあどうするのよ。」
……それは…。
「それに、僕は分かってるから。」
「え?」
小声で言われた言葉に、思わず聞き返す。
和さんは少し笑っただけで、何も言わなかった。と、
「ふふっ、あなたが相手なのねっ!」
そう言って、葉月が刀を手に突っ込んできた!
「っととと!」
俺は間一髪のところでしゃがみ、それを避ける。
「ていやっ!」
さらに刀を振り下ろしてくる葉月。俺はそれを両手で持った剣で受け止める。
そのとき、斬られた右肩がずきっと痛んだ。
「っ!」
力が抜けそうになるのをぎりぎりなところで耐える。
そして、なんとか左肩の力で葉月を押し返した。
その勢いで俺も右肩から倒れる。
「痛ぁーっ!」
傷が床に直撃し、痛みが体を走り抜けた。
くっそ、この傷さえなければ……
歯を食いしばり、立ち上がる。そのとき、俺の目に飛び込んできたのは、
「明っ!」
明に、男が突進しているところだった。
明を助けようと一歩前に出る。
「あなたは自分の心配をしたほうがいいんじゃない⁉︎」
真横で葉月の声がして、咄嗟に声の方に刀を出す。
ガギィン、と音がして、俺の刀と、葉月の刀が交わった。
「どけっ!明がっ!」
「どけと言われてどく敵がどこにいるのよ?」
そう言って葉月は笑う。
だめだ、この距離じゃ僕がつくより先に敵が明に攻撃してしまう。
「明っ!」
どうしようもなくて、ただ明の名前を呼ぶ。
男が棍棒を振り上げる。ああ、もうだめだ。
そのとき、
「来んなばかぁー!」
ぎゅっと目をつぶった明が、めちゃくちゃになぎなたを振り回す。
すると、なぎなたが男の首にクリーンヒット!
「ぐはっ」
そして、ダメ押しのように鳩尾にもクリーンヒット!
「だはっ」
そしてそして、もう一発脳天にクリーンヒット!
「きゅー…」
男が泡を吹いて倒れる。…なんか気の毒だった。
「えっなに怖い⁉︎なんで倒れてんのこいつ⁉︎」
目を開けた明が困惑している。
……あなたが倒したんですよ、明さん。
その時。
「そんなにあの子を見ていていいのかしら?」
「⁉︎」
腕に強い力がかかる。あっと、思った時にはもう、俺は後ろに吹き飛ばされていた。背中と頭を強く打ちつけ、星が飛ぶ。刀が手から離れ、遠くに落ちた音だけが聞こえる。
「なんで平安時代であなたの腕輪を奪わなかったかわかる?」
葉月は嘲笑うように言う。
確かに、あの時明を人質に俺の腕輪を奪い、明と俺の腕輪で博士の元へ行ってタイムマシンを奪うことも、美沙さんを連れて行くことも可能だったはずだ。
「あなたたちの前で美沙を裏切らせるためよ。そうすれば、あなたたちも絶望して私たちに手を出さないと思ったから。でもここまで来た。」
葉月が高らかに笑う。
「馬鹿なの?『美沙を取り返しに来た』なんて、とんだ性善説ね。美沙が戻るわけない。あの子には、一族を救う強い意志があるの。ずっと近くにいたのに、わかってないのね。」
そして、葉月が刀を振り上げる。
「もう終わりにしましょう。あなたのような雑魚に構っている暇はないの。」
葉月の冷酷な声が聞こえる。
ぼんやりとした視界で、葉月が刀を振り下ろすのだけが見えた。
咄嗟に目をつぶる。体はもう、この状況で逃げられなかった。
すると。
「馬鹿はお前じゃないの?」
和さんの声が聞こえた。
「美沙のことをわかってないのは、お前の方だ。」
ガギィン
すぐ真上で音がする。俺は、はっと目を開ける。そこには、葉月の刀を受け止める、
「美沙さん……。」
美沙さんの姿があった。
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