其ノ拾弐 侵入
「こっちであります!」
アリマスの指示で、蜂が舞う獣道を通り、腹這いでしか進めない狭い洞窟を痛む肩を庇いながら通り、そして、裏門にたどり着いた。
「って、もっといい道あったろ⁉︎」
「そうでありますか?」
アリマスはとぼけるけど、俺には人っ子一人いない整備された道が見えるんだが⁉︎
「柊真、馬鹿なの⁉︎」
明に言われるなんて心外だ。
「あんなとこ通ったら敵に丸見えでしょ!」
……明に正しいこと言われるなんて、心外だ。
「そうであります。そもそも、あの道でひいこら言ってる君の方がおかしいであります。拙者などほら、ぜんぜん疲れてないであります。」
そりゃお前は俺の頭にずっと乗ってたからな!
「このしゅうまいが!」
アリマス、俺のこと悪意持って『しゅうまい』って呼んだよね。
「悪意なんてないであります。」
思考を読むな。
「って、茶番は置いといて、行くよ!」
和さんが言う。
「東北に?」
なぜ東北に行く、明。
「違う違う、北陸に。」
今から旅行しに行こうとしている点では、和さんも変わらない。
緊張で二人とも、完全にテンションがおかしくなっている。
「違うでしょ二人とも!突撃するんだよ!」
「「あぁ。」」
全く。
「ほら行くぞ。」
そう言って、俺は門扉を押す。でもやっぱり、
「開かない…。」
まあ、開いてたらおかしいよね。
「柊真、押してダメなら引いてみろ、知ってる?」
そう言って、明は門扉を思いっきり後ろに引っ張る。
「ふんがー…開かないっ!」
でしょうね。
でしょうとも。
「二人とも、押しても引いてもダメなら、こうするんだよ。」
そう言って和さんは、門扉を障子の要領で横に敷いた。
「ガラガラガラ」
開いた。
「「……なぜ引き戸?」」
と言うわけで、和さんのおかげで中に入れた俺らは、敵の一人とも遭遇せずに楽々と敵の本丸に辿り着いたんだけど…
「「「怪しくない?」」」
だって、誰とも遭遇しなかったんだよ⁉︎本丸なのに。ボスいるのに。
「この先が、本部であります。」
ついに、来たか……
俺は、静かに刀を構える。
正直斬られた右肩がものすごく痛い。こんな調子じゃ、右手は使い物にならない。
でも、俺は、戦うしかない。
明は武器持ってないし、和さんは服が軽いとはいえ、着物だから動きにくいだろうし、アリマスちっちゃいし。
だから、まともに戦えるのは、俺しかいない。
その時。
「アリマス、どこ行くの⁉︎」
アリマスがどっかに行ってしまった。
あいつ、逃げたか。
と、しばらくして、アリマスがえっちらおっちらと何かを引っ張ってきた。
なぎなただった。
「なぜ、なぎなた?」
「これを……明殿にっ……!」
なんでかよくわからないけど、アリマスの必死さに押されてなぎなたを手に取り、明に渡す。
「これは……?」
「なぎなたです。」
「は?」
ま、そうなりますよね。
「武器として持っといて。危ないし、ケガされると困るから。」
と、
「ありがと……。」
なんで照れるんだ。
「いや、持ってきたの、アリマスだから。」
一応訂正。
「そうなんだ。アリマス、ありがとう。」
そう言って微笑む明。
そして……顔を真っ赤にしてめちゃくちゃ嬉しそうなアリマス。
こいつは……俺の敵かもしれない。
準備は整った。
「行くぞ。」
「「うん。」」
そのとき、
「外で何か音がしたぞ!」
「曲者か⁉︎」
部屋の中から声がする。
気づかれたか。
「ついに……最後だね。」
明が言う。
「頑張ろ、二人とも。」
和さんが言う。
「絶対に、勝つ。」
俺は言う、そして、思う。
もう一度、
「美沙さんに……戻ってきて、欲しい。」
明が、俺の気持ちを代弁するかのように、言う。
まだ、どこかで、美沙さんを信じてしまっている。
俺は、刀を構える。和さんが、姫の格好で木刀を構える。
がらっと扉が開いた時、和さんが小さくつぶやいた。
「美沙なら、絶対に、大丈夫だよ。」
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