其ノ拾壱 突撃

「行こう、とは言いましたけど……どこに行くんですか?やっぱり本拠地ですかね。」

たぶん、本拠地は明がいたあのお城とは別のところだ。きっとそこに、敵はいるはず。

「でも、本拠地の場所、分からないし……」

という和さんの声。

どうしたもんかと思った、その時!

「どぅあ!」

和さんが大声を出す。

「どひゃぁ!」

明がびっくりしてこれまた大声を出す。

お二人とも。

どんなにびっくりしても、そんな声は出さないよ。

「博士に聞きゃーいいじゃん!」

あ、なるほど!

「おっ、さすが!」

明が囃し立てる。

「へへっ!」

「よっ、日本一!」

「ふへっ!」

「よっ、色男!」

「はははっ!」

最後はなんか、違う気がする。

「とりあえず、このリングで博士に連絡。」

和さんが、ぽちぽちと腕輪のボタンを押す。

「今度はなんじゃ。」

博士が通話に出る。

「博士、本拠地どこ?」

「は?」

和さん、主語がないです、主語が。

「一族の本拠地はどこですか?」

俺が聞くと、一瞬の沈黙の後、

「君たち、和に掴まれ。」

「「は……?」」

「面倒くさいから、これから和の腕輪で君たちを本拠地にワープさせる。」

「はぁ⁉︎そんな機能あるなら早く言えよ!」

言ってくれれば色々楽だったじゃん!

「この操作はわしにしかできないんじゃ!」

納得いかないまま和さんに掴まると、

「行くぞ!」

博士の声とともに、周りが眩く光って、目が眩んで……。

気づくと、山の中だった。

目の前には、デデーンとそびえ立つお城。

そして、大量の敵。

「え、やばくね⁉︎」(武士)

「やばい!」(姫)

「マジですか⁉︎」(平安貴族)

どうするのよこれ⁉︎


敵が、じりじりと俺らに迫る。少なくとも15人はいるであろう。

俺は、決意した……戦う、と。

俺は刀を抜き、構え、相手を睨む。

そして、一歩踏み出し

「かかれー!」

「「「「「「「うぉー!」」」」」」」

「いや無理ー!」

俺はくるっと180度回転し、一目散に逃げる!

いや俺1人で15人相手とか無理でしょ。

ぜぇはぁ。

肩で息をしながら顔を上げると、すでにそこに和さんと明がいた。

えっ…俺より逃げるの速い?着物、重いよね…?

「柊真、逃げるのが遅い。柊真が刀抜いたから、呆れて見捨てた。あそこは逃げなさいよ。」

「僕ら武器持ってないし、逃げるしかないんだよねー。」

「ねー。」

いやいや、和さん竹刀持ってたでしょ。

「ったく…。で、どうします、これから。正面突破は難しいですよ。」

「そうでありますね…。」

「そうだねアリマス…ん?」

まって、足元からどっかのりすもどきの声が聞こえてきたような…。

「りすもどきとはなんだであります。僕は立派なりすであります。」

「え⁉︎俺、なんか言ってた⁉︎『りすもどき』とか。」

明や和さんに確認するけど、俺は特に何も言ってないらしい。

ってことは、俺の『りすもどき』っていう脳内の考えを読んだってこと?

このりす、頭の中読めるの?エスパー?

「エスパーではないでありますよ。」

やっぱりエスパーじゃん。

てか、この声の持ち主は……もうお分かりですよね。

「てかなんでここにいるんだよアリマス……。」

はい、人語を喋り、多分令和に来たことがあって、さっきエスパーだと判明したりす……いやたぶんりすもどき、アリマスですね。

「なんでお前がここにいるんだよ。」

こいつ、裏切ったくせに。敵のところまで誘導したくせに。

「君たちに、協力しようと思ったであります。」

「……そんでさぁ、これからどうする?」

「無視するなであります!」

だってさぁ。

「胡散臭いじゃん。」

明が俺らの気持ちを代弁する。

「だって、敵だと言うことを隠して私たちに近づいて、窮地に追い込んだくせにさぁ、今になって突然『味方ですぅ〜、協力しますぅ〜』とか言って来られても信じないよ。

……社会はそんなに甘くないんだ!もう一度人生経験積み直せ!」

なんか最後上司の説教みたいなの入ったけど、大体言いたいことは一緒。

「拙者の話を聞くであります!君たちの味方になりたいのは彼らが敵になったからであります!」

その心は。

「葉月殿がタイムマシン持って帰ってきた時、拙者は褒美を葉月殿に求めたであります。その時、葉月殿はこう言ったであります。『栗鼠なんぞにやる褒美などない!お前のような小動物ごときがなに家来ぶってるんだ!お前は家来以下の存在だ!』」

あら、それはひどい。そんな存在否定されちゃって…。

「拙者は悔しいであります。褒美がもらえないなんて…。」

あ、褒美が貰えなかったことに怒ってるのね。

「とにかく、あの人たちには愛想をつかしたのであります。だから、あいつらを完膚なきまでに叩きのめす…ぐへへへへぇ。」

アリマス、キャラ崩壊してるから。

「事情はわかったけど、協力って何するの?」

それな。

「あなた方を裏口まで案内するであります。」

……地味に役に立つ提案をしてくるんじゃないよ。

全く役に立たないことで協力してくるんだったら、速攻でバイバイって言ったのに。

「ふふ、柊真殿。こう見えても拙者、有能でありますよ。役に立たないことをするわけないじゃないであります。

そんなこと言ったら協力の申し出を断られるに決まっているでありますからね。」

こいつ、また俺の脳内読んで。

「うーん、協力してもらうのにメリットはありそうだね。」

「うん、協力してもらおうか。」

「ああ、そうだな。」

でも、

「裏切ったら、斬るから。」

俺は刀を抜いて、アリマスの鼻先に突きつける。

「は、はい…ここもパワハラが横行してるでありますね…。」

『パワハラ』って、やっぱり令和の時代に来たことあるでしょ。

「うん、アリマスわかった?優しい僕でも怒ると怖いよ?」

そう言って、和さんがアリマスに竹刀を突きつけて、アリマスは高速で首を振る。

うん、これでオッケー……って、


やっぱり和さん竹刀持ってるじゃないですか。

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