其ノ拾 タイムマシン
「柊真!」
「うぅ……。」
切られたところがめっちゃ痛い。意識が飛びそうになる。
「柊真……柊真……。」
明の涙が俺のほおに落ちる。
「柊真……逝かないでよ、柊真ぁ!」
「逝かねぇよ!勝手に殺すな!」
「あ、そうなの。」
怪我人にツッコミさせるな!
「てか、早く止血してくれ。本当に死ぬぞ。」
「マジ⁉︎」
はあ……。ったく、こいつは。
「大丈夫、柊真君。」
和さんが俺の肩に救急セットに入っていた包帯を巻く。
「ありがとうございます。」
「傷は深くなさそうだけど、しばらく右手は使わないほうがいいね。」
マジか。右手使わないと、戦えないんだけど。
「……ねぇ、」
俺の肩に包帯を巻きながら、和さんが言った。
「葉月たち……タイムマシンを奪う気だよね。」
「……あ。」
葉月は、作戦のためにタイムマシンを必要としてた。腕輪を二つくっつけると、俺たちはタイムマシンの中へ移動する。つまり、美沙さんと葉月は今、博士のところだ。
「は、早く博士に連絡しなきゃ!」
明が言うと、和さんは腕輪を操作した。
空中に画面が映し出され、博士のパソコンと接続される。
向こうの様子が、画面に映し出された。
「……博士⁉︎」
葉月が博士にナイフを突きつけていた。
「さあ、渡しなさい。」
葉月が、冷酷に笑う。
「……無理だ。これを使っているうちにわかった、歴史は変えてはいけないものなのだと。」
「そんなの、物語の中だけの言葉に過ぎない。実際には変えたって構わない。…美沙、こいつを取り押さえて。」
葉月があった途端、美沙さんが博士の首に腕を巻き付け、ロックした。
「美沙、離せ!」
美沙さんは無表情のままだ。
「お前一人じゃ運べないじゃろう!」
「甘いわ。私は、触れているものと一緒にタイムトラベルできるのよ。」
そして、二つのカプセルに片手ずつで手を置く。
「美沙、行くわよ。」
美沙さんは、博士に回した腕に力を込める。博士が、音もなく崩れ落ちる。
美沙さんが葉月に触れる。すると、葉月たちは眩く光り、消えた。
「博士⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
和さんが、画面越しに叫ぶ。
「……ああ、大丈夫じゃ。」
……え?
「起きるの、早くないですか⁉︎」
「あれは気絶したフリじゃ。孫に倒されるほど、わしはやわじゃない。」
すげー。
「それにしても、一体何があったんじゃ?」
俺は、これまでの顛末を説明する。
「そうか……。」
「逃れ者、って……。」
明が聞く。
「わしらは、確かにあの一族で、計画に加担していた……以前はな。」
以前は……。
「美沙が小学校6年の時、わしらは逃げ出した。タイムマシンを作るためにいろいろな文献を読んでいて気づいたんじゃよ……過去は、変えてはいけない。それに……。」
「それに?」
「美沙が……美沙が、英才教育を受けているのが、辛かったんじゃ。頭に、電磁波を流すとか。」
俺は息を呑む。
「そんな……」
明は半泣きだ。
「電磁波は冗談じゃ。」
冗談かい。
「でも、毎日の訓練に、美沙が辛そうにしていたのは事実じゃ。」
「だから、逃げ出した……。」
「そうじゃ。」
部屋に沈黙が流れる。
「このタイムマシンは、今回のような……あいつらが計画を始めたときにそれを止められるように、密かに作ったものじゃ。」
葉月が持っていたタイムマシンは2つ。あと2つ、残っている。
「これは、君たちが使うものじゃ。どうか、計画を止めて……美沙を、助けて欲しい。」
「……分かってます。ね、柊真?」
「……ああ。」
「ありがとう。」
ウィン、と音がして、接続が切れる。
「……行こう。」
和さんの言葉に、俺たちは頷いた。
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