第2話 放課後の青春イベント

 文芸部の部員は合計で8人いる。1年生に俺、唯華、真央さん(美術部と掛け持ち)、そして他クラスの男子2人。それから2年の先輩が2人と、3年の先輩が1人。

 一応先輩たちは真面目なのだが、なぜか最近は図書室で活動している。1年の男子2人は、まあ御察しだ。まあ文化部なんて半分くらいは部活には所属しておきたいけど、活動はしたくない人の逃げ場だしそんなものだろう。


 男子としては美少女2人がいる部活なんて、面倒でも出得だと思うが、まあやはり仲が良くないと気まずいのだろう。

 それに、まあ文芸部は割とオタクの巣窟だ。そこに陽キャが入ってきて仲良くしていれば、居心地も悪くなるというものだ。

 俺は養殖なのでまだしも、唯華と真央さんはオタサーの姫ではなく、正真正銘の美少女だ。

 特に1年の間じゃすでに結構知られているし。


 そうして人がいなくなると、この部は静かになる。

 昨日は騒がしかったけど、今日は真面目に部活をする日らしい。

 唯華は小説を書き、真央さんも締め切りのためにノートPCと液タブを持ってきて残った作業をしている。俺も、わざわざノートPCと板タブを持ってきて色塗り作業中だ。それと、加筆を頼まれた部分の修正も。


「……彰人くん、どう?」

「割と順調。今日中に渡せると思う」

「おー、流石彰人くんだ」

「真央さんが教えてくれたからだよ」


 俺も何か出来るようになりたいと思って、色々なことに手を出している。

 ゲームのランクをガチでやったり、絵を書いたり、小説を書いたり、配信をしたり。その一環でやっている活動のために、真央さんに絵を色々教わっていた。

 なので簡単な背景なら何とかかける。


 今回のイラストの背景は大自然とかではなく、割とシンプルな部屋の一部。テイストを変えるからと彩色もシンプルでいいと言われているので、俺でもなんとか出来ている感じだ。

 これでファンタジーチックな綺麗なイラストだとか、凝った風景にあった色だとか、そういうことを言われたら断っていたと思う。出来ないし、責任も持てない。


「いやぁ、教えた伏線が回収されて助かったよ」


 そう言って真央さんは手元の液タブに視線を戻す。

 タッタッとペンを走らせる音と、ノートPCの静かなタイピングの音だけが部室に響く。

 なんというか、放課後の部活と言うよりも、仕事だ。いやまあ、仕事ではあるのだけど。

 俺が思い描いていた青春とはかけ離れている。これはこれで楽しいからいいけどさ。

 そんな調子で、俺たちは下校時刻を知らせるチャイムが鳴るまで作業を続けていた。



「よーし、後は帰ったらすぐ終わる! 唯華ちゃんは進捗どう?」

「今日はほぼ趣味の作品ですけど、結構捗りましたよ」

「皆進捗は順調と。いいねぇ。よーし、気分転換にカフェでケーキでも食べて帰ろうよ」

「お、いいですね。彰人くんも来ますよね?」

「行こうかな。ちょっと、姉ちゃんに連絡入れるわ」


 今は姉ちゃんと二人暮らしで、夕飯は姉ちゃんに任せているので、一応連絡は入れる。

 それから俺たちは、よく放課後に利用する喫茶店に行った。

 高校生が放課後に利用するには少し高いが、面子が面子なのでよく来ている。ちなみに俺の収入は高校生のバイトより気持ち多いかな? という程度なので、割としんどい。

 けど、そういう事にお金を使って金欠だー、なんていうのも青春だ。と、母さんが言っていた。ならばそういうのもいいと思う。けど、本当に出費がヤバい。


「今日は何にしよっかなー」

「私はせっかくなのでパンケーキとコーヒーにします」

「俺はいつも通りザッハトルテとココアで」


 俺と唯華は割と同じものを頼むタイプなのですぐに決め、真央さんは悩んだ末無難にショートケーキとイチゴジュースを選んだ。


「あー、明日は軽く運動しなきゃなぁ。体育の授業あったっけ?」

「明日は保健ですよ」

「そうだったー。今日は寝る前のストレッチ長めにやろうかなぁ」

「私も、明日は軽く運動しなきゃいけませんね」

「彰人くんもちゃんと運動しなきゃ、すぐぶよぶよになるよ?」

「大丈夫、俺は割と体動かしてるから」

「意外ですね」

「中学ん時部活終わって受験勉強に力入れてた時、運動しなさ過ぎてカラオケで息切れして危機感覚えたから」


 それから俺は、ある程度の体力づくりくらいはしている。まあ、電車で行ける距離を自転車で通学するとか、風呂前に軽く運動するとかその程度だが。


「にしては筋肉少な目だよねー」

「それはまあ、俺の努力不足だわ」

「いいと思いますよ。彰人くんの場合健康的な細さですし、そういうのが好きな女子も意外と多いと思います」

「そうかぁ? みんな、体操服で汗拭ったときに見える颯斗の腹筋できゃーきゃー言ってたぞ」

「それはそれ、これはこれです。彰人くんだって、好みと性癖は違うでしょう?」


 ちょっとしたニュアンスの違いがよーくわかった。外じゃ巨乳に目が行くけど実はつつましい方が好きなんでしょ? と言いたいのだろう。


「まあ、それはそう——って、ちょいちょい、見てあれ」


 通行人にもそういう感じの、見る分には好きな人がいるか、なんて思って窓の外を見てみると、沙耶と颯斗が並んで歩いていた。

 距離は結構近いが、恋人の距離ではない。しかし、あの2人が……。


「颯斗くんと沙耶ちゃんですね」

「ほ、放課後デート……」

「いや、違うだろ」

「考えてもみてください。昨日お兄ちゃんみたい、なんて言っていましたけど、裏を返せば兄妹のような仲と言う事。それで血縁がないのはこう親友以上恋人未満みたいなものでは?」

「一理ある……」

「あるかな……あるかも」


 ちょっと納得した。弟みたいなもん、というのは本気で弟扱いしていると思っているが、兄妹は違う。

 よくあるだろ? 『こいつは妹みたいなもんだよははっ』とか言いながら手出してる奴。お前は妹に手出すのかよって感じだが。


「だとしたらどっちからだろ。やっぱり颯斗くんからかな?」

「押されたら乗っちゃう、そんな感じな気がします」

「恋バナに花を咲かせてるとこ悪いんだけど、ケーキ来たぞ」

「お、やったあ」

「すごい、パンケーキがふわっふわ……」


 来たケーキやパンケーキを、3人ほぼ同時に口に運ぶ。


「んぅ~、甘い生クリームが脳に染みわたる……」

「あぁ、甘いはちみつがかかったパンケーキで思考力が回復します……」

「うん、やっぱザッハトルテしか勝たんな」


 時間も時間で夕食前だというのに、俺たちはスイーツを堪能した。

 なんやかんやで青春だ。女子2人と喫茶店でスイーツを食べて、一口ずつ交換したりして。

 高校デビューした甲斐があったというものだ。

 最も、2人は俺の事を「友達の弟」とみているようだけど。

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