第40話 裏口合わせ

 子供たちを抱えて井戸の中から救出作業を行いうこと数十回。ようやく、全ての子供達を救出した俺は子供達を連れて教会の前に戻った。

戻った先の教会の正面には妹とアリシアがおり、その隣には縄で縛られたサーニャもいた。

 どうやら上手くいったらしい。

 こちらに気づいたアリシアと、俺を見つけて何やら挙動が可笑しい妹。その様子と先程までの妹の言葉を思い出すと、こちらの調子まで可笑しくなりそうになる。

「あれ? なんだ来てのか?」

 俺は二人がここにいたことは知りませんでした、みたいな口調で二人に近づいた。少し白々しいかと思う大根芝居。笑いをこらえるアリシアの姿から、俺の演技力のなさが見て取れる。

 横目で妹の様子を確認すると、自分のことで手いっぱいのようだった。必死に顔をぐしぐしとしているのは、表情をいつも通りに戻そうとしているのだろうか。

「おまえまで来たのか」

 縄で縛られたサーニャは悔しそうにこちらを睨んできた。そして、後ろの子供達を見つけると、何か言いたげな表情をこちらに向けてきた。

「おまえ、どうやって子供達を」

「ケルベロスなら倒したぞ」

 一瞬、目を見開いて驚いた素振りをしてみせたが、すぐに何かを諦めたように視線を落とした。

「おまえ達と会ったのが運の尽きだったな」

 サーニャが縛られていることから、子供達もようやく自分達が助かったことを実感できたのだろう。脅え気味だった子供達の表情から活気が戻っているように見えた。

 ここでやることは全て完遂した。

 俺達は街の方へ戻ることになり、アリシアを先頭にして街に向かって歩き出した。

俺と妹は子供達の後ろから付いて行くことになり、俺もその列に続くように歩き出す

「まって」

 歩き始めた瞬間、服の裾を引っ張られた。

 反射的に振り向くと、顔を俯かせている妹がいた。

「……何でいるの? 何してるの? ていうか、いつからいたの?」

 顔を真っ赤にしながら、ろくにこちらを見ようともしない。

 焦って早口気味の妹の口調。耳の先端まで赤くした妹の様子を見ながら、ふと思ったことがあった。

 例の事件以降、妹に視線を向けること自体が減っていた。

 勝手に嫌われていると思い込んで、睨まれていると勘違いして、妹のことを避けていたのは俺の方だったのかもしれない。

 俺のことをこんなに近くで見てくれていたのに、俺は妹のことをしっかりと見れていたのだろうか。

勘違いのせいで貼られたフィルター。

そのフィルターを取り除いて、覗き込んだ妹の姿は少し懐かしくも思えた。

「答えて、よ」

 俺が何も言わなかったからだろう。こちらの反応がないのが不安だったのか、妹は、さらに強く俺の裾を引いた。

「え、ああ。今さっき来たんだよ。子供達を助けにな」

「本当?」

「ああ、本当」

 納得いかなげな視線をちらりと向けてきたが、すぐに逸らされてしまった。

 なんだか、少し前までの妹に戻ったようで不思議な気分になる。

「何かあったの?」

「え? 何かって?」

「生き生きしてるから」

 気づきもしなかった自分の表情。

それを指摘され、不思議と口元が緩んだ。

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