第36話 モブキャラ

 中学野球で八番ライトと言えばどんな期待をするだろうか。

 野球を少しかじったことのある奴なら二番と七番、九番バッター辺りが重要であることは理解できると思う。一番、三番、五番が重要なことは言うまでもない。

 ただ野球をしたことのない奴からすると、エースと四番以外はみんなモブキャラにしか映らないのだ。

 中学最後の試合。九回ワンアウトランナーなし二点ビハインド。

 そんな状況で打席に立つ俺も、他と変わらないモブの一人だった。

 粘るに粘って、ファールを量産。甘く入ってきたストレートを振り抜いて、綺麗なクリーンヒットを放った。

 一塁ベースを踏んだ時には、小さくガッツポーズをしていた。

 まだまだ終わっていない、これから反撃すれば逆転できる。そう思って、ベンチにガッツポーズをするとベンチは湧き、それに応えようとエースがキャッチボールを開始した。

ヒットを打ったという熱が収まらず、俺は客席スタンドに振り返った。

柄でもないと知っていながら、客席にガッツポーズでもしてやろうかと思ったのだ。

その瞬間、俺は自分が主人公ではないことを悟った。

客席の視線はキャッチボールを始めたエースに集まり、まだ諦めるなといった言葉や、頑張れといった言葉をエースに投げかけている。

ヒットを打って、流れを掴もうともしていた俺など眼中になかったのだ。

みんなの視線は主人公であるエースに集まる。

俺の努力など知らず、報われようと必死であがいて得たヒットという結果。

それさえにも、見向きもしない。

情けない、誰も俺のことなど見ていない。

悔しさよりも、馬鹿馬鹿しさが勝った。

「――」

 一瞬、こちらに何か言葉を投げられた気がした。

 声のした客席の方を頭が追いそうになるが、必死でそれを止める。

 俺に向かって声をかける奴なんかいるわけがない。

 俺はエースでもなければ四番でもないのだ。

 俺は主人公なんかではない。頑張ったところで、何も変わらないし、誰も俺のことなんか見たりはしない。

 失笑のような笑みが、にじんだ涙と共にあった。

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