第34話 知らない展開

「こんな展開知らないぞ」

 おかしい、誘拐犯の数もそうだし、逃げる馬車を追いかけるイベントなんて存在しないはずだ。

 音を頼りに肉体強化の魔法を加重に掛けて、後を追うこと数分。道が開けてきたということもあり、ようやくその姿を見つけることができた。

 しかし、中々思うように距離が詰められない。

 馬車の速度が速すぎるのだ。俺達が乗ってきたような馬車の速度ではない。逃走をするために特化しているかのようなスピードだ。

 そうなると、考えられるのは足に自慢のあるモンスターに馬車を引かせているということだ。

 さすがに、足に自信のあるモンスター相手に肉体強化の魔法だけでは追いつけないか。

「足止め、をしたら乗ってる子供達がな」

 魔法で馬車を引くモンスターを攻撃してしまうことはできる。

 しかし、馬車を引くモンスターを攻撃すれば、馬車が急停止されて子供達が馬車から投げ飛ばされてしまう可能性がある。

 そんなことをしてしまっては、元も子もない。

 そうは言っても、このまま追いかけっこをしても埒が明かない。それどころか、さらに距離を離されてしまうかもしれない。

肉体強化は筋疲労を起こさないわけではない。筋肉を使えば使っただけ、疲労は蓄積していく。

 今はまだ問題ないが、このまま追い続ければ、追いつく前に体が参ってしまうだろう。

 そうなると、何か他の魔法を使って速度を上げる必要がある。

 一次的に追い風を起こして、無理やり追い抜くか?

 いや、追い風くらいでこの距離を詰めることはできないだろう。もっと距離を一気に縮めるような力のある魔法……そうだ。

風魔法なんかよりも、多く使用している系統の魔法があった。

 無理は承知のうえ、これくらいしないと追いつかないだろう。

 イメージするのは爆風を起こすほどの大爆発。

 その爆発で、あの馬車まで移動できるくらいの特大の奴が必要だ。

「『代拿邁(ダイナマイト)』!」

 両手を斜め後ろの地面に向け、その言葉を口にした。目の前が光ったと思った瞬間、体が宙に投げられた。

「うおおぉぉぉぉ!!」

 森を一望できるほど投げ飛ばされ、体がふわりと浮いている。

 馬車の方に視線を向けると、驚いた様子でこちらに振り向いている狼系のモンスターがいた。

 昼間に見たモンスターと同じモンスター。

 飛距離的には馬車までは届かなかったが、モンスターが脚を止めたこともあり、距離をかなり詰めることができた。

転げ落ちるような着地と共に走り出したおかげもあってか、再び走り出した馬車に追いつくことができた。そのまま、肉体強化のかかった状態で地面を強く蹴って、最後の跳躍をする。

「おい、ついたぁ!!」

 なんとか走る馬車に飛び乗ることに成功した。

 息もろくに整えずに、俺は馬車に付けられている窓から中を覗き込んだ。

「おい、大丈夫か――」

 しかし、その瞬間に言葉失った。

 その馬車の中には誰も入ってはいなかった。

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