第21話 勝利の雄叫び
山での戦闘から数十分後、俺達は無事に山から下山し、セカンダリへの帰路を歩いていた。
「門の前に誰かいるな」
「さっきの冒険者達でしょ」
なぜか解放されている門。その門からは、何人もの冒険者と思われる人達が待機していた。
夜は門を閉めると言っていたのに、開けてしまっていいのだろうか。
そんなことを考えていると、何やら俺達に向かってその集団が走ってくるのが分かった。
何も悪いことはしてはいないはずなのに、集団に追いかけられると逃げたくなる衝動は何なのだろうか。
「あんちゃん達、大丈夫だったか!!」
声を大にしていち早く近づいてきた人物は、何かと俺達に気遣ってくれていたデニスだった。
何やら心配そうな顔でこちらに走ってきている。
「モンスターの巣を襲撃に行くとか言ったらしいが、そんな危険なことはしなくていい! まだ若いんだから、命は大切にしろって!!」
両の肩を強く握られ、無理をした子供を怒るような口調。
どうやら、俺達のことを本気で心配をしていてくれたらしい。
本当に気の良い冒険者だ。
「大丈夫ですよ。モンスターの群れは倒してきました」
「モンスターの群れを? いやいや、バカ言っちゃいけないぜ。大型のモンスターがいるって群れを駆け出しの冒険者が狩れるわけがない」
俺達が何か冗談を言っているとでも思ったのだろう。一瞬の間があった後、冗談をあしらわれるようにそんな事を言われた。
「にしても、ここも随分と酷くモンスターにやられたもんだな。これだけやられて生存者がいるってのも不思議なもんだが」
そう言いながら眺めた視線の先には、妹が残した斬撃の跡が残っていた。
どうやら、妹の斬撃の跡をモンスターの被害と勘違いしているらしい。
「ああ、それ妹がやった跡です」
「妹? いやいや、バカ言っちゃいけないぜ。そんなひ弱そうな女の子が何したって言うんだよ」
まぁ、信じる訳もないか。
妹をパッと見た感じ、バカ力があるようなタイプには見えないしな。
妹はその物言いに少しばかり不満があったのか、少しだけ機嫌を斜めにしたようにみえた。
「あの、それ本当です」
すると、デニスの遥か後ろにいた女性が声を上げた。
よく見てみると、門の所で助けた冒険者の一人であることが見て取れた。
「さっき報告した私達を助けてくれた人達って言うのが、彼らです。その女の子が斬撃で一撃でモンスターを倒してくれて」
「一撃? この女の子が?」
男は言っていることの意味が分かないといった様子で、素っ頓狂な声を上げた。
まぁ、その反応も納得のいくものではある。逆の立場だったら、信じられないのが普通だろうしな。
いくら見た人がいるって言っても、何かしら証拠がないことには信じてもらえない。
「あとはこれです」
「なんだこれは?」
俺は先程からずっと背負っていた布袋を男に渡した。
本当はもっと多く持ち帰ってきたかったが、分かりやすくて持ってきやすいものというと、これくらいしか持ってこれなかった。
俺から受け取ったそれを開けると、男は驚きのせいか小さな悲鳴のような声を上げた。
「これは……」
「大型のモンスターの頭です。持ち帰れる限界がこれだったので。もしも素材として高く売れるんだったら、他のモンスターの亡骸もあるから街まで運ぶのを手伝って欲しいんですけど」
デニスは俺の言葉を聞いても思考が追い付かないのか、口をパクパクと動かすだけだった。
そして、大きく喉を鳴らして唾を飲み込むと、ようやく口を開いた。
「倒したのか? あのモンスターの群れを」
「ええ、今さっき」
「そんなあっさりと……」
さすがに大型モンスターの頭を持って帰ってきたのが大きかったのか、男は何かを飲み込むように黙りこくった。
やがて他の冒険者達もその頭を覗き込み、俺達の言葉を信じたのか徐々に歓喜に満ちたような空気になった。
「……そのモンスター達の群れがいた場所に案内してくれ。疑っている訳ではないが、死体は素材として売りたい」
「もちろん。ただその分け前は俺達も欲しいんですけど……」
「もちろんだ。むしろ、あんちゃん達が倒したのだから全て持って帰ればいい」
どうやら、モンスターの群れを倒したことが心から嬉しかったのだろう。デニスは心の底から湧き出た感情を抑えきれず、そのまま形にしたような笑みをみせた。
ここまで屈託のない笑みを向けられたのは初めてかもしれない。
その抑えが効かない感情をそのままに、デニスは空気を大きく吸い込んだ。
「この者たちがモンスター達の群れを討伐してくれた! 今から新米冒険者の救出任務かから、街を襲ったモンスター達の素材の剥ぎ取り任務に変更だ!!」
「うおぉぉぉ!!!」
勝利の歓喜に満ちた雄叫びが町中に響く。暗い夜の空に、活気に満ちた冒険者たちの笑顔があった。
廃墟のような街の中に、俺の知っているセカンダリがあった。
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