第20話 裏クエスト

 モンスターの後を付けること数十分。

 肉体強化をした俺と妹は一定の距離を保ちながらモンスターを追っていた。

 モンスターなら、匂いで後ろから追う俺達に気づくかと思ったが、不思議と気づかれることはなかった。

よっぽど妹の斬撃が怖かったのか、目の前を走るモンスターはなりふり構わずに逃げている。

俺達の存在には気づいていない様子だし、このままモンスターの巣まで連れて行ってくれることだろう。

 まさか、妹のあの一撃がその後の追跡にも活きてこようとは。

「……なに?」

「いや、別に何でない」 

 ちらりと妹の方に視線だけ向けると、不満げな感情をぶつけられてしまった。

 改めて思うが、妹の武器は俺以上にチート級だ。

 俺の装備品もチート級の能力があるはずなのだが、使い方が少し複雑だったりする。イメージとそれに対する言霊で魔法を使えるということは、イメージできないものは魔法として使えないということだ。

 全ての魔法を使えるというのは、イメージできる範囲でということだろう。

使い方や想像力次第の力。

 妹のように単純で、力任せの武器の方が使いやすいかもしれない。

「モンスターが山に入ったけど」

「ようやく巣に近づいたか」

 山に入ったモンスターを追う形で、俺達も山に足を踏み入れた。

 舗装された道などはなく、しげみの中をかき分けて進んでいく。しげみの中ということもあり、すいすいと進んでいくモンスターに置いていかれそうになるが、なんとか追跡を続けること数分。

 視界が開けたと思った矢先、目の前には洞窟が広がっていた。

 その洞窟にモンスターが入っていったことから、そこが街を襲ったモンスター達の巣であることが分かる。

 俺達が武器を手に入れた洞穴の何倍もある大きさ。街を襲ってきたモンスターの数倍の大軍いると言われてもおかしくない。

「この中にモンスターの群れがいるってこと?」

「おそらくそうだとは思うが」

 こういう時に敵感知とかができればいいのだが、どんなイメージをすればいいのだろうか。

 敵感知のイメージ。一体、どんなイメージだというのだろう。

 とりあえず敵感知を諦め、俺は洞窟に入るために炎の魔法で炎の玉を造った。そして、辺りを照らして明るくする。

 そのまま洞窟に一歩踏み出そうとしたところで、俺達以外の気配があることに気づかされた。

 装備品によるステータスの一部なのかもしれない。

悪い予感がする。

辺りを一気に照らすために、手のひらの炎の大きさを数倍大きくした。

 すると、強い灯に照らされて俺達以外の数多くの影が地面に映った。それも大きさがまちまちで、人型ではないものまでいる様子。

 炎の玉の数を増やし、周囲を全体的に照らしてみる。

「おいおい」

「……」

辺りを明るくしたことで、辺り一面を見通すことができた。

街を襲撃したモンスター達の数倍の数、数倍の大きさのモンスター達が俺達の周りを囲んでいた。

洞窟の中にいると思っていたのに、わざわざ外で待ち構えていたようだ。

俺達をえさか何かだと勘違いしているのか、よだれを垂らしながらこちらを見ている。

「囲まれてたんだな」

 辺りを見渡すと、大型と思われるモンスターが四体。中型のモンスターが十体に、中型に近い大きさのモンスターが数十体。その他多勢。

 奇襲をかけるはずが、待ち伏せをされていたかのような構図になってしまった。

「大型には気をつけろよ。他のモンスターとは力が段違いだ」

 あのアリシアでさえ手を焼いたのだ。いくら俺達がチート級の装備品を持っていたとしても、油断をしたらどうなるか分からない。

「それともう一つ。戦闘中は互いの正面には入り込まないこと」

 俺の言葉を聞き終えた瞬間、妹は剣を抜きモンスター達に襲い掛かっていった。

 その後ろ姿を確認し、俺も正面のモンスター達に両手を広げる。

 これだけのモンスターの群れ。多少失敗してでも、色々と試したい技がある。

 ずっと炎系統の技のみを使用していた。それが一番想像しやすかったからだろう。

 広範囲の魔法で想像しやすいもの。炎系統以外で想像しやすい魔法は、はやり雷だろうか。

 範囲は俺の目の前一体、焼き尽くすほどの雷を天から一直線に下してくるイメージで、指を空に向けた。

 そして、その指を地面に叩きつけるようにしながら言葉を叫ぶ。

「『落雷!』」

 指先にはいつも以上にピリっとした感覚が走った。魔力量に生じてこの感覚が変わってくるのかもしれない。

 そんなことを頭の中で考えた瞬間、目の前が大きな光に包まれた。

目の前半径数十メートルが光に包まれ、その中で稲妻のような物が走ったのを確認した。

 次の瞬間、爆風と爆音を奏でる落雷が落ちてきた。そして、目の前にいたモンスターの群れを焼き尽くした。

 モンスターの群れどころか、近くにあったはずの木々さえも木っ端みじんして吹き飛ばした。

 その魔法の射程範囲にいなかったモンスターが、その威力に引くほどの威力。そして、それを放った俺までもがその威力に引いてしまっていた。

「何もここまですることなかったでしょ」

 振り返ると、同じように木々をも粉々にしている妹がこちらを振り返り、やれやれ顔でそんな事を言ってきた。

 おそらく、先程街で俺に言われたことを根に持っていたのだろう。

「斬撃で山を破壊してる奴に言われたくはないって」

「いや、あたしよりも雷の方が酷いでしょ」

 妹の目の前にいる敵が明らかに怖気づいているところを見ると、どっちもどっちのような気がするが、今はそんなことを話している場合じゃない。

「とりあえず、互いに打ち漏らしらした奴らを狩ってから話そうぜ」

 俺達は再度自分の正面にいる敵達と向かい合い、各々剣と魔法をモンスター達にぶつけるのだった。

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