第19話 初クエスト

「とりあえず、街の冒険者の救出だ」

「分かってる」

 妹は道を造るかのように俺の前を走った。当然、モンスターが襲ってくることもあるが、それを手で払うかのように妹はモンスター達を切り捨てていく。

軽やかな動きに対して、モンスターが食らうダメージは大きく、次々と真っ二つになって倒れていく。

 モンスターも恐怖があるのだろう。妹によって真っ二つになったモンスターの死骸を見せられ、少し怯んでいるように見える。

 そこにすかさず俺も参戦。先程の炎魔法を打ちこみ、モンスターの数を大幅に減らしていく。

ここまでほんの数秒。俺達はすぐに、冒険者達が奮闘している現場に立ち会うことができた。

「助けに来ましたよ!」

「え、援軍か? いや、見たことない冒険者だな」

「ええ、アリシアからの依頼でね」

「アリシアって、あのアリシアさんが?」

「ええ。それより、今生き残っている冒険者はこれだけですか?」

「ああ。俺達以外はみんな、死んじまったよ」

「……そうですか」

 助けに来たのが遅かったのか、元々戦力差がありすぎたのか。

 冒険者達を背に回し、改めて正面に目を向ける。

 一瞬は怯んでいたモンスター達は息を吹き返し、こちらに敵意を向けている。

 目の前にはモンスターの大軍。雄叫びのような声を上がるモンスターに、少し怯みそうになる。

 だが、不思議と体は動いた。先程よりも戦いやすくなったことを理解しているからだろう。

 生存している冒険者達は俺達のお後ろにいる。ということは、目の前には敵しかいないという訳だ。

 気を遣わないで戦える。

 それなら、遠慮なく一気に叩き潰すことができる。

 振り向いて冒険者達を見てみると、冒険者達の顔が青ざめていた。

 当然といえば当然だろう。仲間の冒険者が遊ばれるように殺されていったのだ。この状況で冷静を装うことの方が無理だ。

「大丈夫ですよ。ここは俺に任せてーー」

「『斬撃剣!』」

「え?」

 俺が後ろの冒険者に話しかけている途中、急に後ろで凄まじい音が聞こえた。

風が地面をはぎ取るような音と共に、その衝撃が伝わってくる。

 振り返って何が起きたのか様子を確認すると、目の前にはいたはずのモンスター達がいなくなっていた。

 その代わりに真っ赤な血の跡が残り、それを剣を持った妹が眺めていた。

 地面が酷くえぐられていることから察するに、斬撃か何かの類かと思われる。

でも、普通こんなチート技いきなり使うか?

「……何が起きた?」

「いや、伝説の剣っていうからどんなもんかと思って、本気で振ってみた」

「斬撃剣? って奴はなに?」

「いや、なんか魔法を出すときも言葉言ってたし、その感じで」

「その感じでって、やりすぎじゃね? 俺の活躍は?」

「ないけど?」

「いや、ないけどって」

「なに? 悪いの?」

 なぜか不機嫌義の妹。

 じろりと睨まれる目からは、その機嫌が傾いた理由が読み取れない。

 別に、目の前のモンスターの群れを倒したのなら何も問題はない。

それでも、主人公的な言動を取ってしまった手前、もう少し主人公らしいことをしたかったというか、何というか。

「別に悪くはないけど……あっ」

 台風が過ぎ去ったかのような光景の中、何かがむくりと立ち上がった。

 妹が切り損ねたのか、偶然モンスターが逃れたのか分からないが、一匹の四足歩行のモンスターが地面から這い上がって、こちらに背を向けて走り出した。

「逃がさない」

 妹はその後ろ姿を見るや否や、再び剣を構えた。

 その背中は、血肉の一片も残さないとでも言いたげな立ち姿だった。

「待て待て待て、サイコチックなのかお前は」

「違うから、サイコとかじゃないから。逃がすとまた街が襲われるかもしれないでしょ」

「いや、あれは逃がそう」

「本気で言ってんの?」

 じろりと睨む妹の視線から逃れるように、俺は視線を逸らした。しかし、説明を要求する視線がこちらから逸らされることはなく、こちらを睨み続けている。

「帰巣本能って奴がある」

「帰巣本能?」

「自分の巣に帰るって奴だ。今あいつを叩いた所で、しばらくすれば別の奴らがここを襲いに来る可能性がある」

 アリシアの話によると、ここを襲ってくる奴らとは別の部隊があるといっていた。

 今回襲撃してきたモンスターの群を壊滅させれば、今回よりも強い奴らが街を襲ってくる可能性が高い。そして、それをやっつければ、またそれより強い奴らが来る。

 その度に相手をしていたのではきりがない。

 複数の部隊があるのなら、本拠地に乗り込んでしまえばいい。ただそれだけだ。

「本丸を叩くぞ」

「ちょっと、待ってください! さすがに、無茶だ!」

 俺達が逃げていったモンスターを追いかけようとしていると、すかさず後ろ声をかけられた。

 振り返ってみると、先程救った冒険者達が必死の表情で俺達を止めようとしていた。

「あんたらが強いのは分かったが、モンスター達のボスは大型だと言われている。二人でどうにかできもんじゃない!」

 本気で心配をしてくれているのだろう。彼らからすれば俺達は命の恩人。それを安々と死なすわけにはいかない。それゆえの忠告だった。

しかし、ここで追うのをやめてしまったら、一時的にこの街を救っただけになる。

本当にこの街を救うためにも、ここで止まるわけにはいかない。

「大丈夫ですよ。大型を倒すために呼ばれたんで」

 そうだ。俺にはこの街を救う義務がある。

 自分の書いた小説で、その主人公が冒険に出なかったことが原因なのだ。

俺にもその責任がある。

 そして、アリシアにあんな顔をさせないためにも。

「いくぞ」

 妹にそう告げて、俺達は逃げたモンスターを追跡することにした。

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