第18話 メインヒロインのための闘い
「敵が来たぞー!!」
銅鑼のような音が響き、街に緊張が走っている。
俺達が最前列かと思ったが、俺達よりも早く戦っている連中がいるようだ。
おそらくは、ここに来るときにいた門番の連中と数人の前衛だろう。
剣を交える音の中に彼らの断末魔が聞こえてくる。それが聞こえる度に、モンスターの歓喜に満ちた鳴き声が聞こえてくる。
話によると、襲ってくるのは夜から夜中までの間らしい。一度襲われると、ある程度の期間を空けてまた襲ってくる。
一度襲った街でも、期間を空ければまた食料が集まってくるということを学んでしまったのだろう。
質が悪いことこの上ない。
夜を狙う理由も、人間達よりも少しでも有利な状況で戦うためだ。
モンスターの中には夜になると目が冴えるモンスターがいるらしい。そこも含めた計画的な犯行である。
大概、モンスターが門の城壁の一部を壊し、そこから流れ込んでくるとのこと。門がなければ、もっと多くのモンスターが街に流れ込んでくるのだろう。
そう考えると、門もしっかりと意味をなしているようだ。
建物に詳しくない俺でも分かるほどに、その門は消耗していた。
注意して見ていなかったから気づかなかったが、その門は大きな衝撃を数度くらってしまったら壊れてしまいそうだった。
毎回襲撃の度に一部が崩壊していくのだ。この門自体が本格的に壊されるまで、そう時間もないだろう。
その門の一部の施錠が解放される直前、先程合流したデニスがこちらを振り向いた。
「あんちゃん魔法使いだろ? ここは危ないから、もっと下がっておいた方がいいぞ」
そういえば、俺に後衛で参加してくれと言っていたな。さすがに、街の者ではない者を前衛に配置することには抵抗があるのだろう。
「いや、大丈夫です。アリシアに頼まれたんで」
「さっきも言ってたな。頼まれたって、何をだ?」
「モンスターを殲滅するようにって」
「え?」
そう告げて、俺は両の脚にぐっと力を入れた。
魔法の使い方は何となくだが理解できている。イメージとそれを定着させる言霊。その二つから肉体強化の魔法を使うことができた。それならば、もっと部分的に魔法を使うこともできるはずだ。
「下半身強化」
その言葉と共に両足が一瞬ピリッと痺れたような感覚を覚えた。そして、そのまま両足でジャンプをして門の上に上るように跳ねた。
下には俺を仰ぎ見る街の人々の驚いた顔があった。声も出さずに、何が起きたのか分からないといったような表情をしている。
少しの誇らしさと優越感に浸りながら、そのまま門の上に着地する。
ジャンプ一つで門の上に飛び乗る。そんな超人的な力を前に一番驚いたのは言うまでもなく俺だった。
ただその驚きに浸るまもなく、着地後に見た光景に思わず言葉を失ってしまった。
門の下には百はいるだろうモンスターの群れ。四足歩行の者もいれば、二足歩行で武器を持っている者までいる。門のすぐ下にはこの街の冒険者と思われる人達の死体の山があり、その山の間を縫うように、まだ生存している冒険者達もいる。
多勢に対して少数。精鋭ではない彼らがこの状況から生きて帰ることは奇跡に近いだろう。
「それで、どうすんの?」
突然かけられた声に振り返ると、妹が俺の隣に立っていた。
澄まし顔で、そこにいるのが当たり前かのような表情をしている。当たり前なわけがないのにだ。
「おま、どうやって上がってきたんだよ」
「壁上ってきただけだけど」
そんなことを当たり前みたいな顔で口にした。
そういえば、伝説の剣を装備している妹はその効果で肉体強化がされているんだったな。忘れていたが、今の妹は筋肉バカもびっくりするくらい脳筋な行動をとることができるのだ。
「本当なら、ここから一気に焼き払う所だったんだけどな、明らかに街の人達を巻き込む未来しか見えない」
「じゃあ、降りて戦う?」
「それが賢明だろうな。肉体強化でもかけてやろうか?」
「いや、私はいいや」
「まぁ、いらんだろうな。とりあえず、俺は自分にかけとくわ」
先程下半身に掛けたのと同じものを全身に対してかける。体全体がピリッとした感覚。その感覚から、魔法が成功したことが分かった。
「とりあえず、降りて街の冒険者を守りながら戦おう」
俺の言葉に妹が頷いたのを確認し、俺は門の上から飛び降りた。
飛び降りる最中にモンスターの群れの間に足場を造るために魔法をひとつ唱えることにした。
何がいいかと考えた結果、モンスターの目を引き付けるためにも、派手な奴が良いだろうという考えに至った。
前にモンスターに使った『火球』それよりも大きな魔法ということで、こんな命名はどうだろうか。
「『中火球』」
その言葉をトリガーとし、モンスターの群れの一部が炎と主にはじけ飛んだ。一瞬の爆発のような炎と音。その魔法によってできた足場に着地した。
さすがにモンスターの群れもそれに驚いたのか、注目が一気に俺に集まった。
炎の魔法が消えると共に、その場に降臨。
ヒーローのような派手な登場だったが、少々派手過ぎたのだろう。魔法が大きすぎたせいか、着地時に煙を多く吸い過ぎたようだ。
「ごほっ、ごほごほっ!」
「……かっこわる」
「ほっとけ」
咳き込みながらの登場。
いつの間にか隣に立っていた妹には、呆れたような反応をされてしまった。
可笑しい、かっこいいはずの登場シーンなのに全然しまらない。
妹の冷ややかな視線と共に、俺達の初クエストが始まった。
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