第17話 主人公なるものを目指して

「カッコつけすぎ」

「いてっ、しょうがないだろ」

 宿谷を後にし、ギルドまで歩いている道中妹に小突かれた。

 確かに、後から考えても恰好をつけすぎている気がする。

というか、妹の前で選んだワードセンスにしては攻めすぎている気もする。それでも、不思議とあの子の前だと恰好を付けたくなってしまうのだ。

「仕方ないんだよ。あの子は、俺の書いた小説のメインヒロインなんだから」

「あっそ」

 まるでこちらの意見を聞く素振りを見せない妹。少しだけ恰好を付けて言ってみたが、華麗に流されてしまったようだ。

「……まぁ、悪くないんじゃない?」

「え?」

「悪くはないって言ったの。ほら、前向く。助けに行ったけど、遅れて全滅してましたじゃ格好付かないでしょ。急ご」

「お、おう」

 妹にただ肯定をしてもらっただけ。

それだけのことなのに、不思議と心がいつもと違う動きをした。

 俺に背を向けて早歩きで進んでいく妹の後を追う。少しだけ、俺達の空気感が変わったような気がした。

 いつもの不機嫌な妹から出るオーラを当てられているのではない、どこか懐かしいような感覚。

 悪くない気まずさが流れている。

「……」

「……」

「……なに?」

「え、いや、何でもないけど」

 下手に意識し過ぎたせいか、徐々に妹から不機嫌なオーラが伝わってきた。せっかくギスギスしない雰囲気になったというのに、少し気を抜くといつもの雰囲気に変わってしまいそうだ。

「……さっき言ってた考えって何?」

「考え?」

「さっきアリシアさんに得意げに話してたでしょ?」

「ああ、あれか」

 さきほど部屋の中で話していた作戦。

 アリシアの現状を本人から聞いたが、あまりにも報われなさすぎている。

 復讐のために幼少期からきつい訓練に堪え、若くして地位を築くほどの実力を付けた。

 増援が来るまで必死に一人で戦い抜いたのに、剣を握ることができないほどの後遺症を負い、軍からは左遷のような扱い。

 それを知っている住民は、アリシアに対して強く当たることはない。住民達を守ろうとして、体も心も痛めたのだから。

 それでも、街がこんな状態なのにずっと部屋で酒を飲んでいる人を良くは思えない。

 関係がぎくしゃくしてしまっている状態だ。

だから、それを少しでも改善したい。

それを少しだけ解消できるくらいの小さな作戦。

「大した作戦じゃないけどな。まぁ、話を合わせてくれればいいから」

「話? 戦略とかじゃないの?」

「戦略? ああ、戦闘のフォーメーションとかの話ではない。少し別のことかな」

「ふーん、まぁいいけど。別のことに気を取られて殺されたりしないでよ」

「抜かねーよ。むしろ気合入れないとな。攻めてくるモンスターを狩るだけじゃないし」

「え、それってどういうーー」

「お、ちょうどいい所に」

「え?」

 妹の言葉を遮り、俺はその集団を指さした。

 先程ギルドで顔を合わせたデニスのいる集団。おそらく、これからクエストに向かうのだろう。ちょうど良いタイミングで合流することができた。

デニスは俺達を見つけるなり手を振り、その集団の中に招き入れてくれた。

 辺りを見渡すと、他の集団は俺達よりも後ろで陣形を作って移動していた。

どうやら、ここが先頭らしい。

「おー、来てくれたのか!」

「ええ、さっきアリシアと話してきました」

「そうか、アリシアさんとな」

 男はなんともいえぬ表情で、後味悪く言葉を切った。

 自分がこれから死ぬかもしれないのに、部屋で酒を飲んでいる騎士団の元副団長。そりゃあ、そんな顔にもなるというもの。

「アリシアに依頼されてここに来ました」

「は?」

 男は意外そうに眼を見開いた。

 もう彼女が村のために何かをしているなんて考えていないのだろう。

「アリシアさんにって、なんでまた」

「騎士団がこの街を去ってから、ずっと熱烈なアプローチを受けてまして。昔、一緒に戦ったことがあって、その時に腕を買われたみたいです」

「腕を買われた?」

「俺達はただの新米冒険者じゃないってことですよ」

 男は意味が分からなそうな顔で、首を傾げた。

 緊急要請クエスト、それが今から始まろうとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る