第13話 変わり果てた街セカンダリ
「なんか丸一日はかかるって言われた気がしたんですけど」
「歩いたらそのくらいかかるんだろ」
俺達は肉体強化魔法などをかけまくり、急ぎ足で次の街であるセカンダリに向かっていた。
綺麗な夕日が目の前に見えることから、どのくらいの時間が経過しているのか予想がつく。
それにしても、一日かかる道のりを数時間で移動できるは楽だな。
急がずにゆっくりしてもよかったのだが、それだとセカンダリに着くのが夜中になってしまう恐れもあった。
道に迷いでもしたら、異世界でいきなり野宿生活なんてことにもなりかねない。
野宿なんて現代日本で育った俺たちができるわけがない。野宿をするくらいなら急いで走った方がいい。
その結論に至り、道中を走って移動することになった。
肉体強化に体力上昇。掛けられるだけの魔法をかけて移動をした結果、移動時間をかなり削減することができた。
チート級の装備品を持っている俺達だからできる荒業だろう。
「なんか歩いてる人を抜いた時、すごい驚いた顔されてなかった?」
「そりゃあ、スカートでダッシュしてんだからな。パンツ丸見えなんだから、驚くだろ」
「はぁっ⁉」
朝から妹が上機嫌だったから、いらぬ冗談を口にしてしまった。ずっと妹の後ろを走っていたが、スカートの中が見えるなんてことはなかった。通り過ぎた人達は、単純に俺達の移動スピードに驚いていただけだったと思う。
そう、今この瞬間までは。
ちらちら見えそうだったが見えないスカートの中。しかし、急停止で舞い上がったスカートそれを妹は抑えようとしたのだ。咄嗟にスカートの前だけを。
その結果、風の逃げ場を失ったスカートは後方に風邪を逃がそうとした。それに伴い、スカートの後方だけ綺麗に舞い上がった。
後ろに立っている俺には、ガッツリと生地の素材感まで見て取れるほど綺麗に舞い上がった。
「……桃色」
「へ、変態っ」
声に少しの動揺と気恥ずかしさのようなものがあり、声の主がいつもの妹だとは思えない。
いつもの強気な妹らしからぬ態度。
そんな態度を取られてしまうと、本当にこっちらが悪いことをしてしまったような気がしてしまう。
少しのしおらしさが垣間見れ、こちらも動揺してしまう。
「いや、悪気はなかったんだよ。軽い気持ちで言っただけなんだって」
「気遣いの欠片もない。デリカシーなし」
「まぁ、否定はできないが」
「変態」
そもそも、兄妹なんだからそこまで気にしなくてもいいだろうに。
一瞬、雰囲気がいつもと違ったように思えたが、どうやら勘違いだったらしい。二回目の変態と言った妹の言葉は俺を蔑むような口調だった。
じろりとこちらに向けられる視線に気まずさを感じ、自然と妹から視線を外してしまった。
外した視線の先に、何か建物のようなものが見えた。目を凝らして見てみると、それが門のようなものであることが分かった。
「お、あれセカンダリの門じゃないか? すぐそこだし、もう少しだけ走ろうぜ」
走るといった言葉に反応してか、妹の体がピクリと反応した。
走るイコールぱんちらという認識になったのか、一段と不機嫌そうな視線をこちらに向けてくる。
微かに頬が熱を持っているように見えるが、そこを指摘できるような空気ではない。
「俺が先頭で走るから、それなら問題ないんだろ?」
「後ろ見たら殺すから」
「トーンがガチなのな」
「うるさい」
すっかり不機嫌モードに突入した妹の機嫌を戻すこともできず、俺達は再び加速してセカンダリまでの道のりを急いだ。
それから数分後、いよいよセカンダリが近づいてきたというところで、何か様子がおかしいことに気がついた。
「門が閉められている」
「何かおかしいの?」
「まだ夜という訳でもないのに、この時間で門を閉める意味がないだろ。逐一、意味もなく門番が門の開閉をするのも大変だ」
まだ時刻は夕方。
普通に栄えている街ならば、この時間で門を締め切るということをするわけがない。
それに、門の前に立っている門番が五人もいる。その門番がくつろいでいるどころか、五人もいるにも関わらず、気を引き締めているように思える。
まるで、何者かと交戦しているかのようだ。
こちらの存在に気づいたのか、いよいよ臨戦態勢に入りそうな勢い。五人が隊列を組み始めた。
「門番がなんか構えてない?」
「俺達を敵として認識しているんだろうな」
「敵?」
「ああ、敵だ」
そう。あれはただの他の街から来た人に向ける態度ではない。
張り詰めた空気はこちらまで伝わって来ており、歓迎ムードではないことは確かだ。
あの受付嬢が言っていた言葉が蘇る。
あまり良い予感はしないな。
「スピードを緩めよう。この速度は普通の人間の速度じゃないからな」
「そうね」
魔法の使用をやめて歩いて近づくこと数分。門との距離が十メートルくらいになると、門番の一人がこちらに向けて剣を構えた。
「何をしに来た!」
体育会系のような声の太さに高圧的な態度。三十代くらいの男のその態度に、一瞬だけ怯みそうになる。
しかし、妹の前ということもあり、ビビる素振りを見せる訳にもいかない。負けじと顔だけは門番から逸らさないようにした。
「セカンダリで何かあったんですか?」
「何かあったかだと? 貴様、どこの者だ」
「隣街のオリジンから」
「オリジン……駆け出しの街か。冒険者か?」
「今日、冒険者登録してきました」
「今日だと? くそっ。まともな冒険者をよこさないな」
明らかにこちらに聞こえるボリューム。さすがにこちらとしても少しカチンとくる。
お前達よりも俺たちのほうが強いぞ、とでも言いたくなるがそんな発言をすれば冗談では済まないような空気がある。
それくらい、門番の態度が殺伐としている。
とてもじゃないが、市場が発展している街には見えない。
「まぁいい。門を開けろ!」
男の一言で大きな門が開かれた。
重々しい門は活気がない街と夕日のせいか、空虚に映った。
「集合場所はギルドだ。集合時間は二十時。それまでは好きにしていろ」
えらくぶっきらぼうな物言い。その言い方に引っかかるが、それ以上に引っかかる箇所があった。
あたかもこちらが事情を知っているかのように話が進められている。そして、当然その会話には取り残されてしまっている。
「ギルドに集合? 一体何のことをーー」
「ほら、早く進め!」
こちらが取り付く間もなく、男は俺達の背中を強く押すと、門の中に俺達を放り込んだ。他の街からの旅人に対する態度ではなく、囚人でも扱うような扱いだ。
何か言い返そうと振り向いたが、俺が言葉を発するよりも早く門が閉められた。
せっかく隣街まで来たというのに、気持ちが晴れない。
「何だったんだ。今の」
「なに、ここ」
「なにって、『商業の街 セカンダリ』だよ。色々盛んだからオリジンに比べて街も綺麗でーー」
妹の驚きを隠せない態度が少し理解できないでいた。
確かに、始まりの街であるオリジンと比べると発展した街ではある、ただ、そんなカルチャーショックを受けるほど大きな違いはないはず。
それゆえに、今の妹の態度が分からなかった。
何に対してそんなに驚いているのか。
そう感じながら、妹の視線の先を追った。
商業の街セカンダリ。オリジンと比べて商業が盛んで、常に栄えているような街並み。冒険者も商人も和気あいあいと過ごし、街全体が明るい。そんなイメージをしていた。
「……なんだ、ここは」
所々半壊している家々、地面もえぐられており、街を歩く人々は殺伐としている。紛争地帯に紛れ込んでしまったかのような、戦場にでもなったかのような崩壊している街並み。
商業の街とはかけ離れた、廃れた街並みが広がっていた。
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